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2話

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「おい、ゲスクズども。
 お前ら猿の相手は私がやってやる。
 死にたくない奴はかかってこい」

「はぁあああ?!
 なんだと、この雌豚!
 お前から先に、この場で犯してやる!」

 弱すぎます。
 王国無双の戦士などとほざいていましたが、激弱です。
 もちろん半神の私と人間など比べようもないですが、私が知る人間の戦士の中でもとても弱い方です。
 いえ、訂正します。
 鍛え抜かれたアリスランド王国の騎士や徒士に比べたら、激弱です。
 旅の途中で出会った傭兵や冒険者の平均を考えれば、並の戦士です。

 グッチャ

 一撃ですね。
 キラニという名前の戦士。
 ゲスクズ兄貴分の剣を避けることなく、神速の速さで顔面を粉砕しました。
 即死した兄貴分が倒れる前に、その場にいたゲスクズ十三人を皆殺しにしました。
 ゲスクズどもは自分が死んだ事も分からないでしょう。

「大丈夫かい?
 ケガはないかい?」

「う、あ、う、お、う」

 舌がないようです。
 元々話せない病気の発音とは違います。
 話せていた人間が、舌を切られてしまった時の発音です。
 心からのお礼を言ってくれているようです。
 こういう真実のお礼を言われると、半神の部分が反応しますね。

 ただ気になるのは、この男に信じる神がいないという事です。
 この大陸では考えられない事です。
 元が不毛の地であるこの大陸では、神の力なくして実りが得られません。
 だからこそ、人は神と契約するのです。
 生贄を要求するような神であっても、すがって契約するのです。

 だから、国民は王家が契約した守護神を信じます。
 まあ、なかには神をあざむいて利を得ようとする者もいますが、そんな国民が増えるような国は遠からず滅びます。
 流民が一時的に神に護られた国にいることはありますが、そんな流民も守護神を求めていることが多いですから、契約を結んでいないと考えられている神を信じ、建国王になる事を夢見ています。
 ですがこの元勇者パーティの戦士は、何の神も信じておらず、心が空虚なのです。

「貴男は全く神を信じていませんね。
 何か事情がありそうですね。
 よければ事情を話してくれませんか?
 話してくれるのなら、その舌を再生させて、言葉を話せるよにしてあげます。
 どうですか?」

 お節介かもしれませんが、どうにも気になってしまったのです。
 身体に受けた傷が、人為的な処罰に見えます。
 理不尽な拷問でこのような身体にされたのなら、許し難い蛮行です。
 父上と母上の血が「そんな蛮行は許すな」と私に訴えかけるのです。
 それに、なんとも魅力的な漢です。
 左目は潰されていますが、残った右目が魅力的過ぎます!
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