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第一章
第44話:外交交渉
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「そうか、そういう事なら名誉を重んじて当然だ。
ショウ殿が味方を約束してくれたのなら、負ける心配もない。
正使を送って王家の不手際と勅使の無礼を糾弾しよう。
ネウストリア辺境伯はオセール伯爵の報告を聞いて即座に決断した。
こういう所が一族家臣領民に慕われるのだろう。
「ショウ殿、貴殿のお陰で誇りを貫く事ができる。
この通り、心からお礼を言う」
名誉を重んじると同時に実利もおろそかにしない。
氏素性も定かではない俺に頭を下げる器量がある。
王家と正面から戦うには、俺の助力が必要だと分かっているのだ。
「いえ、いえ、俺も命を狙われましたから、腹を立てているのは同じです。
俺が許してもサクラが絶対に許さない。
あのまま王都に入っていたら、王の頭を丸かじりしていましたよ」
「……冗談に聞こえないのだが」
辺境伯のプライベートルームで、香箱座りして寛ぐサクラに視線を向けながら、オセール伯爵の報告を思い出すようにつぶやいた。
「そうですね、冗談ではないですね。
この子はとても愛情深いですから、好きな人間が危害を加えられそうになったら、必ず報復してくれますよ」
「そんな子なら私も好かれたいな。
まあ、そんな夢の話は置いておいて、これからの事を話し合いたいのだが?」
「いいですよ、何を話し合うのです?」
「誰が何処で何をするかだ。
ショウ殿は常時ここに居てくれるのか?
それとも、ここを拠点にダンジョンや魔境に狩りに行くのか?
もしかして、他の領地にまで行かれるのか?」
「そうですね、ここはこの国の最辺境なのですよね?」
「そうだ、辺境伯の意味は知っているのだろう?」
「ええ、他国や未開地に接しているだけでなく、王都からかなり離れていて、王家の判断を待っていられないほど重要な地に封じられる、それが辺境伯ですねよね?
そのために、手柄を立てた分だけ従属爵位を自動的に手に入れられるのでしたね。
トゥール伯爵、アンジェ伯爵、オセール伯爵は以前に手に入れていた、ダンジョンを含む爵位でしたよね?
魔境の中に拠点を築ければ、ダンジョンがなくても子爵位以下を名乗れる。
それがこの国の法だと聞いていますが、間違っていますか?」
「いや、間違っていない、その通りだ。
その法に従えば、今は名乗らせる気はないが、エノー伯爵家との国境線にある関所砦を従属爵位の領都にする事も可能だ。
ショウ殿が私の家臣になってくれるのなら、方針を変えて子爵領都としてそのまま渡すが、どうだろう?」
「いや、はっきり言いますが、辺境伯の家臣になるのは嫌ですね。
今の立場なら、辺境伯が身勝手だと判断したら何時でも見捨てられます。
ですが臣従を使ったら、最低でも諫言しなければいけなくなる。
そんな面倒な事は嫌だ」
「本当に誠実だな。
中には爵位を貰っても平気で裏切る奴もいるのだぞ。
だったら冒険者のまま戦ってくれるのか?」
「そうですね、それが一番良いでしょう。
何なら俺を、国境線で出会った新たな国の王や独立領主としてくれてもいい」
「ほう、とんでもない手を考えつくものだな!
白金級冒険者の資格まで取った戦士が王となっている国と、直接領地を接している辺境伯家を敵に回したら、何時寝返られるか分からないと思わせるのか?」
「ええ、この方法を何時使うかは辺境伯に任せます。
それまでに魔境の中に家を造っておきますよ」
「さっきの話の布石だな。
どれくらいの家を建てるのだ?」
「王の別邸に相応しい規模の敷地と建物ですね。
辺境伯の城くらいにはなるでしょう」
「……先の話に真実味を見せるのなら必要な事だろうが、複雑だな」
「領主としては複雑でしょうが、此方としても七百人規模の使用人や奴隷を持つ身ですから、宿代だけでも馬鹿にならないのですよ」
「宿代だけなら良いが、他国の使者として特権を振りかざして税を払わない心算なら、話しの前提が根本的に変わって来るぞ」
「オセール伯爵から報告を受けているようですが、あんな事はしませんよ。
あれは雇われていた辺境伯の敵や中立相手だからやった事です。
同盟相手のエノー伯爵家では、ちゃんと納税していましたよ。
オセール伯爵の報告にあったでしょう?」
「ああ、その点は安心しているが、もう契約が切れてしまったからな」
「だったら、もうさっきの話を進めますか?
俺の生まれ育った村の事は報告を受けていますよね?」
「ああ、聞いている」
「だったらそこを国としてしまえばいい。
俺をその国の王族で全権大使とすればいい。
辺境伯領まで魔境を進軍してきたので、必敗確実な戦争を回避するために、不可侵条約と友好条約を結んだ事にすればいい。
全権大使だからダンジョン税まで無料にしろとは言わない」
全権大使となるなら、言葉遣いを変えなければいけない。
下手に出過ぎていると、辺境伯は兎も角、頭の悪い奴が勘違いする。
「それは、魔境で狩った物は自分の物にすると言いたいのか?」
「それは当然だろう。
我が国、我が領地と、貴国貴領との緩衝地帯が魔境だ。
それぞれ独自に狩るのが当然だ。
それに、先ほども言ったように、貴国の軍が我が領地まで来たのではない。
俺がここまで実力でやってきたのだ」
「それはそうだが、正直ショウ殿の税を当てにしていたのだ。
税収がこれまでと変わらないとなると、正直痛い。
王家に騎士団を送るにしても傭兵団を送るにしても、その分の戦力と税収が減ると思わなければならない」
「もう同盟者として普通に話させてもらうが、それは大丈夫だ。
サクラと俺が本気で狩りなどしたら、魔境の魔獣を狩り尽くしてしまう。
それでは今後の領地経営に悪影響があるだろう?
だから辺境伯とエノー女伯爵のダンジョンを活用させてもらう」
「我が家のダンジョンを活用してくれるのはありがたいが、肉しかドロップしないから保存が問題になる。
塩漬けにするにも塩自体が貴重で保存ができない。
それに、王家を敵に回したら、これまでの客に足元を見られる。
最悪の場合は肉の輸出が全てストップする」
「どうしても保存ができないというのなら、俺が肉ドロップを買い取ってやる。
その代金でエノーダンジョンのドロップや俺のドロップを買えばいい」
「ショウ殿、我が家にはネウストリア以外にも三つのダンジョンがある。
五層から十層までしかない、木片級しか稼げない小さなダンジョンだが、それでも肉以外をドロップする貴重なダンジョンだ。
エノーダンジョンだけでなく、そこでも狩りをしてくれないか?」
「木片級しか稼げないダンジョン?
肉以外もドロップすると言うが、何をドロップするのだ?」
「これまでの傾向を見ると、一番オーソドックスなバランス型だ。
ショウ殿が入った事のあるダンジョンで言えば、ヴァロワダンジョンの低階層しかないモノだな」
「木や青銅の武具に毛皮か?」
「そうだ」
「そんなものがドロップしても戦いの役には立たないだろう?
いや、消耗品の毛皮は輸入するよりも安価だな。
青銅も溶かせば色々と使い道があるな。
戦争が近く、エノー伯爵家以外が敵に回るとなると輸入が苦しくなる。
それに、エノー女伯爵が何時寝返るか分からんからな」
「そうなのだ、優秀な武器の輸入ができなくなるのが痛い。
ショウ殿の実力を知っているエノー女伯爵が裏切る事はないと思うが、その可能性を全く考慮しない訳にはいかない」
「ならば、まずはネウストリアダンジョンで狩りまくってやろう。
辺境伯に税を納める分で、俺がこれまでに貯めた武具や皮を全部渡す。
それで辺境伯家騎士団の装備が飛躍的に改善される。
その後でエノーダンジョンで狩れるだけ狩ってやる。
それを繰り返せば、両家の騎士団は王国一の武器を装備できるのではないか?
経済的にも破綻しなくてすむだろう?
肉が市場に出回り過ぎたら暴落してしまうからな」
「そうしてくれるのなら助かる。
ショウ殿が定期的に通ってくれるのなら、エノー女伯爵も裏切らないだろう」
「それと、ポルトスの女子供と犯罪者奴隷と人質に、さっき言った三つのダンジョンに潜らせればいい。
ヴァロワダンジョンタイプの十回までなら、彼らでも十分狩れる。
そうすればさっき言っていた肉以外のドロップも確保できる。
辺境伯は、傭兵団がいなくなったネウストリアダンジョンに、三つのダンジョンで稼いでいる冒険者が移動するのを恐れているのだろう?」
「ああ、その通りだ。
少しでも稼げる場所に移動するのが冒険者だ。
よほどの事がない限り、それを邪魔する事はできない。
下手に邪魔をしたら、王家に寝返られてしまう可能性もある」
「まあそれは気にしなくてもいい。
最悪の場合でも、エノー伯爵家との領境で王国軍を防いでやる」
「ありがとう、この通りだ」
辺境伯が深々と頭を下げてくれた。
★★★★★★お願いです。
6月1日から始まる第9回歴史・時代小説大賞に「山田奉行所の支配組頭と伊勢講の御師宿檜垣屋」という作品で参加しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/672198375/142732328
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ショウ殿が味方を約束してくれたのなら、負ける心配もない。
正使を送って王家の不手際と勅使の無礼を糾弾しよう。
ネウストリア辺境伯はオセール伯爵の報告を聞いて即座に決断した。
こういう所が一族家臣領民に慕われるのだろう。
「ショウ殿、貴殿のお陰で誇りを貫く事ができる。
この通り、心からお礼を言う」
名誉を重んじると同時に実利もおろそかにしない。
氏素性も定かではない俺に頭を下げる器量がある。
王家と正面から戦うには、俺の助力が必要だと分かっているのだ。
「いえ、いえ、俺も命を狙われましたから、腹を立てているのは同じです。
俺が許してもサクラが絶対に許さない。
あのまま王都に入っていたら、王の頭を丸かじりしていましたよ」
「……冗談に聞こえないのだが」
辺境伯のプライベートルームで、香箱座りして寛ぐサクラに視線を向けながら、オセール伯爵の報告を思い出すようにつぶやいた。
「そうですね、冗談ではないですね。
この子はとても愛情深いですから、好きな人間が危害を加えられそうになったら、必ず報復してくれますよ」
「そんな子なら私も好かれたいな。
まあ、そんな夢の話は置いておいて、これからの事を話し合いたいのだが?」
「いいですよ、何を話し合うのです?」
「誰が何処で何をするかだ。
ショウ殿は常時ここに居てくれるのか?
それとも、ここを拠点にダンジョンや魔境に狩りに行くのか?
もしかして、他の領地にまで行かれるのか?」
「そうですね、ここはこの国の最辺境なのですよね?」
「そうだ、辺境伯の意味は知っているのだろう?」
「ええ、他国や未開地に接しているだけでなく、王都からかなり離れていて、王家の判断を待っていられないほど重要な地に封じられる、それが辺境伯ですねよね?
そのために、手柄を立てた分だけ従属爵位を自動的に手に入れられるのでしたね。
トゥール伯爵、アンジェ伯爵、オセール伯爵は以前に手に入れていた、ダンジョンを含む爵位でしたよね?
魔境の中に拠点を築ければ、ダンジョンがなくても子爵位以下を名乗れる。
それがこの国の法だと聞いていますが、間違っていますか?」
「いや、間違っていない、その通りだ。
その法に従えば、今は名乗らせる気はないが、エノー伯爵家との国境線にある関所砦を従属爵位の領都にする事も可能だ。
ショウ殿が私の家臣になってくれるのなら、方針を変えて子爵領都としてそのまま渡すが、どうだろう?」
「いや、はっきり言いますが、辺境伯の家臣になるのは嫌ですね。
今の立場なら、辺境伯が身勝手だと判断したら何時でも見捨てられます。
ですが臣従を使ったら、最低でも諫言しなければいけなくなる。
そんな面倒な事は嫌だ」
「本当に誠実だな。
中には爵位を貰っても平気で裏切る奴もいるのだぞ。
だったら冒険者のまま戦ってくれるのか?」
「そうですね、それが一番良いでしょう。
何なら俺を、国境線で出会った新たな国の王や独立領主としてくれてもいい」
「ほう、とんでもない手を考えつくものだな!
白金級冒険者の資格まで取った戦士が王となっている国と、直接領地を接している辺境伯家を敵に回したら、何時寝返られるか分からないと思わせるのか?」
「ええ、この方法を何時使うかは辺境伯に任せます。
それまでに魔境の中に家を造っておきますよ」
「さっきの話の布石だな。
どれくらいの家を建てるのだ?」
「王の別邸に相応しい規模の敷地と建物ですね。
辺境伯の城くらいにはなるでしょう」
「……先の話に真実味を見せるのなら必要な事だろうが、複雑だな」
「領主としては複雑でしょうが、此方としても七百人規模の使用人や奴隷を持つ身ですから、宿代だけでも馬鹿にならないのですよ」
「宿代だけなら良いが、他国の使者として特権を振りかざして税を払わない心算なら、話しの前提が根本的に変わって来るぞ」
「オセール伯爵から報告を受けているようですが、あんな事はしませんよ。
あれは雇われていた辺境伯の敵や中立相手だからやった事です。
同盟相手のエノー伯爵家では、ちゃんと納税していましたよ。
オセール伯爵の報告にあったでしょう?」
「ああ、その点は安心しているが、もう契約が切れてしまったからな」
「だったら、もうさっきの話を進めますか?
俺の生まれ育った村の事は報告を受けていますよね?」
「ああ、聞いている」
「だったらそこを国としてしまえばいい。
俺をその国の王族で全権大使とすればいい。
辺境伯領まで魔境を進軍してきたので、必敗確実な戦争を回避するために、不可侵条約と友好条約を結んだ事にすればいい。
全権大使だからダンジョン税まで無料にしろとは言わない」
全権大使となるなら、言葉遣いを変えなければいけない。
下手に出過ぎていると、辺境伯は兎も角、頭の悪い奴が勘違いする。
「それは、魔境で狩った物は自分の物にすると言いたいのか?」
「それは当然だろう。
我が国、我が領地と、貴国貴領との緩衝地帯が魔境だ。
それぞれ独自に狩るのが当然だ。
それに、先ほども言ったように、貴国の軍が我が領地まで来たのではない。
俺がここまで実力でやってきたのだ」
「それはそうだが、正直ショウ殿の税を当てにしていたのだ。
税収がこれまでと変わらないとなると、正直痛い。
王家に騎士団を送るにしても傭兵団を送るにしても、その分の戦力と税収が減ると思わなければならない」
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最悪の場合は肉の輸出が全てストップする」
「どうしても保存ができないというのなら、俺が肉ドロップを買い取ってやる。
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「ショウ殿、我が家にはネウストリア以外にも三つのダンジョンがある。
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エノーダンジョンだけでなく、そこでも狩りをしてくれないか?」
「木片級しか稼げないダンジョン?
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「木や青銅の武具に毛皮か?」
「そうだ」
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それに、エノー女伯爵が何時寝返るか分からんからな」
「そうなのだ、優秀な武器の輸入ができなくなるのが痛い。
ショウ殿の実力を知っているエノー女伯爵が裏切る事はないと思うが、その可能性を全く考慮しない訳にはいかない」
「ならば、まずはネウストリアダンジョンで狩りまくってやろう。
辺境伯に税を納める分で、俺がこれまでに貯めた武具や皮を全部渡す。
それで辺境伯家騎士団の装備が飛躍的に改善される。
その後でエノーダンジョンで狩れるだけ狩ってやる。
それを繰り返せば、両家の騎士団は王国一の武器を装備できるのではないか?
経済的にも破綻しなくてすむだろう?
肉が市場に出回り過ぎたら暴落してしまうからな」
「そうしてくれるのなら助かる。
ショウ殿が定期的に通ってくれるのなら、エノー女伯爵も裏切らないだろう」
「それと、ポルトスの女子供と犯罪者奴隷と人質に、さっき言った三つのダンジョンに潜らせればいい。
ヴァロワダンジョンタイプの十回までなら、彼らでも十分狩れる。
そうすればさっき言っていた肉以外のドロップも確保できる。
辺境伯は、傭兵団がいなくなったネウストリアダンジョンに、三つのダンジョンで稼いでいる冒険者が移動するのを恐れているのだろう?」
「ああ、その通りだ。
少しでも稼げる場所に移動するのが冒険者だ。
よほどの事がない限り、それを邪魔する事はできない。
下手に邪魔をしたら、王家に寝返られてしまう可能性もある」
「まあそれは気にしなくてもいい。
最悪の場合でも、エノー伯爵家との領境で王国軍を防いでやる」
「ありがとう、この通りだ」
辺境伯が深々と頭を下げてくれた。
★★★★★★お願いです。
6月1日から始まる第9回歴史・時代小説大賞に「山田奉行所の支配組頭と伊勢講の御師宿檜垣屋」という作品で参加しています。
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