地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全

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第一章

第25話:ステーキはトンテキ。

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「昨日の白い奴は美味かったなぁ~」
「バカヤロウ、ちゃんと名前を覚えろ」
「そうだ、そうだ、ちゃんと名前を覚えてお願いしたら、また食べさせてくださるかもしれないのだぞ!」

「そんな事言われたってよぉ~、おぼえられねぇよぉ~」
「おめぇは昔から物覚えが悪かったからなぁ」
「甘やかすんじゃねぇ、ちゃんと覚えさせろ、ホワイトシチューだ、分かったな!」

「わかったよ、がんばっておぼえるよ、ほわいとしちゅ~、だな?」
「そうだ、もう二度と忘れるんじゃねぇぞ!」
「そうだぞ、ちゃんと覚えておくんだぞ」

 朝から騒がしい事だ。
 まあ、それくらいホワイトシチューのインパクトが強かったのだろう。

 この世界では、小麦粉を見た奴などほとんどいないだろうからな。
 その小麦粉をバターで炒めながら牛乳を加えて作るのだ。

 牧畜が行われていないから、家畜の乳を見た事も飲んだ事もない。
 ましてバターなど、想像もしていない食材だもんな。

「しょうさま、きょうもほわいとしゅちゅーたべられるの?」
「これ、畏れ多い事を言うのではありません!」

 今日も一番幼い子が無邪気にたずねてきた。
 パーティーリーダーの女が慌てて叱るが、期待の色が見て取れる。
 意地悪する気はないのだが、朝は忙しいので、作り置きで我慢してもらう。

「朝は色々やる事があって忙しい。
 昨日皆で作った麦粥を食べて働け」

「「「「「はい!」」」」」

 まだ俺への畏怖がなくなったわけではない。
 多少は慣れてきたようだが、恐怖感は残っている。
 俺の言葉で飛び上がるように働きだした。

 この世界では、身分と実力によって全てが決まるようだ。
 支配者である俺が朝から何をどれだけ食べても、犯罪者奴隷達に何も食べさせなくても、犯罪者奴隷達は当然の事だと思う。

 以前の俺なら、罪悪感に苦しんだだろう。
 だが、地獄で何万年も修行したので、何の痛痒も感じない。

 ただし、この世界で功徳を積まなければいけないので、最低限の事はする。
 不幸な人達に救いの手を差し伸べてあげたいという想いは、祖母の教えがよほど強かったのか、いまだに残っている。

「ミャアアアアオン」

 先ずは最優先でサクラにご飯をあげる。
 希望通り、灰魔虎、鶏肝、カリカリを合計70kgあげる。
 朝飯前に満足するまで狩りをしてきたサクラは、本当によく食べる。

 俺はパントリーから大量の麦粥が入った寸胴を取り出してやった。
 女子供、犯罪者奴隷達が喜色満面で受け取っていく。
 彼らが麦粥を温めている間に自分の朝飯を準備する。

 俺は白飯もパンも麺類もいらない。
 ひたすら肉だけ食べられればいい。
 それも、塊肉にかぶりつくのが大好きだ。

「サクラと俺が狩った肉も、どうにかしないといけないな」

 ポルトスが百人いても狩れないくらいの猛獣と魔獣を狩った。
 それも魔境や森で狩ったので、ドロップではなく一頭丸々だ。
 
「ミャアアアアオン」

 ドロップ肉は正肉、ロースばかりだ。
 それも、猪肉以外は脂がほとんどない。

 基本脂肪は嫌いなのだが、たまには食べたくなる。
 特に内臓、ホルモンが無性に食べたくなる事がある。
 丸々と太った美味しそうな牛や鹿があるのだ、食べるしかないだろう。

「砦の中には冒険者ギルドがあると聞いているから、狩った獲物の解体をしてもらってくるけれど、後はサクラとポルトスに任せるよ」

「ミャアアアアオン」

 俺も随分と身勝手になったものだ。
 間違って殺され、地獄で修業する前は常に周囲に気を配っていた。
 なのに今では、無口なポルトスの事など必要にならないと思い出しもしない。

 あんなに目立つ巨体なのに、どうやったら意識の外に置けるのか?
 自分でも不思議だが、今まで全く思い出しもしなかった。
 たぶん、今麦粥を貪り食っているように、どこかでひたすら食べていたのだろう。

 俺は熱した深鍋にサラダ油を敷いて灰魔熊のステーキを焼く。
 自分で美味しく焼ける肉の厚さは三センチまでだ。
 それ以上だと中まで上手く熱が通らなかったり表面を焦がしてしまったりする。

 亜空間魔術の一つパントリーは、時間は経過しないが中の温度は常温だ。
 取り出して直ぐに焼く事ができる。
 前もって塩胡椒しておくと旨味が逃げるので、焼く直前に塩胡椒をする。

 厚みがある肉を強火で焼いてしまうと、中に火が通る前に表面が焦げてしまう。
 だからフライパンには余熱を与えない。
 肉を入れてから弱火で焼いていく。

 弱火で焼き始めて五分ほどしたら、ステーキ肉の底面から白くなりはじめる。
 底面、下から三分の一程度白くなってきたら、ステーキ肉を裏返す。
 同じように弱火で五分ほど焼く。

 普通はここでステーキ肉をフライパンから取り出して、まな板やバットの上で休ませて、ゆっくりと中まで熱を通す。

 そして肉が冷めないうちにフライパンに戻して強火で表面を焼く。
 自分が美味しそうだと思える焼き色にする。
 一般的には強火で片面二十秒と十秒だろう。

 だが俺には亜空間魔術のパントリーがある。
 十個のカセットコンロを使って次々仕上げ直前まで焼く。
 十枚焼いたら全てのフライパンに新玉ねぎを入れて炒める。

 昨日ネットスーパー買い、犯罪者奴隷達にスライスさせておいた物だ。
 目がとても痛くなるので、女子供にはやらせない。
 ガサツな連中だから厚みがバラバラだが、食感の違いが楽しめると思えばいい。

 ただ、本当は細モヤシが食べたかった。
 しかしながら、四つもあるネットスーパースキルのどれを使っても買えなかった。
 恐らくだが、もやしは直ぐに痛むから取り扱っていないのだろう。

 細モヤシ、俺が間違って殺される前は、太もやしがもてはやされていた。
 スーパーの売り場でも太モヤシか普通サイズのモヤシばかりだった。
 細モヤシが欲しい時は、少し離れたスーパーまで行かなければいけなかった。

 食べられないとなると、無性に食べたくなるのが人情だ。
 どのような手段を使ってでも食べたくなるのが人というのもだ。
 まして今の俺には力もあれば奴隷もいる。

 だが今は旅先だから我慢するしかない。

 スライス玉ねぎの炒め物、シャキシャキ感を残した物から狐色になるまで炒めて独特の甘みと旨味を引き出したモノ。

 作っているうちに無性に食べたくなった物があるが、ここは我慢だ。
 本当に美味しく食べるためには、待て、の時間も必要だ。
 それに、今のままでは道具が足らない。

 俺はフライパンを水魔術で出した水で奇麗に洗い、もう一度サラダ油を敷いて熱し、パントリーに保管しておいたステーキを仕上げた。

 たっぷり塩胡椒を利かせたステーキは物凄く美味かった!
 時々食べる玉ねぎの炒め物もいい!
 淡路の新玉ねぎの甘味は独特で、他の追随を許さない。

 一枚目の500gステーキは塩胡椒だけだったが、二枚目は肉の匠がブレンドしたマイスターズスパイスで味付けしているので、全く飽きない。

 まだ満腹にならないので、三枚目は少し強めの味、ポークスペアリブ用のシーズニングで食べてみたが、とても美味しくペロリと食べきれた。

 犯罪者奴隷の事はどうでもいいが、女子供の健康は気になる。
 押麦の粥ならある程度は栄養バランスがとれていると思うが、野菜や果物を食べた方が良いと思う。

 その上で、俺が美味しく食べたい料理を作れるようになってくれれば、お互いのためになると思う。

 淡路の新玉ねぎ10kg2850円×100箱=28万5000円

「おい、お前ら、これを昨日と同じように皮をむいてスライスしろ」

「「「「「はい!」」」」」

 犯罪者奴隷達に命じたが、淡路の新玉ねぎだから、目の刺激が少なかったのか、それほど嫌がらない、どころか、元気よく喜んで始めやがった。

「女子供には奴隷達がスライスした物をバターで炒めてもらう。
 俺が手本を見せるから、同じ様にやってくれ」

 俺は犯罪者奴隷達が急いで玉ねぎをスライスするのを待ったりしない。
 昨日スライスさせた十キロ分が残っている。
 それを使ってお手本を見せる。

「できるだけスライス幅はそろえた方が良いのだが、今はこだわるな。
 沢山スライスするうちに上手になる。
 それは炒めるのも同じで、やっているうちに上手になるから気にするな。
 上手になるまでに失敗した物は、お前達の食事になるから大丈夫だ」

「きゃあああああ、山菜よ、山菜が食べられるのよ!」
「昨日のバターという奴を使ってもいいの?!」
「あんな見た事もない美味しいものを私達が使ってもいいの?!」
「たべていいの、これわたしがたべてもいいの?」

「静かに!
 失敗も許すし、食べても構わないが、与えられた仕事はしっかりやれ!
 サクラ、ポルトス、うれしくて騒ぐのは許すが、仕事はさせてくれ」

「ミャアアアア!」
「……」

「俺は関所に行って獲物の解体を頼んで来る」
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