地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全

文字の大きさ
上 下
13 / 82
第一章

第13話:サクサクと

しおりを挟む

 日が沈みかけ、夜を迎えようとしてい狭間の時間。

 そんな薄暗い路地を、わたしたちは歩く。

「この時間帯になると、やはり冷え込んできますねぇ」

 はー、と両手を重ねて息を吐き掛けるのは日和ひよりさんだ。

 冷たくなっていく空気を感じながら、その肩をすくめている。

「ええ、春なのでまだ寒さが残ってますね」

 ていうか、日和さんと二人きりでお出掛けだよねぇ、これぇ……!?

 わたしだけ日和さんを独占して、誰かに恨まれたりしないよねぇ……!?

 作戦の為とは言え、こんなことをしていいのでしょうか……?

「昼は制服だけでも問題ないですのに、難しい季節です」

「分かります」

 日和さんはオーバーサイズのナイロンパーカーを制服の上から羽織っている。

 定番で安定なカジュアルコーデなのに、日和さんが着ると品が加味されるのはどうしてでしょう。

 とにかく、格が違う。

「そういう花野はなのさんの恰好は寒くないのですか……?」

 こんな会話をしながら、わたしは制服のまま何も羽織っていない。

 アウターなしで外を出歩いている。

「大丈夫です、日和さんがいれば寒くないです」

「わたしは何もしてませんよ……?」

 いえ、なぜか見てるだけで体が熱くなってくるんです。

 こんな変態発言さすがに言えませんけど。


        ◇◇◇


 歩いて10分ほどで最寄りのスーパーへと到着する。

 日和さんは先を歩きながら、買い物かごに手を伸ばします。

「待ってください、日和さんっ」

「はい?」

 その手を制止させて、わたしが先に買い物かごを持つ。

「今日はわたしが荷物運びですから、これは任せて下さい」

「ですが、お店の中くらいは……」

 出ましたね。

 他人に遠慮してしまう日和さん。

 だけど今日のわたしにはそうはいきません。

「重たい物を持ってその繊細な手が傷ついたら大変です。ここはわたしに任せて下さい」

「何だか心苦しいですが」

「いえいえ、これくらいお安い御用です」

 ふっふっふ……。

 さっそく日和さんに頼ってもらってしまった。

 これはなかなか順調なのではなかろうか……?

「わたしに遠慮する必要なんてないですからね。下僕だと思ってください」

「そんな趣味はありませんが……」

 あれ、余計なことをちょっと引かれたかもしれない。

「じゃあ、執事だと思ってください」

「……そこまで頼りがいはないような」

 うぐっ……。

 モブとしての基本スペックの低さが仇になってしまった。

「とにかく、わたしは何でもしますから。困ったら言って下さいね?」

「はあ……」

 気のない返事ですが、とりあえずここは良しとしましょう。






 天ぷらに必要な食材を揃えると、全体で結構なボリュームになった。

 比例して重量もなかなかで、両手じゃないと持ち運べないくらいの重さになっている。

「大丈夫ですか?」

「これくらいへっちゃらです」

「腕が震えてるような……」

 完全に失念していたけど。

 そもそも、わたしも非力なのだった。

 もしかしたら日和さんより力が弱い可能性もあったりして……いや、それはあってはならない。

「武者震い、ですかね」

「……何かと戦っているんですか?」

 すいません。

 わたしも何を言ってるのかよく分からないです。

 とにかく、必要な材料は揃ったのでレジへと向かう。

「お会計は済ませておきますから、花野さんは食材を詰めて頂いててもいいですか?」

「わかりました!」

 日和さんから預かったエコバックを持っていく。

 ナチュラルカラーの特別主張のないデザインだけど、日和さんが持つと品が……(以下略)

「あれ?」

 荷物を一通りを詰め終わる。

 けれど、すぐに来ると思っていた日和さんの姿がなかった。

 どこにいるのかと視線を散らすと――

「え、あれ?」

 なぜか日和さんはスーパーの入り口付近にいた。

 それも、なぜか知らない人と。

「……知り合い、かな?」

 日和さんはニコニコと笑顔を振りまいている。

 振りまいているが……。

「なんか、ぎこちない?」

 明らかに愛想笑いというか、見ようによっては困っているようにも見える。

 それに所々、手を振るようなジェスチャーも垣間見える。

 何かを断っている所作、だろうか。

「……これ、まずいんじゃない?」

 危険を察知したわたしはすぐさま日和さんの元へと駆け寄った。






「ねえねえ、いいでしょ?ちょっとだけ」

「えっと、ですから――」

 二人の会話は断片的にしか聞こえない。

 でも、悠長に事情を把握しているような暇もない。

「はいはーい、わたしが通りますよぉ」

「うわっ、なにお前っ」

「花野、さん……?」

 わたしが間に割って入り込む。

 荷物も持っていることもあって、かなりの圧迫感を生んだことだろう。

「日和さん、買い物は終わりましたから帰りましょう」

「え、あ、その……」

 口ごもる日和さん。

 その視線は話し掛けてきた他人に対して注がれています。

「ちょっと待ってよ。今その子をこっちが誘ってたところで……」

「ダメです」

「は……?」

「わたしは今、この子と買い物デート中なんです!邪魔しないでもらえますかぁ!!」

 なんか素直に言う事を聞いてくれなさそうなので、こっちも思いをぶちまける事に。

「げっ……」

「え……?」

 おかげで二人ともきょとんですよ。

「じゃ、そういうわけですから。ほら行きますよ日和さん」

「え、あのっ……」

 わたしは日和さんの手を引いて足早にスーパーを後にしました。





「それで、あれは何なんですか?」

 人通りの少ない路地まで戻ってきたところで、歩調を緩め日和さんの話を聞くことにします。

「いえ、これから暇ならお茶でもどうかと誘われまして……」

 なんてテンプレートなナンパなんだ……。

「それで、日和さんは何と?」

「いえ、お気持ちは嬉しいのですが家に帰って料理を作らなければならないと……」

 うあー……。

 日和さんの優しさがよくない方向に発揮されていますね。これ。

「ダメですよ日和さん。その気がないならちゃんと断らないと」

「? 断ってはいましたが」

「“お気持ちは嬉しいのですが”とか言ったらダメです。向こうは脈ありだと勘違いしますよ」

「ですが、お声を掛けるのにも勇気が必要でしょうから……」

 あー……もう、日和さん。

「日和さん、気を遣う相手を間違ってはいけませんよ」

「……と、言いますよ?」

「日和さんは誰にでも優しいですけど、でも全然興味のない人にも時間を与える必要はないと思います。だって、そうなったら千夜さんや華凛さんのご飯はどうなるんですか?」

「それは……」

 わたしは日和さんが料理を作れと言いたいわけじゃない。

 ただ、日和さんは優先順位があるにも関わらず、突然それを曖昧にしてしまう。

 その優しさゆえの歪みは、良くない結果を生んでしまうと思う。

「断りづらかったなら、わたしを呼んで下さいよ」

「ですが、それだとわたしが花野さんを利用するような形になってしまいますから……」

 ……なるほど。

 そこも遠慮なんですね、日和さん。

 でも、それは違うと思うんです。

「日和さん、わたしに出来る事なら頼ってくれていいんです」

「そういうわけには……」

 わたしは月森三姉妹にしか興味がないから、他人に気を遣うリソースは極端に少ない。

 だから、究極的には日和さんの悩みを理解してあげることは出来ないと思う。

「日和さんが、どうしてそんなに全員に気を配るかは正直分かりません」

 でも、そんなわたしでも出来ることがあるとするなら――。

「他人にも、姉妹にも気を遣ってしまうのなら。義妹ぎまいのわたしはどうですか?」

 家族でも友人でも他人でもない、そんな曖昧なわたしなら。

「どうして、そこまで――」

「日和さんと仲良くなりたいからです」

「……はあ」

 呆気にとられたような表情の日和さん。

「何でもいいんです。助け合って、お互いの事を知っていきたいんです」

「そんな事をして、いいのでしょうか?」

「いいんです。さすがの日和さんもああいう場面では困るでしょう?わたしでもたまには役立ちますよ?」

「……」

「それに、そんなに気を遣うのでしたら、“日和さんと仲良くなりたい”っていうわたしの気持ちも汲み取ってくださいよ」

 きょとんと日和さんは目を丸くする。

「……なるほど、そうきましたか」

 くすりと日和さんは奥ゆかしく笑う。

「そういう気の遣い方は考えた事もありませんでしたが……いいですね、興味が湧いてきました」

 わたしの思いを初めて真正面から受け止めてくれた気がしました。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~

小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ) そこは、剣と魔法の世界だった。 2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。 新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・ 気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...