上 下
24 / 39
第一章

23話

しおりを挟む
「ギャァァァァ」

 情けない事だった。
 仮にも教会を護る戦闘部隊の一員が、人が殺される所を見た程度で悲鳴を上げる。
 僭称とは言え、聖堂騎士団を名乗っていると言うのにだ。
 まあ、抵抗出来ない者を嬲り殺しには出来ても、自分が殺されるかもしれない場は怖いのだろう。

 今はまだ、シャアも聖堂騎士団員を殺す気などないのに。
 当然殺気など漏らしていない。
 殺気に反応して恐怖しているのではなく、この場の惨状と、シャアの決断に恐れをなして悲鳴を上げているのだ。
 そう、シャアはいきなりリーダー仲間を斬り殺したのだ。

 聖堂騎士団との謁見を終え、聖堂騎士団員に案内され、リーダー仲間と控室に戻って来たが、ドアを開く前から、異常を感じて臨戦態勢をとっていた。
 ドアを開けて直ぐにシャアは状況を正しく把握した。
 その時には既に剣を抜き放っていた。

 記憶力と動体視力に優れたシャアは、仲間が襲い掛かってきた盗賊騎士団を逆撃し、皆殺しにした事が分かった。
 そう理解した時には、さっきまで共同して聖堂騎士団長と交渉していた、盗賊傭兵団リーダーの首を刎ねていた。
 斬り口からは噴水のように血が噴き出していた。

「理由を報告してくれ」

 沈着冷静はシャアは、一切の感情を表に出さずに、サブリーダーのクロードに戦いになった理由を説明させた。
 シャアには大体の事が理解出来ていたが、控室にいなかったリーダー達や、聖堂騎士団員には理解不能だった。
 だから正当性を主張する為に、クロードに報告させたのだ。

 クロードの説明は理路整然としていた。
 他のリーダーは勿論、聖堂騎士団員も異論をはさむ余地がなかった。
 斬り飛ばされた女誑しの腕が証拠として出され、毒針が確認された。
 シャア組に恐怖していた他の勇者組も、我先にとシャア組の正当性を訴え、シャア組に眼を付けられないように保身に走った。

 案内を務めていた聖堂騎士団員達は慌てふためいた。
 当然だろう。
 せっかく集めた勇者候補が、魔女と戦う前に百人以上死んでしまったのだ。
 急いで聖堂騎士団長に知らせたが、どうなるモノでもない。
 事情も殺したシャア組の方に正当性がある。

 聖堂騎士団長は内心怒りに震えていた。
 だがそれを表に出すほど若くも愚かでもなかった。
 たった五人で百人を皆殺しにする強者を処罰など出来ない。
 処罰出来ない以上、怒りを露にするわけにはいかない。
 だがらグッと飲み込んだ。

 一方シャアは予定変更を決断していた。
 今なら全勇者候補を支配下に置いて動くことが出来る。
 だが欲得尽くでこの国に来た者達が、シャア組の正義感を快く思うはずがない。
 無理に正義感を押し付ければ、必ず逆恨みして、隙を見て逆襲に転じる。
 だから出来るだけ早く教会の支配下から逃げ出す事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたとの離縁を目指します

たろ
恋愛
いろんな夫婦の離縁にまつわる話を書きました。 ちょっと切ない夫婦の恋のお話。 離縁する夫婦……しない夫婦……のお話。 明るい離縁の話に暗い離縁のお話。 短編なのでよかったら読んでみてください。

追放された公爵令嬢の華麗なる逆襲

 (笑)
恋愛
クリスティーナ・ベルフォードは、名門貴族の令嬢として誇り高く生きていたが、突然の婚約破棄とともに人生が一変する。過去の自分を捨て、新たな道を歩む決意をした彼女は、辺境の地で事業を立ち上げ、次第に成功を収めていく。しかし、彼女の前に立ちはだかるのは、かつての婚約者や貴族社会の陰謀。彼女は自らの信念と努力で困難を乗り越え、自分の未来を切り開いていく。

AIアイドル活動日誌

ジャン・幸田
キャラ文芸
 AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!  そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。

どうぞお好きに

音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。 王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

悪役令嬢の選んだ末路〜嫌われ妻は愛する夫に復讐を果たします〜

ノルジャン
恋愛
モアーナは夫のオセローに嫌われていた。夫には白い結婚を続け、お互いに愛人をつくろうと言われたのだった。それでも彼女はオセローを愛していた。だが自尊心の強いモアーナはやはり結婚生活に耐えられず、愛してくれない夫に復讐を果たす。その復讐とは……? ※残酷な描写あり ⭐︎6話からマリー、9話目からオセロー視点で完結。 ムーンライトノベルズ からの転載です。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

処理中です...