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第一章

8話

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 村の出入りが完全に封鎖された。
 元々行商人以外出入りしない寒村だ。
 多くの人が出入りするのは、徴税時期だけだ。
 村の異変に気付く者などいない。
 いや、村外の者は気が付いていた。
 信じられないほど大きな狼が道を塞いでいるのだ。
 だから村の外からは誰も来なかった。

 村の中でも、投石に続いて狼の鳴き声が響きだした。
 昼夜関係なく、恐ろしい鳴き声がするのだ。
 誰も家から出れなくなった。
 畑に行くのも恐ろしかった。
 本当に狼なのか?
 奈落の底から現れた魔獣ではないのか?

 直ぐに飢える訳ではなかった。
 完全自給自足の寒村だ。
 収穫時期までは貧しくとも食べ繋げる。
 だが、畑仕事をしなければ、来年は飢えで死んでしまう。
 恐ろしい鳴き声に抗して、畑仕事をしなければいけない。
 だが、何時襲われるかと言う恐怖で、一人で畑になどいけない。

 オリヴィアの家族を追い出すのに一役買った、力自慢の村人が数人いた。
 最初彼らは狼の鳴き声を無視しようとした。
 だが日に日に他の村人の視線がきつくなった。
 一度二度三度と殴って黙らせた。
 視線は一層厳しくなった。
 村長や村役人の決定で、狼退治に行かされることになった。

 最初は暴力で黙らせようとした。
 だが、村の総意には逆らいきれなかった。
 家族からも懇願された。
 起きている間は逆らえても、寝ている間に家族に殺されるかもしれない。
 褒美も提示された。
 狼を狩れば税を低くしてくれると言うのだ。

 五人の男達は、手に剣を持って畑に向かった。
 鈍らだが剣は剣だ。
 動物を狩ったことがない訳ではない。
 狼を退治したこともある。
 魔獣でなければ何とかなる。
 そう信じて畑に向かった。

 だが、彼らの希望などかなえられはずがない。
 散々人を暴力で従わせてきたのだ。
 今度は暴力で従わせられる番だ。
 いや、死ぬ時が来たのだ。
 それも、とびっきり酷い方法で。

 オリヴィアの家族は石を投げつけられ村を追われた。
 だがら殺されるのも、石投げで殺されるべきだ。
 魔獣に取り付いている怨念はそう考えた。
 だが一撃で楽に死なせはしない。
 力を加減して、肉を潰し、骨を砕く程度の強さで投げた。

「痛てぇぇぇ。
 痛いぇぇぇ。
 許してくれぇ。
 助けてくれぇ。
 勘弁してくれぇ」

 男達は泣き叫んで許しを請うた。
 だが許されるはずがないのだ。
 自分達のやった事の報いを受ける時が来たのだ。
 一人の男は右の肩の骨が砕かれた。
 もう一人の男は左の膝を砕かれた。

「ウォォォォン。
 グギャォォォォ。
 ガァォォォォォ。
 キィィィン。
 キャゴォォォ」

 村の周囲から、今まで誰も聞いた事のない雄叫びが聞こえた。
 喜ぶように。
 村人は悟った。
 男達が殺された事を。
 次は自分達だと言う事を。
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