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1章

9話

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「なんだと!
 シンデレラ殿が駆落ちしたと言うのか?!
 信じられん。
 信じられんぞ!
 王太子殿下からは、ボニファ公爵が罠を仕掛けたと聞いておるぞ!」

 シンデレラの婚約者であるグレアム将軍は、アモロ子爵家からの使者を相手に激怒していた。

「証拠はございますか?
 グレアム将軍閣下」

「証拠だと?
 俺の前で、何度も何度もシンデレラ殿を虐待し、殺そうとまでしたではないか!」

 アモロ子爵家からの使者は、厚顔無恥の輩だった。
 元々ザンピエ公爵家からアモロ子爵家に送り込まれた者だ。
 シンデレラの事など何とも思っていないのだ。

「誤解でございます。
 全てはアーダ様の親心でございます。
 幼い頃にお母上様をなくされ、貴族令嬢としての嗜みが不足しているシンデレラに、子爵家に相応しい振る舞いが出来るように、躾けなさっておられたのでございます」

「しらじらし事を言うな!
 既に王太子殿下から全てのご報告を受けているのだ。
 いまさら誤魔化しても無駄だ!」

「誤魔化してなどおりません。
 確かに公爵閣下がホストを務められた舞踏会において、シンデレラを罠に嵌めようとした者はおりました。
 ですがそのコバーン男爵家のアルヴィン男爵は、公爵閣下の手でその場で斬り殺され、男爵家も取り潰しになりました。
 手伝った令嬢たちも、公爵閣下の手がその場で斬り殺しました。
 公爵閣下もアーダ様も関係ございません」

「トカゲの尻尾切り。
 口封じに殺したのであろう」

「そんな事はございません。
 それとも何か証拠がございますか?」

 どう考えてもザンピエ公爵家の策謀だ。
 王位を狙うボニファ公爵がブルーノ王太子殿下と争い、互いに謀略を駆使して、多くの貴族士族を味方に引き込もうとしている。
 だが俺は違う。
 王家王国に忠誠を誓ってはいるが、邪悪下劣な個人に忠誠を誓っている訳ではない。

「証拠などどうでもよい。
 武人として、ブルーノ王太子殿下であろうとボニファ公爵閣下であろうと、民を虐げる者に仕える気はない!」

「それは、ビアータ様との婚約を拒否されると言う事ですか?
 アモロ子爵家との婚約を無効にされると言われるのですか?!
 それはアーダ様のご実家である、ザンピエ公爵家に恥をかかせるという事ですよ!」

「俺が婚約したのは、シンデレラ殿個人だ。
 アモロ子爵家と婚約したのではない」

「その婚約は、シンデレラの駆落ちで無効になりました。
 いえ、これは言葉を間違いました。
 申し訳ありません。
 我がアモロ子爵家の粗相により、破棄させていただきました。
 何者とも分からぬ下郎と駆落ちしたシンデレラは、アモロ子爵家の名誉を守るために、ご当主様が勘当されました」

「認めんぞ。
 俺は認めん。
 アモロ子爵家が勘当して、シンデレラ殿が子爵家令嬢でなくなろうとも、俺の婚約者はシンデレラ殿だけだ!」
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