上 下
6 / 6

初恋で結ばれる

しおりを挟む
 第一王子は四人から全てを聞きだした。
 グレースは後宮から逃げ出そうとしたが、逃げ出せるはずもない。
 簡単に捕まり、全てを自供させられた。
 女しかいない後宮で、女だけが行う拷問だ。
 どれほど情け容赦がなく、残虐非道なのか、女性なら想像できるだろう。

 自供を引き出せば後は簡単だった。
 単なる部屋子への殺人未遂ではすまなくなったのだ。
 オリビアを殺そうとした事は、お手付きになったグレースが、訪れなくなった国王に対して意趣遺恨を持っていたことになるのだ。
 しかもオリビアは正妃の部屋子なのだ。
 正妃に喧嘩を売ったことになるのだ。

 しかも方法が悪すぎた。
 第一王子の部屋に不法潜入したのだ。
 これを第一王子ジェームスは、自分への殺人未遂だと断じたのだ。
 強引なこじつけではあるが、絶対にないとも言えなかった。
 一応グレースは国王のお手付きになっている。
 寵愛を取り戻して男児を生み、先に生まれた王子全てを殺せば、自分の孫を王位につける事も不可能ではないのだ。

 グレースとメクスバラ伯爵は必至で抗弁したが、許されなかった。
 二人とも処刑され、伯爵家は取り潰された。
 領地は第一王子ジェームスに与えられることになったが、ジェームスはそれを辞退し、その代わりオリビアが欲しいと言いだした。
 国王も正妃も最初は難色を示したが、あまりにジェームスが真剣に頼むので、しかたなく許すことにした。

 国王も正妃も軽く考えていた。
 ジェームスくらいの年頃なら、初恋に夢中になっても、直ぐに気持ちが離れる。
 そう考えていたのだが、ジェームスの心は生涯変わらなかった。
 死ぬまでオリビアただひとりを愛し続けた。
 
 後宮にいる事が許されない歳になったジェームスには、直ぐに宮が与えられたが、その宮には新たな役目が創られた。
 ジェームス宮の奥、後宮の庭全てを取り仕切る、上級女官の役目だ。
 当然それはオリビアに与えられた。
 親の身分的にありえない事だったが、表と奥では家格の評価は変わる。
 反対した者がいないわけではなかった、反対した者はジェームス宮から追放された。

 年頃となり、二人は自然と結ばれた。
 若い二人だ、日に何度も愛しあうことになる。
 当然だが、オリビアが身籠った。
 国王と正妃は苦悶した。
 身分の低いオリビアがジェームスの長男を生んだのだ。
 将来の王位継承がもめるのが目に見えていた。
 二人が厳しい処置を取ろうか逡巡している間に、ジェームスの正妃に自分の娘を送り込もうとしていた某侯爵が刺客を送った。

 だがそうなる事をジェームスは予測しており、簡単に捕まえて自白させた。
 それからのジェームスの行動は激烈であった。
 自分を殺そうとしたと断じで、このを騎士団を率いて某侯爵家を攻め滅ぼしたのだ。

 国王と正妃は恐怖した。
 その事を報告に来た時のジェームスの眼が、オリビアに手をだしたら親でも殺すと、雄弁に物語っていた。
 オリビア以外の事は、この国始まって以来の名君候補と呼ばれているジェームスを、殺す決断もできなかった。

 その後もジェームスとオリビアの仲を裂こうとする者は後を絶たなかったが、その全てをジェームスは跳ね除け、オリビアだけを愛し続けた。
 オリビアは生涯に政治向きの事には口出しせず、花を育てて暮らした。
 二人は六男五女をもうけて幸せな一生を送った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

拝啓、婚約者さま

松本雀
恋愛
――静かな藤棚の令嬢ウィステリア。 婚約破棄を告げられた令嬢は、静かに「そう」と答えるだけだった。その冷静な一言が、後に彼の心を深く抉ることになるとも知らずに。

悪役令嬢は王子の溺愛を終わらせない~ヒロイン遭遇で婚約破棄されたくないので、彼と国外に脱出します~

可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。第二王子の婚約者として溺愛されて暮らしていたが、ヒロインが登場。第二王子はヒロインと幼なじみで、シナリオでは真っ先に攻略されてしまう。婚約破棄されて幸せを手放したくない私は、彼に言った。「ハネムーン(国外脱出)したいです」。私の願いなら何でも叶えてくれる彼は、すぐに手際を整えてくれた。幸せなハネムーンを楽しんでいると、ヒロインの影が追ってきて……※ハッピーエンドです※

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

プロポーズされたと思ったら、翌日には結婚式をすることになりました。

ほったげな
恋愛
パーティーで出会ったレイフ様と親しくなった私。ある日、レイフ様にプロポーズされ、その翌日には結婚式を行うことに。幸せな結婚生活を送っているものの、レイフ様の姉に嫌がらせをされて?!

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

婚約破棄された悪役令嬢は聖女の力を解放して自由に生きます!

白雪みなと
恋愛
王子に婚約破棄され、没落してしまった元公爵令嬢のリタ・ホーリィ。 その瞬間、自分が乙女ゲームの世界にいて、なおかつ悪役令嬢であることを思い出すリタ。 でも、リタにはゲームにはないはずの聖女の能力を宿しており――?

【コミカライズ決定】無敵のシスコン三兄弟は、断罪を力技で回避する。

櫻野くるみ
恋愛
地味な侯爵令嬢のエミリーには、「麗しのシスコン三兄弟」と呼ばれる兄たちと弟がいる。 才能溢れる彼らがエミリーを溺愛していることは有名なのにも関わらず、エミリーのポンコツ婚約者は夜会で婚約破棄と断罪を目論む……。 敵にもならないポンコツな婚約者相手に、力技であっという間に断罪を回避した上、断罪返しまで行い、重すぎる溺愛を見せつける三兄弟のお話。 新たな婚約者候補も…。 ざまぁは少しだけです。 短編 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...