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55話

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「オウエン、アレクサンダーを抱いていてくれる?」

「ああ、任せてくれ」

「それはいけません、ノドン男爵閣下、ミルド男爵閣下。
 それでは私達乳母の役目がなくなってしまいます」

「そうでございます、ノドン男爵閣下、ミルド男爵閣下。
 私達にも役目を果たさせてください」

 二人の乳母が口々に騒ぎ出します。
 かわいいアレクサンダーとスライダイを抱きたいのでしょうが、でも、そうはいきません。
 私も忙しくて、いつも抱いてあげられないのです。
 それはオウエンも同じなのです。
 時間のある時には、二人にタップリと愛情を注いであげないといけません。

「分かっていますよ。
 でもそれは夜にお願いしますね。
 政務が忙しくて、夜はどうしても眠ってしまいます。
 せめて政務の合間の昼くらいは、私達も親らしい事をしたいのですよ」

「そうだぞ、二人とも。
 親の愛情が不足すると、ろくでもない人間に育ってしまう。
 そんな当主の貴族家に仕えたくはないであろう?
 今は私達に任せておけ。
 これも男爵家の当主教育だ」

「「まあ!」」

「ふっふっふっふっ。
 そのような当主教育は初めて聞きました」

「はい、わたくしも初めて聞きました。
 でも、そうでございますね。
 わたくしもスライダイ様には、立派な男爵閣下になっていただきたいです。
 でも、お疲れになったり用事ができたら言ってくださいませ。
 直ぐに変わらせていただきます」

「はい、わたくしもそうさせていただきます」

 二人の乳母が口々に賛同してくれます。
 ゴードン公爵家から別れた当初からついてきてくれた古参の忠臣です。
 まあ、歴史が浅すぎるくらい浅いノドン男爵家では、古参も新参も大した違いはないのですが、ゴードン公爵家と和解する前についてきてくれた家臣と、和解してからゴードン公爵家から送られてきた家臣では、親密感も信頼度も全く違います。

 アーレンが殺されてから半年、何事もなく過ぎています。
 隣国が攻め込んでくると思ったのですが、そんな非常事態にはなりませんでした。
 兄上の話では、ノドン男爵家が荒地に自由戦士ギルド本部を誘致したことが、途轍もない影響を近隣諸国に与えたのだそうです。

 自由戦士ギルドが本部を移転させるほど信頼されているという事で、ゴードン公爵家が三大侯爵家を排斥した事は、悪事ではなく正義だとお墨付きを与えたことになるのだそうです。
 そんなゴードン公爵家を悪人だと言って、三大侯爵家に味方してハワード王国に攻め込むのは、とても外聞が悪いのだそうです。
 お陰でとても落ち着いた日常を送ることができました。
 何の心配もなく、スライダイを生むことができました。
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