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38話

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「やあ、よく招待してくれたね。
 まずは妊娠おめでとう。
 無事に生まれてくれたら、私の甥か姪になる。
 ゴードン公爵家としても、信頼できる有力な分家は多いほどいい。
 また男爵位を購入したいのなら、王家と交渉させてもらうよ」

 兄のレイズ卿が、屋敷に入ってくるなり話しかけてきました。
 今迄のレイズ卿からは考えられない口数の多さです。
 なにか腹に一物あるのでしょうか?
 私に対する怒りや不満があるのでしょうか?
 妊娠中の私の体調を心配して、ゴードン公爵邸に呼び出すのではなく、ノドン男爵邸に来てくれたので、悪意はないと信じたいのですが。

「ありがとうございます、レイズ卿
 私も無事に生まれてくれることを、心から願っています。
 オリビアが無事に取り上げてみせると約束してくれていますし、事前に用意できる薬もすべて揃えました」

「そうか、そうか、そうか。
 それなら安心だ。
 ノヴァ嬢が作る薬の薬効は別格だからな。
 それで、使者の話では、腕利きの武官家臣が欲しいそうだが」

「はい、身の危険を感じるようになりました。
 私だけの事なら、命を捨ててでも誇りを守るのですが、子供ができた以上、誇りよりも子供の命を大切にすることにしました」

「なるほど、よくわかったよ。
 だったら私もお腹の子の命を大切にさせてもらおう。
 だから何を話しても驚かないで欲しい。
 ゴードン公爵家に優秀な密偵達がいることは、ノヴァ嬢もオウエンも知っているだろう?」

 兄上は何を言っているのでしょうか?
 お腹の子に悪影響が及ぶほど、私が驚くと言っているのですね。 
 それほどの情報を、密偵達から聞いていると予告しているのですね。
 一緒に聞いているオウエンの表情も、とても厳しくなっています。
 兄上の護衛役騎士も、不測の事態に備えて臨戦態勢をとっています。

「そんなに緊張するな。
 今のゴードン公爵家は、この国で一番権力のある貴族家だ。
 それだけに敵も多い。
 父や俺の弱みを抑えようと色々仕掛けてくる。
 ノヴァ嬢の事もその一つだ。
 喧嘩別れしたと言っても親兄妹だ。
 押さえれば脅しの材料に使えるかもしれないし、家督争いに使えるかもしれない。
 ゴードン公爵家も、正面からノドン男爵と争って力を弱めたくないし、敵に利用されるのもいやだ。
 だから密偵に見守らせ調べさせていたのだ」

「ゴードン公爵家が私達を見守ってくれていたというのですか?。
 全てを調べていたというのですか?
 私達の事は、すべて知っているというのですか?」

「ああ、知っているよ。
 だからもう何を話しても驚かないでくれ。
 お腹の子がビックリしないように、覚悟していてくれ」

「分かりました。
 何を言われても驚きません!」
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