上 下
6 / 71

5話

しおりを挟む
「ノヴァ様!
 やっと会えました!
 お久しぶりです、ノヴァ様!」

「まあ、まあ、まあ!
 なぜここに来たのです、ダグラス?」

「なぜって、ノヴァ様に会いたかったからじゃないですか」

 ダグラスが満面の笑みを浮かべて店に入ってきました。
 正直困りました。
 絶望とまでは言いませんが、かなり危険です。
 私の居場所を探し当てた王太子から逃げ出して半年です。
 ようやく新しい薬店も軌道に乗ってきたところです。
 その店を捨ててまた逃げ出さなければいけません。

 ダグラスはまだ子供の面が多い微妙な年齢です。
 私の事を慕ってくれているのは知っています。
 命の恩人というだけでなく、年上の女性として憧れてくれています。
 憧憬という表現が一番相応しいのかもしれません。
 ダグラスの初恋なのかもしれません。
 この年頃の男の子ならよくある熱病のようなモノです。
 周りの何も見えず、コーラル家に残された手がかりを使って、血眼になって私の居場所を探し出したのでしょう。

「ダグラス。
 それが私を危険にさらす事だと分かっている?」

「え?
 なんで僕が会いに来たらノヴァ様が危険になるの?」

「私の事を王太子が狙っているからよ。
 相手は一国の王太子よ。
 優秀な王家の密偵を総動員できるのよ。
 私なら、必ずコーラル家の人を見張らせるわ。
 案の定ダグラスはここに来たわ。
 今頃この場所は王太子に伝えられているわ」

「そんな!
 僕はノヴァ様に迷惑をかける気なんてなかったんだ!
 ノヴァ様の役に立ちたかっただけなんだ!
 ノヴァ様を助けたかったんだ……
 ……ノヴァ様に会いたくて、ノヴァ様の側にいたくて……
 それだけなんだよ!
 本当なんだよ!
 知らなかったんだよ!」

「いいのよ。
 分かっているわ。
 だけどもゆっくり話している時間もないわ。
 私はこのまま逃げるから、ダグラスには後始末をお願いね。
 お母さん、オウエン、このまま逃げるわよ」

「はい、お嬢、いえ、ノヴァ」

「その時間はないようです、お嬢様」

 オリビアは直ぐに逃げる決断をしてくれましたがオウエンが厳し事を口にします。
 もう敵に包囲されているのでしょうか?
 オウエンが斬り抜けられないような強敵がいるのでしょうか?
 大人数に取り囲まれているのでしょうか?

「ふ、ふ、ふ、ふ。
 逃亡生活でも腕は鈍っていないようだな、オウエン」

 そう言いながら、ダグラスの後から店に入ってきたのは、ハンター男爵家のデイヴィッドです。
 意外でした。
 デイヴィッドは実家に近い騎士です。
 私を追放した実家に近いデイヴィッドが追ってきたという事は、王太子と父が手を結んだという事でしょうか?

「今さら何の用だ、デイヴィッド。
 お嬢様の幸せを邪魔するのなら、お前であろうと殺すぞ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

妹に婚約者を取られましたが、辺境で楽しく暮らしています

今川幸乃
ファンタジー
おいしい物が大好きのオルロンド公爵家の長女エリサは次期国王と目されているケビン王子と婚約していた。 それを羨んだ妹のシシリーは悪い噂を流してエリサとケビンの婚約を破棄させ、自分がケビンの婚約者に収まる。 そしてエリサは田舎・偏屈・頑固と恐れられる辺境伯レリクスの元に厄介払い同然で嫁に出された。 当初は見向きもされないエリサだったが、次第に料理や作物の知識で周囲を驚かせていく。 一方、ケビンは極度のナルシストで、エリサはそれを知っていたからこそシシリーにケビンを譲らなかった。ケビンと結ばれたシシリーはすぐに彼の本性を知り、後悔することになる。

そちらから縁を切ったのですから、今更頼らないでください。

木山楽斗
恋愛
伯爵家の令嬢であるアルシエラは、高慢な妹とそんな妹ばかり溺愛する両親に嫌気が差していた。 ある時、彼女は父親から縁を切ることを言い渡される。アルシエラのとある行動が気に食わなかった妹が、父親にそう進言したのだ。 不安はあったが、アルシエラはそれを受け入れた。 ある程度の年齢に達した時から、彼女は実家に見切りをつけるべきだと思っていた。丁度いい機会だったので、それを実行することにしたのだ。 伯爵家を追い出された彼女は、商人としての生活を送っていた。 偶然にも人脈に恵まれた彼女は、着々と力を付けていき、見事成功を収めたのである。 そんな彼女の元に、実家から申し出があった。 事情があって窮地に立たされた伯爵家が、支援を求めてきたのだ。 しかしながら、そんな義理がある訳がなかった。 アルシエラは、両親や妹からの申し出をきっぱりと断ったのである。 ※8話からの登場人物の名前を変更しました。1話の登場人物とは別人です。(バーキントン→ラナキンス)

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

王妃候補に選ばれましたが、全く興味の無い私は野次馬に徹しようと思います

真理亜
恋愛
 ここセントール王国には一風変わった習慣がある。  それは王太子の婚約者、ひいては未来の王妃となるべく女性を決める際、何人かの選ばれし令嬢達を一同に集めて合宿のようなものを行い、合宿中の振る舞いや人間関係に対する対応などを見極めて判断を下すというものである。  要は選考試験のようなものだが、かといってこれといった課題を出されるという訳では無い。あくまでも令嬢達の普段の行動を観察し、記録し、判定を下すというシステムになっている。  そんな選ばれた令嬢達が集まる中、一人だけ場違いな令嬢が居た。彼女は他の候補者達の観察に徹しているのだ。どうしてそんなことをしているのかと尋ねられたその令嬢は、 「お構い無く。私は王妃の座なんか微塵も興味有りませんので。ここには野次馬として来ました」  と言い放ったのだった。  少し長くなって来たので短編から長編に変更しました。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...