77 / 78
第一章
第77話:怪力乱神を語らず
しおりを挟む
「エドアルド、わたくしや子供の事は心配ありません。
何時も口にされているではありませんか。
『神などいない、神がいるのならこの世の中はもっとよくなっている』
存在しない神を語る神官など、いつも通り神明裁判にかけて厳罰に処せられてください」
俺の迷いをマリアが断ち切ってくれた、情けない話だ。
本来ならば、俺が断固として行わなければいけないのに、躊躇してしまった。
俺の失敗を攻撃しようとしている貴族や騎士はかなり多い。
躊躇したのは、敵対している貴族や騎士を恐れたのではなく、マリアと子供の事を想ってだが、即断できなかったという意味では同じだ。
処罰する事のできる理由のある者は全て厳罰に処したが、上手く処罰を免れて機会をうかがっている者がいる。
そんな者にとって、今回の逆子と神官の登場は絶好の機会なのだ。
よく考えれば、今回逆子の情報が漏れたのも、神官が潜伏できていたのも、俺を恨んでいる貴族や騎士がやった可能性が一番高い。
何も俺とマリアの後宮に入らなくても情報を手に入れる事ができる。
フェデリコ国王陛下やマルティナ王妃殿下には逆子の事を報告している。
マリアの両親で俺の義親である二人に逆子を隠しておく事などできない。
お二人の侍従や侍女から、敵対貴族に情報が流れたと考えるのが妥当だ。
この程度の事も分からなくなるほど、俺は狼狽していたのだ。
俺だけではなく、マリアも、軍師役のソフィアをはじめとした侍女達も、マッティーア侍従長をはじめとした侍従達もだ。
本当に大切なモノの命が掛かっている時には、冷静ではいられなくなり、いつも通りの能力を発揮できない。
普段は分かっている事なのに、自分や配下の命がかかっている戦場でも忘れた事などないのに、今回に限って全て忘れてしまっていた。
「分かったよ、マリア、一番不安で、一番何かに縋りたいはずのマリアが、俺のために差し出された悪魔の手を振り払ってくれたのだ。
俺が父親の勇気を見せない訳にはいかない。
ソフィア、神の奇跡で逆子を治すと言ってきた神官に神明裁判をかける。
そうマッティーア侍従長に伝令を送り、急いで公開の場を設けさせろ」
「承りました」
マリアが背中を押してくれたお陰で、俺は決断する事ができた。
だがそれでも、無心で、何の疑いもなく神明裁判ができたわけではない。
内心では、もしかしたら俺の考えが間違っているのではないかという思いもあったが、マリアの言葉を支えに表情一つ変えずに神明裁判を行った。
「ほんとに宜しいのですか、エドアルド公王殿下。
神の代弁者たる大神官の私を裁きに掛けたりしたら、神罰が下りますよ。
人間ごときが神の御意志に疑いを持つなど、畏れ多すぎる事なのですよ。
マリア王太女殿下と子供が死んでしまうのですよ。
さあ、今からでも遅くはありません。
不遜な考えは捨てて、大いなる神の御加護に縋りなさい」
このような状況で名乗り出てきた神官だけあって、ギリギリまで表情一つ変える事なく神明裁判に臨む度胸はあった。
あるいは狂信者で、本当に自分の事を神の代弁者だと思っているのかもしれない。
そうでなければ、神の代弁者を演じさせるために、生まれた時から隔離して常識を何も知らない阿呆に育てたかだ。
「やめろ、止めるのだ、不信人者、神罰が下るぞ、神が御許しにならないぞ」
阿保に育てられた被害者なら可哀想だと思っていたのだが、どうやら欲の為なら命すらかけられる極悪人だったようだ。
最初に赤々と焼けた鉄を持たせようとしたら、罵詈雑言の数々を口にし出した。
最後の最後に恐怖の表情を浮かべてくれたので、罪悪感を持たないですんだ。
「ギャアアアアア、背信者め、神を恐れぬ悪魔の化身め」
焼けた鉄を両手で持たせたら、凄まじい悲鳴と悪口雑言を口にしだした。
だがそれも最初だけで、次に準備をしていた炎鉄を運ばせたら哀願に代わった。
「どうか、どうか御許しください、私が悪かったです。
神の代弁者などと言うのは真っ赤な嘘でございます。
ギャアアアアア、もう、もう止めてください、お願いします。
全て話します、全て話しますから、もう許してください。
ギャアアアアア、フリオースト伯爵です、フリオースト伯爵に命じられてやったのです、好きでやったわけではありません、どうかお許しください」
「聞いたか、皆の者、この者は神の名を騙った大罪人だ。
だが、この者よりも罪深い者がいる。
一度忠誠を誓った主君を裏切り、次期国王となるべき子供を死なそうとした。
適切な治療を行う邪魔をして、存在しない神に縋るように仕向けたのだ。
フリオースト伯爵を討伐して族滅させる。
友誼を理由に討伐に参加しない者は、フリオースト伯爵と一味同心と考え族滅させるが、それだけでは済まさぬ。
徹底的に調べ上げて、今回フリオースト伯爵の討伐に参加した者であろうと、僅かでもフリオースト伯爵と関係がある者は皆殺しにする、覚悟しておくがいい」
もう色々と考えるのも、配慮するのも止めだ。
王家と同じアウレリウス氏族であろうと皆殺しにしてやる。
マリアと我が子をコケにした奴は一人残らず殺してやる。
何時も口にされているではありませんか。
『神などいない、神がいるのならこの世の中はもっとよくなっている』
存在しない神を語る神官など、いつも通り神明裁判にかけて厳罰に処せられてください」
俺の迷いをマリアが断ち切ってくれた、情けない話だ。
本来ならば、俺が断固として行わなければいけないのに、躊躇してしまった。
俺の失敗を攻撃しようとしている貴族や騎士はかなり多い。
躊躇したのは、敵対している貴族や騎士を恐れたのではなく、マリアと子供の事を想ってだが、即断できなかったという意味では同じだ。
処罰する事のできる理由のある者は全て厳罰に処したが、上手く処罰を免れて機会をうかがっている者がいる。
そんな者にとって、今回の逆子と神官の登場は絶好の機会なのだ。
よく考えれば、今回逆子の情報が漏れたのも、神官が潜伏できていたのも、俺を恨んでいる貴族や騎士がやった可能性が一番高い。
何も俺とマリアの後宮に入らなくても情報を手に入れる事ができる。
フェデリコ国王陛下やマルティナ王妃殿下には逆子の事を報告している。
マリアの両親で俺の義親である二人に逆子を隠しておく事などできない。
お二人の侍従や侍女から、敵対貴族に情報が流れたと考えるのが妥当だ。
この程度の事も分からなくなるほど、俺は狼狽していたのだ。
俺だけではなく、マリアも、軍師役のソフィアをはじめとした侍女達も、マッティーア侍従長をはじめとした侍従達もだ。
本当に大切なモノの命が掛かっている時には、冷静ではいられなくなり、いつも通りの能力を発揮できない。
普段は分かっている事なのに、自分や配下の命がかかっている戦場でも忘れた事などないのに、今回に限って全て忘れてしまっていた。
「分かったよ、マリア、一番不安で、一番何かに縋りたいはずのマリアが、俺のために差し出された悪魔の手を振り払ってくれたのだ。
俺が父親の勇気を見せない訳にはいかない。
ソフィア、神の奇跡で逆子を治すと言ってきた神官に神明裁判をかける。
そうマッティーア侍従長に伝令を送り、急いで公開の場を設けさせろ」
「承りました」
マリアが背中を押してくれたお陰で、俺は決断する事ができた。
だがそれでも、無心で、何の疑いもなく神明裁判ができたわけではない。
内心では、もしかしたら俺の考えが間違っているのではないかという思いもあったが、マリアの言葉を支えに表情一つ変えずに神明裁判を行った。
「ほんとに宜しいのですか、エドアルド公王殿下。
神の代弁者たる大神官の私を裁きに掛けたりしたら、神罰が下りますよ。
人間ごときが神の御意志に疑いを持つなど、畏れ多すぎる事なのですよ。
マリア王太女殿下と子供が死んでしまうのですよ。
さあ、今からでも遅くはありません。
不遜な考えは捨てて、大いなる神の御加護に縋りなさい」
このような状況で名乗り出てきた神官だけあって、ギリギリまで表情一つ変える事なく神明裁判に臨む度胸はあった。
あるいは狂信者で、本当に自分の事を神の代弁者だと思っているのかもしれない。
そうでなければ、神の代弁者を演じさせるために、生まれた時から隔離して常識を何も知らない阿呆に育てたかだ。
「やめろ、止めるのだ、不信人者、神罰が下るぞ、神が御許しにならないぞ」
阿保に育てられた被害者なら可哀想だと思っていたのだが、どうやら欲の為なら命すらかけられる極悪人だったようだ。
最初に赤々と焼けた鉄を持たせようとしたら、罵詈雑言の数々を口にし出した。
最後の最後に恐怖の表情を浮かべてくれたので、罪悪感を持たないですんだ。
「ギャアアアアア、背信者め、神を恐れぬ悪魔の化身め」
焼けた鉄を両手で持たせたら、凄まじい悲鳴と悪口雑言を口にしだした。
だがそれも最初だけで、次に準備をしていた炎鉄を運ばせたら哀願に代わった。
「どうか、どうか御許しください、私が悪かったです。
神の代弁者などと言うのは真っ赤な嘘でございます。
ギャアアアアア、もう、もう止めてください、お願いします。
全て話します、全て話しますから、もう許してください。
ギャアアアアア、フリオースト伯爵です、フリオースト伯爵に命じられてやったのです、好きでやったわけではありません、どうかお許しください」
「聞いたか、皆の者、この者は神の名を騙った大罪人だ。
だが、この者よりも罪深い者がいる。
一度忠誠を誓った主君を裏切り、次期国王となるべき子供を死なそうとした。
適切な治療を行う邪魔をして、存在しない神に縋るように仕向けたのだ。
フリオースト伯爵を討伐して族滅させる。
友誼を理由に討伐に参加しない者は、フリオースト伯爵と一味同心と考え族滅させるが、それだけでは済まさぬ。
徹底的に調べ上げて、今回フリオースト伯爵の討伐に参加した者であろうと、僅かでもフリオースト伯爵と関係がある者は皆殺しにする、覚悟しておくがいい」
もう色々と考えるのも、配慮するのも止めだ。
王家と同じアウレリウス氏族であろうと皆殺しにしてやる。
マリアと我が子をコケにした奴は一人残らず殺してやる。
0
お気に入りに追加
289
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ
水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。
ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。
なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。
アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。
※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います
☆HOTランキング20位(2021.6.21)
感謝です*.*
HOTランキング5位(2021.6.22)
妹に婚約者を寝取られましたが、私には不必要なのでどうぞご自由に。
酒本 アズサ
恋愛
伯爵家の長女で跡取り娘だった私。
いつもなら朝からうるさい異母妹の部屋を訪れると、そこには私の婚約者と裸で寝ている異母妹。
どうやら私から奪い取るのが目的だったようだけれど、今回の事は私にとって渡りに舟だったのよね。
婚約者という足かせから解放されて、侯爵家の母の実家へ養女として迎えられる事に。
これまで母の実家から受けていた援助も、私がいなくなれば当然なくなりますから頑張ってください。
面倒な家族から解放されて、私幸せになります!
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
【コミカライズ決定】婚約破棄され辺境伯との婚姻を命じられましたが、私の初恋の人はその義父です
灰銀猫
恋愛
両親と妹にはいない者として扱われながらも、王子の婚約者の肩書のお陰で何とか暮らしていたアレクシア。
顔だけの婚約者を実妹に奪われ、顔も性格も醜いと噂の辺境伯との結婚を命じられる。
辺境に追いやられ、婚約者からは白い結婚を打診されるも、婚約も結婚もこりごりと思っていたアレクシアには好都合で、しかも婚約者の義父は初恋の相手だった。
王都にいた時よりも好待遇で意外にも快適な日々を送る事に…でも、厄介事は向こうからやってきて…
婚約破棄物を書いてみたくなったので、書いてみました。
ありがちな内容ですが、よろしくお願いします。
設定は緩いしご都合主義です。難しく考えずにお読みいただけると嬉しいです。
他サイトでも掲載しています。
コミカライズ決定しました。申し訳ございませんが配信開始後は削除いたします。
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
まさか、こんな事になるとは思ってもいなかった
あとさん♪
恋愛
学園の卒業記念パーティでその断罪は行われた。
王孫殿下自ら婚約者を断罪し、婚約者である公爵令嬢は地下牢へ移されて——
だがその断罪は国王陛下にとって寝耳に水の出来事だった。彼は怒り、孫である王孫を改めて断罪する。関係者を集めた中で。
誰もが思った。『まさか、こんな事になるなんて』と。
この事件をきっかけに歴史は動いた。
無血革命が起こり、国名が変わった。
平和な時代になり、ひとりの女性が70年前の真実に近づく。
※R15は保険。
※設定はゆるんゆるん。
※異世界のなんちゃってだとお心にお留め置き下さいませm(_ _)m
※本編はオマケ込みで全24話
※番外編『フォーサイス公爵の走馬灯』(全5話)
※『ジョン、という人』(全1話)
※『乙女ゲーム“この恋をアナタと”の真実』(全2話)
※↑蛇足回2021,6,23加筆修正
※外伝『真か偽か』(全1話)
※小説家になろうにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる