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第一章

第73話:病的

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「動きました、今お腹の子が動きましたわ、エドアルド」

「本当かい、それはよかった、元気でいてくれるのが何より一番だ」

「言葉だけでは嫌ですわ、何時ものようにちゃんと触ってくださいませ」

「分かっているよ、マリア、触る前に消毒しようと思っただけだよ」

「まあ、そんなに気にしなくても大丈夫なのではありませんか」

「いや、子供に外の毒はとても危険なのだよ。
 俺がマリアに外の毒を移してしまったら、お腹の子供に何があるか分からない。
 誰に笑われようと、消毒だけは徹底させるから、マリアも気を付けてくれ」

「ふっふっふっふっ、あなたのお父さんはとても心配性よ」

 マリアと俺の子供が胎動を始めて一カ月が経った。
 今のところ、あの悪夢が現実になる兆候は全くない。
 あの悪夢が俺の単なる不安と恐怖の産物なら、それが一番いいのだ。
 予知夢やフリではない事を心から願ってはいるが、絶対に油断はしない。
 もしマリアとお腹の子供を同時に失うような事があったら、俺は正気ではいられないと思う。

 この世界に住む全ての人を妬んで大虐殺を始めてしまうかもしれない。
 万が一にもそんな事をしでかさないためにも、全力で二人を護る。
 そのために笑われようと陰口を叩かれようと気にもしない。
 自分が病的にマリアに依存している事など最初から分かっている。
 分かっていて治す気も改善する気もない。
 前世のような、誰も心から愛せない寂しい人生を歩むくらいなら、病的に誰かに依存している方が俺は幸せなのだ。

「じゃあ、お腹を触らせてもらうよ、マリア」

「はい、何時でも触ってください」

 最初は服の上からマリアのお腹を触る。

「直接触るよ」

「はい、どうぞ」

 特別に脱がし易く作らせた服をたくし上げて直接触る。
 今のところ何の問題も感じられないが、油断禁物だ。

「次は道具を使って聞かせてもらうよ」

「はい、遠慮されないでください、エドアルド」

 俺は特別に作らせた、聴診器を使って胎児の様子を確かめる。
 電子式の聴診器は作れないが、器械式の聴診器なら割と簡単に作る事ができる。
 胎動が感じられるのは、早い人で妊娠四カ月、普通は五カ月から六カ月だ。
 熟練の侍女や産婆が妊娠したと報告した日から逆算すると、恐らく今は妊娠六カ月だと思われる。

 胎動があると言う事は、少なくともお腹の中で子供が死んでいる事はない。
 だが、よく動く子が急に動かなくなったら要注意だ。
 胎盤に異常があったり、臍の緒が胎児の首に巻きついていたりすると、胎児が低酸素になって仮死状態になってしまうのだ。
 俺にそれを治す力があればいいのだが、残念ながらそんな力はない。

 本当に俺には何もできないのだ。
 多少はマリアに運動をさせた方がいいのだが、胎盤剥離が怖くて勧められない。
 俺は、解決策のない中途半端な知識があるだけの、役立たずだ。
 今のところ胎動がマリアの臍の上にあるから子供は正常な位置にいると思う。
 臍より下で胎動が始まるようだと、逆子の可能性がある。
 大丈夫だとは思うが、念のために今から準備だけはしておこう。
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