71 / 78
第一章
第71話:不安と恐怖
しおりを挟む
「公王殿下、とても残念な事ですが、お子が流れてしまいました」
「ウッワアアアアア」
俺はあまりの心痛と衝撃に飛び起きた。
何が起こったのか分からず、ベッドの上で血走った眼をキョロキョロさせる。
心臓が口から飛び出しそうなほど早く激しく跳ねまわっている。
しかも鋭い刃物で一突きされたような痛みが俺を苦しめる。
どれほど凄惨な戦場でも恐怖を感じた事のない俺が、不安と恐怖あまり手足をガタガタと振るわせているのだから、笑ってしまうしかないのだが、とても笑えない。
このベッドの上に心優しい女でもいれば、普段とは全く違う俺の姿に慰めてくれるのだろうが、もうマリアお嬢様以外の女と同衾する気はない。
それにしても、何時になったら俺の心臓は普通に戻ってくれるのか。
手足の震えは、何時収まってくれるのだろう。
マリアお嬢様を失う事の恐怖は自覚していたが、マリアお嬢様と俺の子供を失う事にも、これほどの不安と恐怖を感じていたのだな。
俺は自分が思っていたほど情のない人間ではないのかもしれない。
「殿下、御無事ですか、殿下、返事をしてください、公王殿下」
「心配するな、夢見が悪かっただけだ。
直ぐに後宮に行くから、朝の支度を用意させろ、直ぐにだぞ」
「はっ、直ぐにご用意させていただきます」
侍従が朝の用意を整えている間に、不安と恐怖に凝り固まったこの身体を、普段通りに使えるようにしなければいけない。
今朝の悪夢は、予知夢でもフリでもないはずだ。
もし予知夢なら、今頃後宮から急使が遣わされている。
フリやかなり遠くの未来の予知夢なら、それこそ今から防ぐ準備をしなければいけないから、身体が十分に動かないようでは困る。
流産の危険には色々あるが、梅毒やクラミジアなどの性的感染で発症する可能性は、マリアお嬢様に限ってありえない。
成人T細胞白血病ウィルスは、幼少時に母親から感染する事が多いから、王妃殿下に兆候がないい以上、可能性は低い。
マリアお嬢様は後宮に隔離状態になっているし、王都にも周辺の街や村にも流行の兆候がないから、りんご病や風疹の可能性も低いだろう。
だとすると、防ぎようのない、子宮外妊娠や胞状奇胎、自然流産という事になる。
どれほど健康であっても、遺伝的になにもなくても、自然淘汰という、人には抗いようのない摂理で、十五パーセントは自然流産してしまう。
どれほどマリアお嬢様や俺が努力をしても、心から神に祈っても、七回に一回はどうしても子供を守れないのだ
だが、自然流産以外の事ならば、俺や周りの努力で危険を減らす事ができる。
俺の不安や恐怖から見ただけの夢であろうと、笑って済ませはしない。
徹底的に消毒と衛生管理を行って、ウィルスの侵入を防ぐ。
全ての国民に狂ったと言われようとかまわない。
もう既に極度の妹好きだと言われているのは分かっている。
その陰口に親馬鹿が加わっても大したことではない。
「ウッワアアアアア」
俺はあまりの心痛と衝撃に飛び起きた。
何が起こったのか分からず、ベッドの上で血走った眼をキョロキョロさせる。
心臓が口から飛び出しそうなほど早く激しく跳ねまわっている。
しかも鋭い刃物で一突きされたような痛みが俺を苦しめる。
どれほど凄惨な戦場でも恐怖を感じた事のない俺が、不安と恐怖あまり手足をガタガタと振るわせているのだから、笑ってしまうしかないのだが、とても笑えない。
このベッドの上に心優しい女でもいれば、普段とは全く違う俺の姿に慰めてくれるのだろうが、もうマリアお嬢様以外の女と同衾する気はない。
それにしても、何時になったら俺の心臓は普通に戻ってくれるのか。
手足の震えは、何時収まってくれるのだろう。
マリアお嬢様を失う事の恐怖は自覚していたが、マリアお嬢様と俺の子供を失う事にも、これほどの不安と恐怖を感じていたのだな。
俺は自分が思っていたほど情のない人間ではないのかもしれない。
「殿下、御無事ですか、殿下、返事をしてください、公王殿下」
「心配するな、夢見が悪かっただけだ。
直ぐに後宮に行くから、朝の支度を用意させろ、直ぐにだぞ」
「はっ、直ぐにご用意させていただきます」
侍従が朝の用意を整えている間に、不安と恐怖に凝り固まったこの身体を、普段通りに使えるようにしなければいけない。
今朝の悪夢は、予知夢でもフリでもないはずだ。
もし予知夢なら、今頃後宮から急使が遣わされている。
フリやかなり遠くの未来の予知夢なら、それこそ今から防ぐ準備をしなければいけないから、身体が十分に動かないようでは困る。
流産の危険には色々あるが、梅毒やクラミジアなどの性的感染で発症する可能性は、マリアお嬢様に限ってありえない。
成人T細胞白血病ウィルスは、幼少時に母親から感染する事が多いから、王妃殿下に兆候がないい以上、可能性は低い。
マリアお嬢様は後宮に隔離状態になっているし、王都にも周辺の街や村にも流行の兆候がないから、りんご病や風疹の可能性も低いだろう。
だとすると、防ぎようのない、子宮外妊娠や胞状奇胎、自然流産という事になる。
どれほど健康であっても、遺伝的になにもなくても、自然淘汰という、人には抗いようのない摂理で、十五パーセントは自然流産してしまう。
どれほどマリアお嬢様や俺が努力をしても、心から神に祈っても、七回に一回はどうしても子供を守れないのだ
だが、自然流産以外の事ならば、俺や周りの努力で危険を減らす事ができる。
俺の不安や恐怖から見ただけの夢であろうと、笑って済ませはしない。
徹底的に消毒と衛生管理を行って、ウィルスの侵入を防ぐ。
全ての国民に狂ったと言われようとかまわない。
もう既に極度の妹好きだと言われているのは分かっている。
その陰口に親馬鹿が加わっても大したことではない。
0
お気に入りに追加
289
あなたにおすすめの小説
平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。
なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。
そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。
そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。
クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜
五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。
ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。
NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。
※軽い性表現があるため、R-15指定をしています
※最初の1〜3話は説明多くてクドいです
書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。
誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
【R18】ビッチになった私と、ヤンデレになった幼馴染〜村を出たら、騎士になっていた幼馴染がヤンデレ化してしまいました〜
水野恵無
恋愛
『いつか迎えに来るから待ってて』
そう言ってくれた幼馴染は、結局迎えには来なかった。
男に振り回されて生きるなんてもうごめんだ。
男とは割り切って一晩ベッドを共にして気持ち良くなるだけ、それだけでいい。
今夜もそう思って男の誘いに乗った。
初めて見る顔の良い騎士の男。名前も知らないけど、構わないはずだった。
男が中にさえ出さなければ。
「遊び方なんて知っているはずがないだろう。俺は本気だからな」
口元は笑っているのに目が笑っていない男に、ヤバいと思った。
でも、もしかして。
私がずっと待っていた幼馴染なの?
幼馴染を待ち続けたけれど報われなくてビッチ化した女の子と、ずっと探していたのにビッチ化していた女の子を見て病んだ男。
イビツでメリバっぽいですがハッピーエンドです。
※ムーンライトノベルズ様でも掲載しています
表紙はkasakoさん(@kasakasako)に描いていただきました。
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる