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第一章
第68話:懐妊
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「エドアルド公王殿下、マリア王太女殿下に懐妊の兆しがございます。
今宵からは血の継承をお止めいただきます」
よかった、本当によかった、これでようやく苦行から解放される。
血の継承にとても大きな快感がある事は認める。
だが、それ以上に、マリアお嬢様に命の危険を与える事が怖かったのだ。
前世では、まがりなりにも医療分野の端くれにいた俺だ。
日本では、戦後結構な長さの間まで、周産期の母子死亡率は極端に高かった事を知っているのだ。
今生の世界は、前世の中世前期くらいだと思われる。
俺がアウレリウス・ジェノバ公爵家で力を得てからは、少なくとも公爵家では、周産期の母子に対する常識を劇的に変え、衛生知識と医療知識を徹底させた。
周産期に母子が感染症にならないように、できる限りの努力をした。
だが、それが徹底できているのはアウレリウス・ジェノバ公爵家の旧領だけだ。
新たに手に入れた領地では、まだ衛生知識も医療知識も徹底できていない。
俺が孤児院や軍で育ててきた子飼いの家臣が、新たな領地で衛生知識や医療知識を広めてくれているが、まだ十分ではないのだ。
目の届き難い小さな農村では、未だに周産期の母子死亡率は極端に高い。
特に問題なのは、貴族や騎士の領地に自治権がある事だ。
公王である俺でも、自治権のある貴族や騎士に庶民の生活改善は命じられなし。
まして陪臣騎士でしかない俺の子飼い連中に強制力などない。
「もうやってくれているとは思うが、流産や感染症には気を付けてくれ。
だが、直轄領に送り出している者達を呼び戻す事は禁止する。
マリア王太女殿下に危険があると判断したら、俺に教えるのだ。
俺の持っている力の全てを使って守ってみせる、いいな」
「承りました、エドアルド公王殿下。
各直轄領の衛生と医療を担っている者を呼び戻しはいたしません」
「だが、各直轄領の衛生医療担当者に流行っている病気の情報を届けさせるのだ。
伝書鳩と早馬を使って、一刻一秒でも早く病気の情報を届けさせろ。
但し、伝書鳩と伝令に接触する者には、徹底した消毒をしろ。
報告の手紙も同じように消毒してから後宮に持ち込むのだぞ。
疫病を後宮に持ち込む事は絶対に許さない、いいな」
「承りました、エドアルド公王殿下。
殿下からお教えいただいた消毒は以前から取り入れておりましたが、これまで以上に徹底させていただきます」
神経質になり過ぎているのかもしれないが、この世界にはまだ天然痘がある。
胎児を奇形にする風疹も普通に流行している。
胎児を殺してしまうパルボウィルスB19によるリンゴ病もある。
どれほど気を付けても、気をつけすぎると言う事はない。
まあ、天然痘は幼い頃から牛馬の世話をしていた王家が感染する事はないだろう。
だが、この心臓を鷲掴みにするような不安と恐怖はなんなのだ。
前世と今生を併せて初めて授かりそうな子供を想うあまり、不安と恐怖を感じているだけで、絶対にフラグでも予感でもないからな。
くそ、クソ、糞、今直ぐ俺にできる事はないのか。
俺に西洋医学の知識と技術があればよかったのだが、あるのは東洋医学の知識と技術だけだからな。
今宵からは血の継承をお止めいただきます」
よかった、本当によかった、これでようやく苦行から解放される。
血の継承にとても大きな快感がある事は認める。
だが、それ以上に、マリアお嬢様に命の危険を与える事が怖かったのだ。
前世では、まがりなりにも医療分野の端くれにいた俺だ。
日本では、戦後結構な長さの間まで、周産期の母子死亡率は極端に高かった事を知っているのだ。
今生の世界は、前世の中世前期くらいだと思われる。
俺がアウレリウス・ジェノバ公爵家で力を得てからは、少なくとも公爵家では、周産期の母子に対する常識を劇的に変え、衛生知識と医療知識を徹底させた。
周産期に母子が感染症にならないように、できる限りの努力をした。
だが、それが徹底できているのはアウレリウス・ジェノバ公爵家の旧領だけだ。
新たに手に入れた領地では、まだ衛生知識も医療知識も徹底できていない。
俺が孤児院や軍で育ててきた子飼いの家臣が、新たな領地で衛生知識や医療知識を広めてくれているが、まだ十分ではないのだ。
目の届き難い小さな農村では、未だに周産期の母子死亡率は極端に高い。
特に問題なのは、貴族や騎士の領地に自治権がある事だ。
公王である俺でも、自治権のある貴族や騎士に庶民の生活改善は命じられなし。
まして陪臣騎士でしかない俺の子飼い連中に強制力などない。
「もうやってくれているとは思うが、流産や感染症には気を付けてくれ。
だが、直轄領に送り出している者達を呼び戻す事は禁止する。
マリア王太女殿下に危険があると判断したら、俺に教えるのだ。
俺の持っている力の全てを使って守ってみせる、いいな」
「承りました、エドアルド公王殿下。
各直轄領の衛生と医療を担っている者を呼び戻しはいたしません」
「だが、各直轄領の衛生医療担当者に流行っている病気の情報を届けさせるのだ。
伝書鳩と早馬を使って、一刻一秒でも早く病気の情報を届けさせろ。
但し、伝書鳩と伝令に接触する者には、徹底した消毒をしろ。
報告の手紙も同じように消毒してから後宮に持ち込むのだぞ。
疫病を後宮に持ち込む事は絶対に許さない、いいな」
「承りました、エドアルド公王殿下。
殿下からお教えいただいた消毒は以前から取り入れておりましたが、これまで以上に徹底させていただきます」
神経質になり過ぎているのかもしれないが、この世界にはまだ天然痘がある。
胎児を奇形にする風疹も普通に流行している。
胎児を殺してしまうパルボウィルスB19によるリンゴ病もある。
どれほど気を付けても、気をつけすぎると言う事はない。
まあ、天然痘は幼い頃から牛馬の世話をしていた王家が感染する事はないだろう。
だが、この心臓を鷲掴みにするような不安と恐怖はなんなのだ。
前世と今生を併せて初めて授かりそうな子供を想うあまり、不安と恐怖を感じているだけで、絶対にフラグでも予感でもないからな。
くそ、クソ、糞、今直ぐ俺にできる事はないのか。
俺に西洋医学の知識と技術があればよかったのだが、あるのは東洋医学の知識と技術だけだからな。
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