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第一章

第46話:獅子奮迅

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 アウレリウス・ジェノバ公王家は、いや、アウフィディウス・ロマリオ王家に率いられた俺達は、元は大陸の北方に住んでいたのだが、周辺の部族との争いに敗れて、生き残るために南に逃れてきた。
 その当時は狩猟民族で、歩兵主体で戦っていた。
 だがアウフィディウス・ロマリオ王家の先代王の時代に、アヴァール可汗国の手先となり、遊牧をはじめて騎馬を主力とした軍になったのだが、先祖代々遊牧していた部族ほどの馬術に優れているわけではない。

 だからアヴァール可汗国の騎馬軍団を相手に、草原や平地で大々的な決戦を行ったら、ほぼ間違いなく俺達が負ける。
 特にこの国を手に入れてから新たに編成した歩兵軍団では、全く相手にならず、惨敗を喫する事になるだろう。
 俺が戦術を駆使すれば勝てるだろうが、勝っても損害が多過ぎて、国の立て直しにとても時間がかかる。
 下手をすると他の国に攻められて大変な大混乱となる。

 だが何事にも例外というものがある。
 圧倒的な強さの戦士が先頭に立って戦う事で、不利な条件を全て覆してしまうような、非常識極まりない戦士がこの世の中には極稀にいるのだ。
 そんな戦士の一人が、ウァレリウス・ウディネ伯爵家のカルロだ。
 万夫不当カルロと、カルロが鍛えた一騎当千の騎士が錐の様にアヴァール可汗国の騎馬軍団に突撃すると、軍団としての連携が崩され、個々の強さだけになる。

 僚友と切り離された騎士に対して、歩兵が馬を狙って矢は放ち槍を投擲し、近づくことなく落馬させるのだ。
 カルロが鍛えた軍団とはいえ、勇猛果敢なアヴァール可汗国の騎馬軍団を相手に正面から戦って、無傷で勝つ事など不可能だ。
 互いに大損害を受ける事になるが、軍団長をはじめとした指揮官級のほぼ全てをカルロが討ってしまうから、最後の勝者はカルロになる。

 アヴァール可汗国は騎馬民族だから、馬に乗れる者は老若男女問わず戦士と言えなくもないが、実際に敵国に攻め込めるのは成人男性だけだ。
 今回アヴァール可汗国は必勝を期したようで、十万もの騎馬軍団を編成して攻め込んできたが、その内三万人の人間と二十万の馬を失って敗走した。
 例え負けても騎馬で逃げることができるアヴァール可汗国の戦いとしては、全く前例のない歴史的な惨敗だ。

 個々の遊牧民の中には柱となる男と大切な馬を失い、遊牧もままならなく家が出てしまうだろう。
 俺達が追撃しなくても、周辺国がアヴァール可汗国を攻撃してくれる。
 今までアヴァール可汗国に国土を削られてきたローマ帝国はもちろん、味方だったはずのスラヴ族連合も、虎視眈々と肥沃な草原を狙っていた西突厥可汗国も。

「カルロ軍団長がアヴァール可汗国を打ち負かした。
 スラヴ族連合とドイル連合王国がその事を知ったら、急いで逃げようとする。
 全軍に何時でも出陣できるように準備するように命じろ」

「はっ、直ぐに伝えます」

 俺もカルロのような戦い方ができない訳ではないが、それでは家臣国民から余計な死傷者を出してしまう。
 軍指揮官として華々しい勝利を手にするよりも、公王家の一員として家臣国民の負担を少しでも減らす事が大切だ。
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