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第一章

第36話:婚約者候補・マリア視点

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「ほう、ここがエドアルド殿下が大切にしているという孤児院ですか。
 今エドアルド殿下の側近くに仕えている者の大半が、孤児院出身者か戦友だと聞いていましたので、一度見て見たいと思っていたのです」

 ヤコポ殿の言葉に苛立たしさを感じてしまいます。
 エドアルドお義兄様の弱点を探ろうとしているように聞こえてしまうのです。
 気を緩めてしまうと、ソフィア達に処分してくださいと言ってしまいそうです。
 お義兄様からヤコポ殿の本性を探れと言われている彼女達ですが、わたくしが処分しろと言ったら従ってくれるでしょう。

「そうですか、それはよかったですね」

 ですが、そのような事を命じてしまったら、お義兄様に蔑まれてしまいます。
 お義兄様に褒めていただきたい、恥ずかしくない妹でありたい、そう思って努力してきた事が全て無になってしまいます。
 それだけは、絶対に認められません。
 お義兄様に蔑まれるくらいなら、死んだ方がましです。

「マリアおうたいじょでんか、よくおこしくださいました」
「「「「「よくおこしくださいました」」」」」

 応接室に集められた孤児達の代表を務める子が、わたくしに挨拶をしてくれます。
 この時間には見習いすらできない幼い子しか残っていませんから、日常的に使われている一番広くい勉強部屋で会う必要はありません。
 普段から使っている勉強部屋をヤコポ殿に見せる訳にはいかないのです。
 お義兄様が発明されて職人に作らせた教育玩具と教科書は、優秀な人材を育成する事のできる、どの国にもない強力な武器なのです。

 いえ、敵対している国だけではありません。
 ロマリオ王国の公爵家だった時代から、他の貴族家どころか、公爵家内でも秘匿されてきたお義兄様の切り札なのです。
 お義兄様が立場の弱い孤児達に力になるようにと孤児達にだけ与えられたのです。
 例外的に与えられたのは、お義兄様を護る親衛隊や近衛隊です。

「では、マリア王太女殿下に覚えた歌を披露してください」

 ソフィアが子供達に声をかけてくれます。
 直接話しかける事は、身分的に難しいのです。
 本当は親を亡くした孤児達を抱きしめてあげたいのですが、身分差と場所を理解できない子供達に優しくし過ぎると、わたくし以外の令嬢や貴婦人に近づいてしまい、護衛の騎士や兵士に殺される危険があるのです。

「「「「「はい」」」」」

 孤児達が大きな声で歌を聞かせてくれます。
 ギリス教団の祈祷や聖歌のように神を称えるのではなく、自らを律し、孤児同士助け合う事を誓った歌詞になっています。
 この歌詞を覚え唄う事で、助け合う事の美しさ大切さを教えるのです。
 ヤコポ殿は感動しているような表情を浮かべていますが、本心でしょうか。
 何か罠を仕掛けて、本性を暴かないといけません。
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