上 下
27 / 78
第一章

第27話:見捨てる

しおりを挟む
「王妃殿下、国王陛下の軍が正門を突破しました。
 このままでは殿下と王太子殿下を御守りできません。
 我らが時間を稼ぎますから、抜け道から御逃げください」

「ええい、ゆるしません、絶対に許しません。
 父親のくせに、自分の子を殺そうとするなど、絶対に許しません
 私が生きている限り、絶対にフラヴィオを殺させはしません。
 残りの兵力で突撃をして、王の首を取るのです。
 王の首さえとってしまえば、形勢を逆転できます」

「恐れながら申しあげます、王妃殿下。
 王太子殿下を誑かしたパオラのオクタウィウス・ターヴォラ男爵家も、ギリス教団も、王家のついたほとんどの貴族が国王陛下を選びました。
 今残っている兵力だけでは、国王陛下に近づく事もできません。
 ここで話し合っている時間すらも、殿下達の御命を縮める事になります。
 どうか今直ぐ御逃げください」

「母上、逃げましょう、死ぬのは嫌です」

「仕方ありません、お前が護衛しなさい」

「お言葉ながら、我々近衛の者が時間稼ぎしなくては、とても殿下達をお逃がしする事はできません。
 どうか侍女達を連れてお逃げください」

「母上、急ぎましょう、私の可愛い侍女達が怖がっております」

「えええい、しかたありません、少しでも長く時間を稼ぐのです」

「お任せください、必ず殿下達が安全に逃げられる時間を稼いでみせます」

 ★★★★★★

「馬鹿は行きましたか、隊長」

「ああ、命懸けで戦う将兵を見捨てて逃げて行ったよ」

「しかし、侍女達を逃がしたのは惜しかったですね、色々楽しめたのに」

「何なら最後尾の侍女を攫ってきてもいいぞ」

「嫌ですね、隊長が生き残るための生贄にされるのは」

「馬鹿が無抵抗な民を襲ってくれないかな。
 そいつらを殺して民を助ければ、少しはジェノバ公爵の印象を変えられるのだが」

「無駄ですよ、今まで俺達のやってきた事を考えれば、あの厳格なエドアルドが許してくれるわけがありません」

「そうだな、あのエドアルドが俺達を許してくれるはずがない。
 さて、まずは国王陛下の断罪から逃げるための言い訳をしなければいけない。
 王妃と王太子の下で好き勝手やってきたから、多少の罰は受けるだろうが、王妃と王太子を引き渡す事で殺される事だけはなくなった」

「国王は本当に約束を守りますかね」

「国王は度外れた女好きだが、馬鹿じゃない。
 エドアルドが王妃と王太子を殺したくらいでは王家を許さないくらいは分かる。
 今の国王は少しでも戦力が欲しいのだ。
 だからこそ、圧倒的な兵力を持っているのに持久戦を仕掛けてきた。
 俺達が寝返る事を計算に入れているんだよ」

「国王が馬鹿じゃないんなら、俺達がこの国から逃げようとしているのにも気がついているんじゃないですか」

「そうだ、だからこそ、上手く言い逃れないと、戦う直前まで牢に入れられるぞ。
 舌先だけで国王を騙すのが今度の戦いだ、油断するなよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

モカセドラの空の下で〜VRMMO生活記〜

五九七郎
SF
ネトゲ黎明期から長年MMORPGを遊んできたおっさんが、VRMMORPGを遊ぶお話。 ネットの友人たちとゲーム内で合流し、VR世界を楽しむ日々。 NPCのAIも進化し、人とあまり変わらなくなった世界でのプレイは、どこへ行き着くのか。 ※軽い性表現があるため、R-15指定をしています ※最初の1〜3話は説明多くてクドいです 書き溜めが無くなりましたので、11/25以降は不定期更新になります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453 の続きです。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R18】ビッチになった私と、ヤンデレになった幼馴染〜村を出たら、騎士になっていた幼馴染がヤンデレ化してしまいました〜

水野恵無
恋愛
『いつか迎えに来るから待ってて』 そう言ってくれた幼馴染は、結局迎えには来なかった。 男に振り回されて生きるなんてもうごめんだ。 男とは割り切って一晩ベッドを共にして気持ち良くなるだけ、それだけでいい。 今夜もそう思って男の誘いに乗った。 初めて見る顔の良い騎士の男。名前も知らないけど、構わないはずだった。 男が中にさえ出さなければ。 「遊び方なんて知っているはずがないだろう。俺は本気だからな」 口元は笑っているのに目が笑っていない男に、ヤバいと思った。 でも、もしかして。 私がずっと待っていた幼馴染なの? 幼馴染を待ち続けたけれど報われなくてビッチ化した女の子と、ずっと探していたのにビッチ化していた女の子を見て病んだ男。 イビツでメリバっぽいですがハッピーエンドです。 ※ムーンライトノベルズ様でも掲載しています 表紙はkasakoさん(@kasakasako)に描いていただきました。

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

処理中です...