3 / 78
第一章
第3話:卑怯下劣
しおりを挟む
「おのれ、孤児上がり兵士であったお前を取立てやった大恩ある私の事を、卑怯で恥知らずと言うか、お前こそ恩知らずではないか」
「私はお前から恩など何一つ受けていない。
私が王家から受けたのは差別と手柄の横取りだけだ。
そんな私を一人の兵士として公平に評価してくださったのは、アウレリウス・ジェノバ公爵家のフェデリコ閣下だけだった。
フェデリコ閣下が王国兵から公爵家の騎士に取立ててくださったのだ。
それからようやく手柄を横取りされることがなくなり、武名を得られたのだ。
お前が女漁りの金欲しさに孤児院の予算を横領した時も、私一人では孤児たちを救い切れなかったのを、フェデリコ閣下が孤児を領地に引き取ってくださった。
それを私に大恩を与えただと、大嘘つきの恥知らずが」
「おのれ、おのれ、おのれ、殺せ、この恩知らずの大嘘つきを殺すのだ」
糞王太子は狂ったように命令を繰り返すが、誰一人動かない。
それもそうだろう、自慢するわけではないが、俺の武名は王国中に轟いている。
豪勇で聞こえた帝国軍十二虎将軍を、同時に四人相手にしてぶち殺している。
十二虎将軍は一人で一個軍団を全滅させると言われるほどの武力持ちだ。
それを同時に四人相手にするという事は、四個軍団を相手にする事ではない。
百個軍団を相手にするも同然の事なのだ。
誰だって死ぬと分かっている戦いなど、それも非道な戦いなどしたくない。
「憶病者共が、たった一人を相手に何を恐れている。
百人同時に襲いかかれば簡単に勝てるだろうが」
糞王太子は声が枯れるくらい繰り返して命令をしたが、無駄な事だ。
これ以上付き合うのも馬鹿らしいから、早々に帰らせてもらう。
どこの国に逃げるかは大体決めてあるが、もう一度本気で考えないといけない。
自分一人の事なら、どの国に逃げてもどうとでもなるが、今回は一人じゃない。
マリアお嬢様を連れて逃げる以上、万が一にも読み間違いがあってはいけない。
屋敷の戻って最新の情報を集め直し、落ち着いた静かな場所で時間をかけて情報を精査し、最善の方法を見つけるのだ。
「人質だ、人質を取れば簡単に勝てるではないか。
マリアを人質に取れば、どれほど強かろうと隙ができるぞ。
四方八方からマリアとエドアルドを同時に襲え。
エドアルドが自分を護ろうとすればマリアを殺せるぞ。
エドアルドがマリアを護ろうとすればエドアルドを殺せるぞ。
勝ちだ、私の勝ちだ、さっさとやれ。
エドアルドを殺した者を将軍にしてやる、やれ、さっさとやれ」
全身全霊の精神力を駆使して、糞王太子をぶち殺すのを我慢した。
話の途中で殺すのを堪えるのが、これまでの人生で一番つらかった。
今この激情のまま糞王太子に剣を向けたら、一撃で楽に殺してしまう。
それくらい俺の怒りは大きかったが、それでは、目の前で婚約者に殺せと言われて傷ついている、マリアお嬢様の辛さ苦しさに対して楽過ぎる。
この世に生まれてきた事を後悔して、血の涙を浮かべて殺してくれと哀願するほどの苦しみを味合わせなければ、マリアお嬢様が受けた哀しみに相応しくない。
「私はお前から恩など何一つ受けていない。
私が王家から受けたのは差別と手柄の横取りだけだ。
そんな私を一人の兵士として公平に評価してくださったのは、アウレリウス・ジェノバ公爵家のフェデリコ閣下だけだった。
フェデリコ閣下が王国兵から公爵家の騎士に取立ててくださったのだ。
それからようやく手柄を横取りされることがなくなり、武名を得られたのだ。
お前が女漁りの金欲しさに孤児院の予算を横領した時も、私一人では孤児たちを救い切れなかったのを、フェデリコ閣下が孤児を領地に引き取ってくださった。
それを私に大恩を与えただと、大嘘つきの恥知らずが」
「おのれ、おのれ、おのれ、殺せ、この恩知らずの大嘘つきを殺すのだ」
糞王太子は狂ったように命令を繰り返すが、誰一人動かない。
それもそうだろう、自慢するわけではないが、俺の武名は王国中に轟いている。
豪勇で聞こえた帝国軍十二虎将軍を、同時に四人相手にしてぶち殺している。
十二虎将軍は一人で一個軍団を全滅させると言われるほどの武力持ちだ。
それを同時に四人相手にするという事は、四個軍団を相手にする事ではない。
百個軍団を相手にするも同然の事なのだ。
誰だって死ぬと分かっている戦いなど、それも非道な戦いなどしたくない。
「憶病者共が、たった一人を相手に何を恐れている。
百人同時に襲いかかれば簡単に勝てるだろうが」
糞王太子は声が枯れるくらい繰り返して命令をしたが、無駄な事だ。
これ以上付き合うのも馬鹿らしいから、早々に帰らせてもらう。
どこの国に逃げるかは大体決めてあるが、もう一度本気で考えないといけない。
自分一人の事なら、どの国に逃げてもどうとでもなるが、今回は一人じゃない。
マリアお嬢様を連れて逃げる以上、万が一にも読み間違いがあってはいけない。
屋敷の戻って最新の情報を集め直し、落ち着いた静かな場所で時間をかけて情報を精査し、最善の方法を見つけるのだ。
「人質だ、人質を取れば簡単に勝てるではないか。
マリアを人質に取れば、どれほど強かろうと隙ができるぞ。
四方八方からマリアとエドアルドを同時に襲え。
エドアルドが自分を護ろうとすればマリアを殺せるぞ。
エドアルドがマリアを護ろうとすればエドアルドを殺せるぞ。
勝ちだ、私の勝ちだ、さっさとやれ。
エドアルドを殺した者を将軍にしてやる、やれ、さっさとやれ」
全身全霊の精神力を駆使して、糞王太子をぶち殺すのを我慢した。
話の途中で殺すのを堪えるのが、これまでの人生で一番つらかった。
今この激情のまま糞王太子に剣を向けたら、一撃で楽に殺してしまう。
それくらい俺の怒りは大きかったが、それでは、目の前で婚約者に殺せと言われて傷ついている、マリアお嬢様の辛さ苦しさに対して楽過ぎる。
この世に生まれてきた事を後悔して、血の涙を浮かべて殺してくれと哀願するほどの苦しみを味合わせなければ、マリアお嬢様が受けた哀しみに相応しくない。
0
お気に入りに追加
289
あなたにおすすめの小説
ポンコツ天使が王女の代わりに結婚したら溺愛されてしまいました
永江寧々
恋愛
フローリアの仕事は天使として恋人や夫婦、赤ん坊に神の祝福を届けること。
結婚式の鐘の音、赤ん坊の喜ぶ声、幸せそうな両親の笑顔。
フローリアにとって天使は生まれながらにして天職であり、誇りでもあった。
同じ顔、同じ性格、同じ意思を持つ天使たちの中で顔も意思も別物を持って生まれた異端者であるフローリア。
物覚えが悪く、物忘れが激しいマイペースさは天使の中でもトップで、所謂【出来損ない】のレッテルを貼られていた。
天使長アーウィンの頭痛の種であるフローリアも一人前と認められれば神から直々に仕事を任されるのだが、成績が最下位であるフローリアはなかなかその機会が巡ってこない。
神から直々に受ける仕事は【神にその努力を認められた者の願いを一つ叶えに行く】こと。
天使にとって最大の名誉ともなる仕事。
成績最下位の出来損ないであるフローリアが受けられるはずもない仕事だが、神の気まぐれによって直々に与えられることとなった。
フローリアが任された相手はとある国の王女様。
願い事は【私の代わりに王女になって】
天使に拒否権はない。
これは神が人間に与える最大の褒美。どんな内容でも叶えなければならない。
戸惑いながらも叶えることになったフローリアは願いと引き換えに天使の証明であり誇りでもある羽根を失った。
目を覚まし、駆け込んできた男女が『お父様とお母様よ』と言う。
フローリアはいつの間にか王女クローディア・ベルの妹、フローリア・ベルとなっていた。
羽根も天使の力も失ったフローリアは人間として生きることを決意するが、クローディアの代わりに受けた縁談で会った美しい王子は顔を合わせた直後「結婚してください」と膝をつき——
恋心を持たない天使が王子から受ける過剰ともいえる愛情で少しずつ変わり始めていく。
溺愛主義な王子とポンコツな元天使の恋愛物語。
※改筆中
お堅い公爵様に求婚されたら、溺愛生活が始まりました
群青みどり
恋愛
国に死ぬまで搾取される聖女になるのが嫌で実力を隠していたアイリスは、周囲から無能だと虐げられてきた。
どれだけ酷い目に遭おうが強い精神力で乗り越えてきたアイリスの安らぎの時間は、若き公爵のセピアが神殿に訪れた時だった。
そんなある日、セピアが敵と対峙した時にたまたま近くにいたアイリスは巻き込まれて怪我を負い、気絶してしまう。目が覚めると、顔に傷痕が残ってしまったということで、セピアと婚約を結ばれていた!
「どうか怪我を負わせた責任をとって君と結婚させてほしい」
こんな怪我、聖女の力ですぐ治せるけれど……本物の聖女だとバレたくない!
このまま正体バレして国に搾取される人生を送るか、他の方法を探して婚約破棄をするか。
婚約破棄に向けて悩むアイリスだったが、罪悪感から求婚してきたはずのセピアの溺愛っぷりがすごくて⁉︎
「ずっと、どうやってこの神殿から君を攫おうかと考えていた」
麗しの公爵様は、今日も聖女にしか見せない笑顔を浮かべる──
※タイトル変更しました
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
時間が戻った令嬢は新しい婚約者が出来ました。
屋月 トム伽
恋愛
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。(リディアとオズワルド以外はなかった事になっているのでifとしてます。)
私は、リディア・ウォード侯爵令嬢19歳だ。
婚約者のレオンハルト・グラディオ様はこの国の第2王子だ。
レオン様の誕生日パーティーで、私はエスコートなしで行くと、婚約者のレオン様はアリシア男爵令嬢と仲睦まじい姿を見せつけられた。
一人壁の花になっていると、レオン様の兄のアレク様のご友人オズワルド様と知り合う。
話が弾み、つい地がでそうになるが…。
そして、パーティーの控室で私は襲われ、倒れてしまった。
朦朧とする意識の中、最後に見えたのはオズワルド様が私の名前を叫びながら控室に飛び込んでくる姿だった…。
そして、目が覚めると、オズワルド様と半年前に時間が戻っていた。
レオン様との婚約を避ける為に、オズワルド様と婚約することになり、二人の日常が始まる。
ifとして、時間が戻る前の半年間を時々入れます。
第14回恋愛小説大賞にて奨励賞受賞
婚約破棄された真の聖女は隠しキャラのオッドアイ竜大王の運命の番でした!~ヒロイン様、あなたは王子様とお幸せに!~
白樫アオニ(卯月ミント)
恋愛
「私、竜の運命の番だったみたいなのでこのまま去ります! あなたは私に構わず聖女の物語を始めてください!」
……聖女候補として長年修行してきたティターニアは王子に婚約破棄された。
しかしティターニアにとっては願ったり叶ったり。
何故なら王子が新しく婚約したのは、『乙女ゲームの世界に異世界転移したヒロインの私』を自称する異世界から来た少女ユリカだったから……。
少女ユリカが語るキラキラした物語――異世界から来た少女が聖女に選ばれてイケメン貴公子たちと絆を育みつつ魔王を倒す――(乙女ゲーム)そんな物語のファンになっていたティターニア。
つまりは異世界から来たユリカが聖女になることこそ至高! そのためには喜んで婚約破棄されるし追放もされます! わーい!!
しかし選定の儀式で選ばれたのはユリカではなくティターニアだった。
これじゃあ素敵な物語が始まらない! 焦る彼女の前に、青赤瞳のオッドアイ白竜が現れる。
運命の番としてティターニアを迎えに来たという竜。
これは……使える!
だが実はこの竜、ユリカが真に狙っていた隠しキャラの竜大王で……
・完結しました。これから先は、エピソードを足したり、続きのエピソードをいくつか更新していこうと思っています。
・お気に入り登録、ありがとうございます!
・もし面白いと思っていただけましたら、やる気が超絶跳ね上がりますので、是非お気に入り登録お願いします!
・hotランキング10位!!!本当にありがとうございます!!!
・hotランキング、2位!?!?!?これは…とんでもないことです、ありがとうございます!!!
・お気に入り数が1700超え!物凄いことが起こってます。読者様のおかげです。ありがとうございます!
・お気に入り数が3000超えました!凄いとしかいえない。ほんとに、読者様のおかげです。ありがとうございます!!!
・感想も何かございましたらお気軽にどうぞ。感想いただけますと、やる気が宇宙クラスになります。
後宮に入りましたが、旦那さんが来ないので恋人を探します
国湖奈津
恋愛
「王家の姫として、嫁いではくれないか?」
王の要請で、政略結婚の道具になることが決まった私は、1度会っただけの相手に嫁ぐことになった。
相手の国は遠く離れた大国で一夫多妻制。
だけど私だけを妻とすると約束してくれた。
ところが嫁いでみると、すでに美女がいて…?
「じゃあ私にも浮気相手を紹介してください!」
「相手に求める条件は?」
「口が堅くて尊敬できる人!」
「了解」
一体どんなお相手が紹介されるのでしょうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる