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5話アレクサンダー視点

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「……そ、そ……ソ、ソフィ……
 ソフィア?!
 どうしたんだ、ソフィア?!
 君が悪いんじゃないんだよ。
 僕がまだ女性を抱く気になれないだけなのだよ。
 ソフィア?
 ソフィア!
 医師だ、医師を呼べ!」

 私が、言葉を誤魔化して愛し合えないことを伝えたとたん、ソフィアが滂沱の涙を流したと思うと、全く動かなくなってしまった。
 動かなくなるどころか、何の反応も示さなくなってしまった。

 冷たく嫌な汗が一瞬で全身から噴き出した。
 手足がガクガクと震えているのが自分でもわかった。
 ソフィアに声をかけなければ、意識の有無を確認しなければいけないと思ったが、口が、舌が上手く動かない。

 口から唾液が消え去り、舌がざらつき、いや、舌が強張っている。
 必死で声を出したものの、ソフィアは何の反応もしてくれなかった。
 一瞬死んでしまったのかと不安になり、息をしているか手をかざして確認したり、ソフィアの胸に手を置いて心臓の動きを確認したりした。

 息をしていて心臓も動いていた。
 私の言葉でショック死したのではないのは確認できたが、それでも意識を手放してしまっているのは確かだ。
 アメリアのように死んでしまったのではないかと思うと、自分の心臓を死神の冷たい手で握りしめられているようで、凍り付きそうな冷たさと激痛を感じた。

 すぐさま見守りの女官が動いてくれた。
 初夜が上手くいくのか、不義密通が行われないか、私がソフィアを脅したり無理を命じたりしないか、ソフィアが私を籠絡して無理な願いをしないか、寝室でのあらゆる状況を想定して、監視のための女官がウェルズリー侯爵からもオールトン侯爵家からもつけられている。
 私たち貴族の睦言は、それぞれの家に筒抜けなのだ。

 同時に彼女達には、寝室での暗殺、特に毒殺を防ぐ役割も与えられている。
 私が腹上死しないように事前に健康状態を確かめてくれるし、それでも心臓が止まるような時のために、蘇生術も心得てくれている。
 女の秘所が痙攣し、離れなれなくなった時の秘薬も用意してくれている。
 ありとあらゆることに対応できる、女官の中でも特殊技能を極めた老練な者が抜擢される、栄誉ある役目なのだ。

 その見届役二人が瞬時に動いてくれた。
 私と同じようにソフィアの息と心臓を確認した。
 二人が目配せして確認しあったのが私の不安を増大させた。
 やはり私の身勝手な言葉が、ソフィアが反応しなくなった原因なのだ。
 答えを聞くのが怖い。
 このままソフィアを置き去りにして逃げ出してしまいたかった。
 なんとか貴族の誇り、男の尊厳を総動員してその場に踏みとどまり、見届役の言葉を待った。
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