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第一章

第88話:聴診器

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「あなた、動きましたわ、私達の子供が動きました。
 蹴りました、今元気にお腹を蹴りましたわ。
 触ってみてください、あなた」

 リアナが慈母のような微笑を浮かべて話しかけてくる。
 リアナの右手が俺の左手をとってお腹に触れさせようとする。
 怖いような嬉しいいような不思議な感情になる。
 俺は自分の子供を恐れてるのだろか。
 それとも心から喜んでいるのだろうか。

 まだ妊娠四カ月か五カ月だと思う。
 だから俺には胎動が全く感じられなかった。
 だがそんな事を口にするとリアナが傷つくかもしれない。
 魔力を使えば感じ取れるが、魔力が胎児に悪影響を与えるかもしれない。
 それにリアナが気にし過ぎているだけなのかもしれない。

「わずかに感じられるかな。
 だけど俺の勘違いかもしれない、赤ちゃんの事が分かる道具を作るよ」

 俺は急いで魔法袋から魔獣や魔蟲の素材を取り出した。
 聴診器を作ろうと思ったのだ。
 前世の聴診器をそのままを創り出す事はできない。
 特にこの世界この時代の道具では不可能だ。
 だが魔獣や魔蟲の素材と俺の前世知識を使えば再現可能だ。

 おれはテキパキと素材を加工して組み合わせていった。
 初期に開発された単耳型聴診器なら不器用な俺でも簡単に作れる。
 だから最初は単耳型聴診器を作って聞いてみた。
 確かに胎動を感じる事ができた。
 湧き上がるような喜びが心を占めていく。
 だが直ぐに新しい聴診器を作らなければいけなくなった。

「あなた、これでは私が聞けません。
 私が聞けるようなモノを作ってください、お願いします」

 リアナにそう言われては作れないとは言えない。
 今更不器用だから作れないとも言えない。
 頑張って双耳型の聴診器を作った。

 チェストピースと呼ばれる皮膚に当てる部分。
 ベルと呼ばれる集音部分。
 ダイアフラムと呼ばれる集音のためにチェストピースに張られた膜。
 耳管と呼ばれる左右の耳に当てる屈曲した前世では金属で作られていた管。
 イヤピースと呼ばれる取り外して洗う事のできる耳管の先端で耳に挿入する部分。
 ゴム管と呼ばれるチェストピースと耳管をつなぐ管。

 最終目標はチェストピースが表裏二つあり、呼吸音が聴きやすい面と心音が聴きやすい面の両面を切り替えて使えるダブルの聴診器だ。
 しかもゴムなどの素材がないから、魔獣や魔蟲、いや、あらゆる動物や植物で最適の材料を探し出さないといけない。
 魔力や魔術に頼らない医療を広めるためには聴診器が絶対に必要だ。

 デジタル聴診器と呼ばれる、アンプを使って音を十倍程度に増幅した聴診器もあるが、魔獣や魔蟲の素材を使えばアンプなどなくても音の増幅が可能かもしれない。
 その為の実験を繰り返さなければいけない。
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