上 下
86 / 89
第一章

第86話:家臣

しおりを挟む
「国王陛下の御尊顔を拝し奉り、恐悦至極でございます。
 我らのような才無き者を家臣に加えてくださり、感謝の言葉もございません。
 身命として忠義を尽くさせていただきます。
 先輩の諸侯にも宜しくお引き立て願います」

 眼の前に這い蹲っているのは元マライーニ王国の貴族達だ。
 正直あまり家臣に迎えたい連中ではない。
 だがこのまま放置していたら領民が苦しむことになる。
 俺を恐れるあまり重税を課して軍備を増強したり、俺との間を取り持ってくれと方々に賄賂を贈ることだろう。

 だから家臣に迎えたが、勘違いしないように釘をさしておく。
 生きの頃るためにマライーニ王家を滅ぼした分家の連中は大嫌いだった。
 だが彼らの気持ちが全く分からなかったわけではない。
 同時に分家連中を責め殺して生き残ろうとしたこいつらの気持ちも分かる。
 分かるが好きにはなれないのだ。

「最初にハッキリ言っておくが、余はお前達の事が嫌いだ。
 家を残すために必死だったのは分かる。
 弱小貴族が有力貴族に媚び諂わなければいけないのも分かる。
 だが元の主筋を攻め滅ぼした事は気分が悪い。
 それは余とリアナが落ち目になった時には牙を向くと言う事だからな」

「「「「「それは違います」」」」」

「まあ、待て、最後まで聞け。
 さっきも口にしたが理解はできるのだよ。
 だから臣従を拒むとは言っていない。
 虐める気もなければ領地を削る気もない。
 だが褒める気もなければ褒美を与える気もない。
 それともお前達は元の主筋を攻め滅ぼした功を誇りたいのか」

「「「「「滅相もございません」」」」」

「臣従を受け入れてくださっただけでも十分感謝しております。
 陛下のお力ならば、我ら全員を攻め滅ぼして領地を直轄領にする事など容易い事。
 それなのに領主の地位を保証してくださいました。
 恩に感じこそすれ功を誇り不満を持つなど毛頭ございません」

 本気で恩に感じて感謝しているかどうかは分からない。
 だが全員が同じように返事している。
 代表する者も誓っている。
 だがそれを鵜呑みにするほど俺は馬鹿じゃない。
 彼らは家を護り領民を護るためなら何でもするだろう。
 そんな事は分かり切った事なのだ。

「ふむ、あい分かった。
 功を誇らず褒美もいらぬというのは殊勝な心掛けだ。
 だがそれでは今回の戦で手柄を立てた者への褒美に困るだろう。
 戦費を補うために領民にさらなる重税を課すことになるだろう。
 それでは余の名に泥を塗ることになる。
 領地を褒美に与える事はできないが、金銀財宝なら与えることができる。
 その金銀財宝を家臣への褒美と戦費を賄うがいい。
 そこ代わり絶対に税を上げる事は許さんぞ。
 もし税を上げたり上げた税を元に戻さなかったら、一族皆殺しにするからな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

異母妹に婚約者を奪われ、義母に帝国方伯家に売られましたが、若き方伯閣下に溺愛されました。しかも帝国守護神の聖女にまで選ばれました。

克全
恋愛
『私を溺愛する方伯閣下は猛き英雄でした』 ネルソン子爵家の令嬢ソフィアは婚約者トラヴィスと踊るために王家主催の舞踏会にきていた。だがこの舞踏会は、ソフィアに大恥をかかせるために異母妹ロージーがしかけた罠だった。ネルソン子爵家に後妻に入ったロージーの母親ナタリアは国王の姪で王族なのだ。ネルソン子爵家に王族に血を入れたい国王は卑怯にも一旦認めたソフィアとトラヴィスの婚約を王侯貴族が集まる舞踏会の場で破棄させた。それだけではなく義母ナタリアはアストリア帝国のテンプル方伯家の侍女として働きに出させたのだった。国王、ナタリア、ロージーは同じ家格の家に侍女働きに出してソフィアを貶めて嘲笑う気だった。だがそれは方伯や辺境伯という爵位の存在しない小国の王と貴族の無知からきた誤解だった。確かに国によっては城伯や副伯と言った子爵と同格の爵位はある。だが方伯は辺境伯同様独立裁量権が強い公爵に匹敵する権限を持つ爵位だった。しかもソフィアの母系は遠い昔にアストリア帝室から別れた一族で、帝国守護神の聖女に選ばれたのだった。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

婚約破棄された守護聖女はチョットだけ意地悪

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。4話完結です。  レイ辺境伯家の令嬢ダイアナは、舞踏会場で王太子からやってもいない虐めを糾弾された。原因は王太子が天然悪女の男爵令嬢に誑かされて、男爵令嬢を妊娠させたからだ。普段とても大人しいダイアナを甘く見ていた王太子と仲間達は、ちょっとだけ意地悪なダイアナに復讐されることになった。4話完結です。

もう婚約者に未練はありません。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿。  グロブナ公爵家の長女アグネスは、心から婚約者であるルーパス王太子を愛していた。光り輝くほど美しいルーパス王太子に相応し婚約者に成ろうと、涙ぐましい努力を重ねていた。  だがルーパス王太子とても浮気性で、多くの貴族夫人や貴族令嬢と浮名を流していた。そしてついにアグネスの妹エイダと密通をして、妊娠までさせてしまった。それを聞いてしまったアグネスの心臓は激烈な痛みに……

聖獣に愛された伯爵令嬢が婚約破棄されてしまいました。国は大丈夫なんでしょうか?

克全
恋愛
聖獣にカルスロッド王太子の婚約者に選ばれた伯爵令嬢セイラは、王太子主催の舞踏会で、王太子に婚約破棄を宣言されたばかりか、馬糞臭いと面罵され頭からワインをかけられた。聖獣教会のケイロン枢機卿に激しく面罵された王太子は、セイラとけいを逆恨みするのだった。

自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。/自称悪役令嬢な妻の観察記録。

しき
ファンタジー
優秀すぎて人生イージーモードの王太子セシル。退屈な日々を過ごしていたある日、宰相の娘バーティア嬢と婚約することになったのだけれど――。「セシル殿下! 私は悪役令嬢ですの!!」。彼女の口から飛び出す言葉は、理解不能なことばかり。なんでもバーティア嬢には前世の記憶があり、『乙女ゲーム』なるものの『悪役令嬢』なのだという。そんな彼女の目的は、立派な悪役になって婚約破棄されること。そのために様々な悪事を企むバーティアだが、いつも空回りばかりで……。婚約者殿は、一流の悪の華を目指して迷走中? ネットで大人気! 異色のラブ(?)ファンタジー開幕!

自称聖女の従姉に誑かされた婚約者に婚約破棄追放されました、国が亡ぶ、知った事ではありません。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『偽者を信じて本物を婚約破棄追放するような国は滅びればいいのです。』  ブートル伯爵家の令嬢セシリアは不意に婚約者のルドルフ第三王子に張り飛ばされた。華奢なセシリアが筋肉バカのルドルフの殴られたら死の可能性すらあった。全ては聖女を自称する虚栄心の強い従姉コリンヌの仕業だった。公爵令嬢の自分がまだ婚約が決まらないのに、伯爵令嬢でしかない従妹のセシリアが第三王子と婚約しているのに元々腹を立てていたのだ。そこに叔父のブートル伯爵家ウィリアムに男の子が生まれたのだ。このままでは姉妹しかいないウィルブラハム公爵家は叔父の息子が継ぐことになる。それを恐れたコリンヌは筋肉バカのルドルフを騙してセシリアだけでなくブートル伯爵家を追放させようとしたのだった。

処理中です...