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第一章

第80話:雪隠詰

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 もう覚悟を決めなければいけない時が来ているようだ。
 別に嫌なわけではないのだが、前世の倫理観に縛られる。
 前世では妹がいなかったから、妙に実感が薄い。
 一番近い血縁の女性は従姉妹だから、それなら別に違和感はない。
 祖父も大叔父も従兄妹夫婦だったからな。

 俺から見たリアナをどう表現すべきだろうと冷静に考えてみた。
 前世の記憶と知識が鮮明な分、血縁関係という実感がない。
 どちらかと言うと義理の妹のような感覚なのかもしれない。
 前世でそんな存在はいなかったから、あくまでも想像だけど。
 肉親と言うよりは可愛い弟子という感覚の方がとても強い。

 前世では人間関係が極端に苦手で、他人とは極力距離をとっていた。
 だから男女関係なく直弟子はいない。
 だが修行先では弟弟子や妹弟子はいた。
 そんな弟弟子や妹弟子に比べれば、いや、比べものにはならない。
 リアナは本当に可愛くて愛おしい直弟子だ。

 だからこそなのかもしれない。
 弟子に手を出してはいけないという倫理観もあるのだろう。
 前世の父には石橋をたたいて壊すほど慎重だと言われたことがある。
 前世の母には堅パンと揶揄され続けた。
 実感のない血のつながった妹で直弟子。
 俺にとっては、手を出すにはハードルが高すぎるのだ。

「聖王陛下、ゴドルフィン王国のウィンストン国王陛下からの親書でございます」

 ブノワが親書を持ってきた。
 最近大陸各国から毎日のように親書が届く。
 リアナがやっている根回しが効果を表しているようだ。
 全ての王家から、リアナとの結婚式には参加したいので、事前に連絡が欲しいという内容になっている。

 ブノワの目には、いい加減覚悟を決めろ根性なしという気持ちが宿っている。
 いや、宿っているように思えてしまう。
 他の政務官事務官達の目にも同じ思いが宿っているように思える。
 最近被害妄想の気があるようだ。
 歴史で善政を行っていた王が、急に堕落したり悪政を行ったりするのは、精神がこんな状態になっていしまうからなのだろうか。

「分かった、内容は分かった、だが今直ぐにというわけにはいかない。
 教会の悪評などは気にする必要はない。
 だが各国王家の法改正を待ちたいと思う。
 余とリアナが異父兄妹である事は、裁判で証明され家系図も書き換えられた。
 だが結婚をしてしまったら、必ずあの裁判は同父同母結婚をするための偽りだと言われてしまう事になる。
 それは我が国が法改正をして同父同母結婚を認めても同じだ。
 多くの国が同父同母結婚を認める法改正を行い、実際に同父同母結婚が行われてから、我が国でも法改正をして、その後でリアナと結婚しなければならない」

 根性なしだと思うが、リアナが後世で罵られないようにするのも俺の責任だ。
 まあ、一番の理由は俺がチキンだからだけどな。
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