上 下
62 / 89
第一章

第62話:指導

しおりを挟む
 リアナ女王が少し不機嫌だが、これは仕方がない事だ。
 俺の軍学校指導を邪魔するために色々おねだりしたのに、指導を中止させることができなかったのだから。

 だが、その不機嫌を決して表情や態度に表していない。
 俺がそれを察することができるのは、長年兄として可愛がってきたからだ。
 それに、本心から不機嫌なわけではない。
 心の過半は俺と一緒に学生を指導できる事を喜んでいる。
 リアナ女王の国を支える未来ある有望な若者を、直接指導できるのだから。

「さて諸君、よくぞ難関の試験と面接を合格した。
 諸君らの努力を心から称賛する。
 これからもその心掛けを忘れず文武に励んでくれ」

 実は全員が若者と言える年齢ではない。
 幼いと言えるほどの少年から、壮年と言っていい年齢までいる。
 学力と体力と人間性のどれかが光る者は、全員合格させているからだ。
 そんな事をすれば莫大な人数になるのだが、それは仕方がない。
 磨かれていない隠れた原石を探し出すのだから、当然の事だ。

 これが普通の国なら、莫大な人間を学校で学ばせたら、その人数分税収が落ち込み費用もかかるので、絶対に不可能な事だ。
 だが俺には食糧にする穀物を促成栽培することができるし、費用として使う宝石を創り出す事もできる。
 他の国では不可能な事だが、俺ならば宝石を貨幣にする事も可能なのだ。

「ではまずは全員の実力が知る所から始める。
 一人ずつ余とリアナ女王が直接戦い、勝った者を指導役や班長に任命する。
 まずは余と戦ってもらう、掛かってこい」

 俺の言葉に最初はほぼ全員が戸惑っていた。
 大陸に広まっている噂では、俺は人間離れした強さになっている。
 だから俺が戦うと言っても動揺する事はないだろう。
 だが見た目がとても嫋やかで清楚なリアナ女王が稽古をつけると言っても、悪い冗談としか思えないだろう。

 だがそれは人を見る目がないというモノだ。
 俺はリアナ女王を溺愛しているから、自衛力くらい身に付けさせている。
 バロンやズメイに護らせているが、世の中には万が一という事がある。
 特にトイレに行っている間は、巨大なバロンやズメイは側にいられない。

 ズメイ人なら常に側にいられるのだが、ズメイ人に見られながら用を足すのは、常に護衛や側近が付き従ってきたリアナ女王も嫌だろう。
 だから透明な使い魔に護らせている。
 だがその事はよほどの場合しか明かせないから、非常時しか使えない。
 表向きにはリアナ女王に武芸を身につかせるのが一番だったのだ。

 だが、全員がリアナ女王の見た目に惑わされているわけではない。
 ごく少数だがリアナ女王の実力を理解している者がいる。
 本当に気配から見抜いたのか、それとも俺の態度から察したのか。
 どちらにしても期待できる人材がいる。

「さあ、君からかかってきなさい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱を演じる妹に婚約者を奪われましたが、大嫌いだったので大助かりです

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『病弱を演じて私から全てを奪う妹よ、全て奪った後で梯子を外してあげます』 メイトランド公爵家の長女キャメロンはずっと不当な扱いを受け続けていた。天性の悪女である妹のブリトニーが病弱を演じて、両親や周りの者を味方につけて、姉キャメロンが受けるはずのモノを全て奪っていた。それはメイトランド公爵家のなかだけでなく、社交界でも同じような状況だった。生まれて直ぐにキャメロンはオーガスト第一王子と婚約していたが、ブリトニーがオーガスト第一王子を誘惑してキャメロンとの婚約を破棄させようとしたいた。だがキャメロンはその機会を捉えて復讐を断行した。

異母妹に婚約者を奪われ、義母に帝国方伯家に売られましたが、若き方伯閣下に溺愛されました。しかも帝国守護神の聖女にまで選ばれました。

克全
恋愛
『私を溺愛する方伯閣下は猛き英雄でした』 ネルソン子爵家の令嬢ソフィアは婚約者トラヴィスと踊るために王家主催の舞踏会にきていた。だがこの舞踏会は、ソフィアに大恥をかかせるために異母妹ロージーがしかけた罠だった。ネルソン子爵家に後妻に入ったロージーの母親ナタリアは国王の姪で王族なのだ。ネルソン子爵家に王族に血を入れたい国王は卑怯にも一旦認めたソフィアとトラヴィスの婚約を王侯貴族が集まる舞踏会の場で破棄させた。それだけではなく義母ナタリアはアストリア帝国のテンプル方伯家の侍女として働きに出させたのだった。国王、ナタリア、ロージーは同じ家格の家に侍女働きに出してソフィアを貶めて嘲笑う気だった。だがそれは方伯や辺境伯という爵位の存在しない小国の王と貴族の無知からきた誤解だった。確かに国によっては城伯や副伯と言った子爵と同格の爵位はある。だが方伯は辺境伯同様独立裁量権が強い公爵に匹敵する権限を持つ爵位だった。しかもソフィアの母系は遠い昔にアストリア帝室から別れた一族で、帝国守護神の聖女に選ばれたのだった。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

婚約破棄された守護聖女はチョットだけ意地悪

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。4話完結です。  レイ辺境伯家の令嬢ダイアナは、舞踏会場で王太子からやってもいない虐めを糾弾された。原因は王太子が天然悪女の男爵令嬢に誑かされて、男爵令嬢を妊娠させたからだ。普段とても大人しいダイアナを甘く見ていた王太子と仲間達は、ちょっとだけ意地悪なダイアナに復讐されることになった。4話完結です。

もう婚約者に未練はありません。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿。  グロブナ公爵家の長女アグネスは、心から婚約者であるルーパス王太子を愛していた。光り輝くほど美しいルーパス王太子に相応し婚約者に成ろうと、涙ぐましい努力を重ねていた。  だがルーパス王太子とても浮気性で、多くの貴族夫人や貴族令嬢と浮名を流していた。そしてついにアグネスの妹エイダと密通をして、妊娠までさせてしまった。それを聞いてしまったアグネスの心臓は激烈な痛みに……

聖獣に愛された伯爵令嬢が婚約破棄されてしまいました。国は大丈夫なんでしょうか?

克全
恋愛
聖獣にカルスロッド王太子の婚約者に選ばれた伯爵令嬢セイラは、王太子主催の舞踏会で、王太子に婚約破棄を宣言されたばかりか、馬糞臭いと面罵され頭からワインをかけられた。聖獣教会のケイロン枢機卿に激しく面罵された王太子は、セイラとけいを逆恨みするのだった。

自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。/自称悪役令嬢な妻の観察記録。

しき
ファンタジー
優秀すぎて人生イージーモードの王太子セシル。退屈な日々を過ごしていたある日、宰相の娘バーティア嬢と婚約することになったのだけれど――。「セシル殿下! 私は悪役令嬢ですの!!」。彼女の口から飛び出す言葉は、理解不能なことばかり。なんでもバーティア嬢には前世の記憶があり、『乙女ゲーム』なるものの『悪役令嬢』なのだという。そんな彼女の目的は、立派な悪役になって婚約破棄されること。そのために様々な悪事を企むバーティアだが、いつも空回りばかりで……。婚約者殿は、一流の悪の華を目指して迷走中? ネットで大人気! 異色のラブ(?)ファンタジー開幕!

自称聖女の従姉に誑かされた婚約者に婚約破棄追放されました、国が亡ぶ、知った事ではありません。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」「ノベルバ」に同時投稿しています。 『偽者を信じて本物を婚約破棄追放するような国は滅びればいいのです。』  ブートル伯爵家の令嬢セシリアは不意に婚約者のルドルフ第三王子に張り飛ばされた。華奢なセシリアが筋肉バカのルドルフの殴られたら死の可能性すらあった。全ては聖女を自称する虚栄心の強い従姉コリンヌの仕業だった。公爵令嬢の自分がまだ婚約が決まらないのに、伯爵令嬢でしかない従妹のセシリアが第三王子と婚約しているのに元々腹を立てていたのだ。そこに叔父のブートル伯爵家ウィリアムに男の子が生まれたのだ。このままでは姉妹しかいないウィルブラハム公爵家は叔父の息子が継ぐことになる。それを恐れたコリンヌは筋肉バカのルドルフを騙してセシリアだけでなくブートル伯爵家を追放させようとしたのだった。

処理中です...