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第一章
第29話:創造神対策
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帝国暦1122年・神暦1022年・王国暦122年1月1日・ロディー視点
ロディー15歳
「創造神様、どうが弟のルキウスに武術系スキルを神与してください。
王太女のアレッサンドラには農民スキルを与えてください。
王家に脅されて神与スキルを偽る神官には神罰を下してください。
お願いの代価として、今日から毎日最高の酒と料理を供えさせていただきます。
ですが、もし、代価を受け取ったにもかかわらず、願いを叶えてくださらないような事があれば、もう2度と御供えをしない事にします」
俺はそう大声で言いながら、全領民が注目する中で酒と料理を供えた。
前世の知識と自炊経験を生かした家庭料理の数々。
急速に創り出した香辛料を使った刺激的な料理の数々。
全領民、特にドワーフがよだれを垂れ流しながら見つめる、100年エイジングしたワイン、シードル、清酒、焼酎の数々!
初日はお供えが消え去るまで2時間ほどの時間がかかった。
ドワーフたちが酒を奪わないように、周囲に殺気を放たなければいけなかった。
だが、2日目からはお供えすると直ぐに消えた。
気合を入れて作るのは晩飯だが、朝飯と昼飯も俺と同じ物を供えた。
俺は飲まないが、お供えには酒もつけた。
神様が、それも創造神様が、1日3食大量の酒を飲む。
悪い事なので、普通なら俺も勧めない。
だが今回は創造神を堕落させて利用するための賄賂だ。
倫理や道徳など知った事ではない。
俺は創造神を酒と料理で籠絡した。
「戦いに備えて剣鉈術と戦斧術を中心に鍛える。
ジュダックとハワード、ジェイミーとナイルには相手を頼む」
「「「「分かった」」」」
4人は声をそろえて同意してくれた。
魔力鍬で耕すのではなく、剣鉈と戦斧で戦うのだ。
エンシェントドワーフ、緑竜、聳孤は格好の練習相手だ。
4人と互角以上に渡り合えれば、人間相手なら簡単に勝てる。
そもそも、スキルレベルや能力値は一般的な人族を圧倒している。
カタログスペック的には人族に負けるはずがない。
だが、あくまでも数値的に高いだけだ。
実戦で修羅場をくぐっているわけではない。
絶対に勝てると安穏にはしていられない。
「世界樹城に移動する。
後の事は任せたぞ、ジュダック、ハワード」
「領民の事は任せろ」
「騎士殿の大切な領民は私が護ってみせます」
ジュダックとハワードが力強く応じてくれた。
護衛のドワーフたちが世界樹城に移動させる家畜も護ってくれる。
今後のアズナブル商会との交易も考えると、家畜は移動させた方がいい。
1の城だと領民が世話をしなければいけないが、世界樹城なら手間いらずだ。
世界樹城が柵や天井を作って家畜を護ってくれる。
何より剣鉈術や戦斧術を鍛えるには、普通の樹木よりも魔樹を切った方がいい。
同じ1本を剪定伐採するなら、魔樹の方が多くの経験値が得られる。
伐採した後で利用するのも、魔樹の方が固くて丈夫で建材として優秀だ。
人間に売る場合は、普通の樹木の100倍1000倍で買ってもらえる。
だが、それではこれまでと同じようにカタログスペックが上がるだけだ。
「世界樹、近くにいる魔獣を片っ端からここに追い込んでこい。
上手くやったら、いつもより多くの肥料をやる。
なんなら子供を育ててやってもいいぞ」
「……いつもより多くの肥料をもらえるなら何だってやる。
だが、子供は無理だ……
これまで何度も試したが、どれだけ種を作り出しても芽吹かない。
樹木神である世界樹は吾しか存在できないのだ」
「お前だけではできなくても、俺が手を貸せばできるかもしれない。
まあ、それは俺の経験値を稼いだ後の話だ。
まずは手当たり次第に魔獣をここに追い込め」
「死なないでくださいよ。
もう貴男の肥料なしでは生きていけない」
「分かっているから、さっさとやれ!」
「はい!」
最後に悲鳴のような心話を届けて来た世界樹が気配を断った。
これ以上心話を続けて俺を怒らせたくなかったのだろう。
「ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブヒィイイイイイ!」
最初に現れた魔獣は猪系だった。
世界樹の根が地中から槍のように現れるので、必死で逃げている。
俺は木の陰に隠れて待ち伏せをする。
前世にいたマタギが言う木化けの技だ。
この世界では隠形のスキルになるのだろう。
「ブヒィイ!」
世界樹が上手く誘導してくれたので、一撃で心臓を貫く事ができた。
柄の長いタイプの戦斧は、先に尖った槍のような部分がある。
そこを上手く使えば、本来なら俺には使えないはずの槍として使える。
対人戦、特に個人戦を考えれば、斧として振り回すよりは、槍として最短距離を鋭く早く突けるようになった方がいい。
「次が直ぐ来ます」
世界樹は俺が余裕を持って対応できるようにしてくれる。
猪系、牛系、クモ系、トカゲ系、ヘビ系などの魔獣を次々と追い込んでくれる。
基本は刺突で心臓を貫いて殺す。
即死させられない時は、斧部分で首を斬り落とす。
スキルではない実戦的な能力が上がっているのが、自分でも分かる。
「もう暗くなってきました。
そろそろお休みになったほうがいいのではありませんか?」
世界樹が俺の事を心配してくれる。
人間としての俺を心配してくれているのではなく、肥料を創れる者として心配しているのは分かっているが、少しはうれしい。
「夜の方が経験を積むのには都合がいい。
このまま魔獣を追ってくれ」
このまま近くにいる全ての魔獣を殺すまでやっても何の問題もない。
創造神に料理と酒を供える日課はもう済ませている。
世界樹城には1の城よりも立派な創造神像がある。
世界樹城の方を重要視しているわけではない。
単に材料となる木が大森林の方が太く固い魔樹だからだ。
「分かりました。
ですが次は灰魔蛇ですが、本当にいいのですね?」
灰魔蛇とは大物がかかったな。
毒は持っていないが、最大個体の体長は20m。
体重に至っては体重1500kgの強力な魔獣だ。
「かまわない。
危ないと思ったら魔力鍬で耕すから心配するな」
「分かりました。
騎士殿を信じます」
世界樹が灰魔蛇をこちらに追い込んできてくれる。
根や蔦を槍のようにして上下左右から灰魔蛇を襲っている。
俺が肥料を与えているから、身体に蓄えているエネルギーに余裕があるのだろう。
世界樹が以前よりも強くなっているのが分かる。
灰魔蛇が魔力斧槍の間合いに近づいてくる。
これまで殺したヘビ系と同じように、一撃で首を刎ねる心算だったが、最大個体の灰魔蛇はここまで追い込まれていても冷静だった。
前世にいたへピと同じように、赤外線感知器官を持っているのだろう。
俺が待ち伏せしている事に気がついて、逃げるだけでなく、俺を殺すつもりだ!
シャアアアアア!
20mの巨体を生かして、頭部を高くして弱点を安全な場所に持っていく。
これで先手を取って一撃で首を刎ねられなくなった。
だが、俺の知っている言葉に『後の先』がある。
敵が技を仕掛けてきたのを逆手にとって、技をかけ返すというモノだ。
相手がヘビ種と分かった時点で、こうなる事も予測していた。
俺は灰魔蛇が頭を持ち上げるタイミングを合わせて飛び上がって。
一足で灰魔蛇の頭部と同じ高さまで飛び上がるのではない。
機動性、特に小刻みに移動できるように、周囲の魔樹を活用した。
最初からこのような場合に有利なように、活用できる魔樹が最良の間隔で生えている所で待ち伏せしていたのだ。
ザッ、パーン。
灰魔蛇の鱗は結構硬いのだが、俺の魔力斧槍を防げる鱗ではない。
俺が魔力で創り出した道具は、この世界で最も硬いとも言われる、エンシェントドラゴンの鱗を易々と切り裂くのだ。
灰魔蛇の鱗では豆腐を鋼鉄の刀で斬るのも同然だ。
しかも魔力で創り出した斧槍だから、大きさも自由自在に変えられる。
俺は1の城と世界樹城を何度も往復して準備を整えた。
隠形のスキルはもちろん、戦闘スキルも上昇させた。
実戦経験も、魔獣が相手とはいえ十分積んだ。
憶病で慎重な俺にとっては万全ではないが、やれることはやった。
「ジュダック、ハワード、俺をアルテリア王国の王城にまで運んでくれ」
「人間に知られないようにだな?」
緑竜ジュダックが確認してくる。
「ああ、そうだ。
最悪暴れなければいけないが、創造神が願い通りにしてくれれば暴れないですむ」
「あれだけ遠慮なく飲み食いしたのです。
創造神ともあろう方が、裏切ったりしないでしょう。
ここで裏切ったら、大森林に住む者たちの信心を失ってしまいます」
100年エイジングの酒が目の前にあるのに飲めなかった、聳孤ハワードが怨念のこもった声色で話す。
前世では食い物の恨みは怖いと言われていたが、この世界では酒の恨みの方が怖いのだろう。
ドワーフたちはもちろん、ジュダックの目も座っている。
「確かに、あれだけ散々飲み食いしておいて、願いを叶えない事はないだろう。
そうは思うが、何事も最悪を想定しておいた方がいい。
だから姿を隠して王城に忍び込む。
ただ、俺単独では見つかってしまうし、移動も大変だ。
空を翔けられて、隠形にも長けている人に助けてもらいたい」
俺はこの場にいる全員に、創造神を完全には信じていないと断言した。
「そうだな、騎士殿も隠形のスキルを得たが、まだ我々よりは低い。
空を翔ける術も持っていない。
ここは我らが協力すべきところだろう」
「私は喜んで協力させていただきますよ。
騎士殿のことですから、協力した者にはそれ相応の対価を与えてくれるでしょう。
私としては、創造神様が願いを無視してくれた方がありがたい。
そうなれば、協力した我々の価値が高くなる。
100年エイジングの清酒をもらえる可能性が高くなりますからね」
緑竜ジュダックは自分の能力を誇るように協力を約束してくれた。
一方聳孤ハワードは、お礼を催促するように協力を約束してくれた。
しかも、創造神を脅迫するような言葉まで口にしてくれた。
自分の立場、危険を顧みない言葉にはそれなりの礼が必要だろう。
「待ってくれ騎士殿。
協力した者に100年エイジングの清酒を与えるというのは本当か?!」
ジェイミーが唾を飛ばさんばかりに聞いてきた。
「そりゃあ、創造神を脅す言葉まで口にして協力を約束してくれたのだ。
神与の儀式で創造神がどういう態度を取ろうと、約束を破ろうと、協力してくれた者に礼をするのは当然だろう。
特にハワードに対するお礼は別格になるだろうな」
「なんだと?!
同じように協力する俺と差をつけると言うのか!」
緑竜ジュダックがジェイミーを押しのけて聞いてきた。
「そりゃあ、自分の力を誇示するように協力してくれるジュダックと、創造神を脅かして協力してくれるハワードでは、お礼に差が出るさ」
「だったら俺も創造神に喧嘩を売るぞ!
やい、創造神、約束を破ったらドラゴブレスを喰らわしてやるからな!
この世界にある全ての創造神像を焼いてやるぞ!」
「そこまで言ってくれてありがとう。
今回協力してくれる2人には、100年エイジングのワインを飲んでもらうよ」
「「ウォオオオオ」」
「私もだ!
私も協力するから100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
「俺もだ、俺も協力する!」
「創造神像を焼くのに協力するから100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
「俺は王都に行く。
王都に行って王家を滅ぼすから、100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
「俺もだ、俺も協力するから100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
酒に狂っているドワーフたちは、収拾がつかなくなるくらい喰いついた。
俺は最初からこうなる事が分かっていて餌を撒いたのだ。
創造神を敵に回すのなら、味方は多い方がいい。
創造神がこの世界にどれだけ介入するのかは分からない。
全く介入しないのならいいが、俺の邪魔をするような介入をしてくるかもしれないのだ。
そんな事になったら、最悪直接創造神と対決する事もあり得る。
創造神の介入のしかたによったら、緑竜ジュダック以外の全ドラゴンを敵に回す可能性もあるからな。
『ロディー騎士領』
領主:ロディー
家臣:エンシェントドワーフ・38人(ジェイミー、ナイル・ショーンなど)
:ハイドワーフ ・75人
:エルダードワーフ ・123人
:ドワーフ ・551人
家臣:人間 ・1人(アルフィン)
小作:人間男 ・24人
:人間女 ・24人
:人間子供 ・35人
:人間寡婦 ・172人
:人間孤児 ・214人
馬 :軍馬 ・11頭
:輓馬 ・71頭
:牛 ・185頭
:山羊 ・706頭
:羊 ・907頭
:豚 ・1042頭
:鶏 ・5268羽
:走鳥 ・954羽
『ロディー』
種族:ホモサピエンス
神与スキル:農民 ・レベル21006
:自作農民・レベル12071
:開拓農民・レベル123026
:地主農民・レベル12123
:武装農民・レベル21006
付属スキル:耕種農業レベル21006
耕作 レベル5783
種蒔き レベル3351
品種改良レベル3351
農薬生産レベル4312
農薬散布レベル4312
選定 レベル6454
収穫 レベル896
剣鉈術 レベル21006
戦斧術 レベル21006
:工芸農業レベル212
木工 レベル212
紡績 レベル212
織物 レベル322
:自作 レベル12071
燻製 レベル68
酒造 レベル12071
発酵 レベル12071
陶芸 レベル225
料理 レベル4402
:開拓 レベル123026
伐採 レベル6353
建築 レベル1293
石工 レベル 21
魔力生産レベル123026
魔力増幅レベル123026
:地主農民レベル12123
領民指導レベル12123
:武装農民レベル21006
剣術 レベル21006
槍術 レベル96
戦斧術 レベル21006
弓術 レベル195
石弓術 レベル9
隠形術 レベル924
拳術 レベル9
脚術 レベル9
柔術 レベル9
戦術 レベル9
馬術 レベル878
調教術 レベル878
一般スキル:生産術レベル2942
木工 レベル1293
絵画 レベル9
習字 レベル9
算術 レベル9
料理 レベル4402
刺繍 レベル9
裁縫 レベル32
大工 レベル1293
石工 レベル21
「基本能力」
HP:3613289
魔力:3601267
命力:2939006
筋力:3029552
体力:3024198
知性:2816944
精神:2721735
速力:2516853
器用:1480760
運 :1480760
魅力:1892320
ロディー15歳
「創造神様、どうが弟のルキウスに武術系スキルを神与してください。
王太女のアレッサンドラには農民スキルを与えてください。
王家に脅されて神与スキルを偽る神官には神罰を下してください。
お願いの代価として、今日から毎日最高の酒と料理を供えさせていただきます。
ですが、もし、代価を受け取ったにもかかわらず、願いを叶えてくださらないような事があれば、もう2度と御供えをしない事にします」
俺はそう大声で言いながら、全領民が注目する中で酒と料理を供えた。
前世の知識と自炊経験を生かした家庭料理の数々。
急速に創り出した香辛料を使った刺激的な料理の数々。
全領民、特にドワーフがよだれを垂れ流しながら見つめる、100年エイジングしたワイン、シードル、清酒、焼酎の数々!
初日はお供えが消え去るまで2時間ほどの時間がかかった。
ドワーフたちが酒を奪わないように、周囲に殺気を放たなければいけなかった。
だが、2日目からはお供えすると直ぐに消えた。
気合を入れて作るのは晩飯だが、朝飯と昼飯も俺と同じ物を供えた。
俺は飲まないが、お供えには酒もつけた。
神様が、それも創造神様が、1日3食大量の酒を飲む。
悪い事なので、普通なら俺も勧めない。
だが今回は創造神を堕落させて利用するための賄賂だ。
倫理や道徳など知った事ではない。
俺は創造神を酒と料理で籠絡した。
「戦いに備えて剣鉈術と戦斧術を中心に鍛える。
ジュダックとハワード、ジェイミーとナイルには相手を頼む」
「「「「分かった」」」」
4人は声をそろえて同意してくれた。
魔力鍬で耕すのではなく、剣鉈と戦斧で戦うのだ。
エンシェントドワーフ、緑竜、聳孤は格好の練習相手だ。
4人と互角以上に渡り合えれば、人間相手なら簡単に勝てる。
そもそも、スキルレベルや能力値は一般的な人族を圧倒している。
カタログスペック的には人族に負けるはずがない。
だが、あくまでも数値的に高いだけだ。
実戦で修羅場をくぐっているわけではない。
絶対に勝てると安穏にはしていられない。
「世界樹城に移動する。
後の事は任せたぞ、ジュダック、ハワード」
「領民の事は任せろ」
「騎士殿の大切な領民は私が護ってみせます」
ジュダックとハワードが力強く応じてくれた。
護衛のドワーフたちが世界樹城に移動させる家畜も護ってくれる。
今後のアズナブル商会との交易も考えると、家畜は移動させた方がいい。
1の城だと領民が世話をしなければいけないが、世界樹城なら手間いらずだ。
世界樹城が柵や天井を作って家畜を護ってくれる。
何より剣鉈術や戦斧術を鍛えるには、普通の樹木よりも魔樹を切った方がいい。
同じ1本を剪定伐採するなら、魔樹の方が多くの経験値が得られる。
伐採した後で利用するのも、魔樹の方が固くて丈夫で建材として優秀だ。
人間に売る場合は、普通の樹木の100倍1000倍で買ってもらえる。
だが、それではこれまでと同じようにカタログスペックが上がるだけだ。
「世界樹、近くにいる魔獣を片っ端からここに追い込んでこい。
上手くやったら、いつもより多くの肥料をやる。
なんなら子供を育ててやってもいいぞ」
「……いつもより多くの肥料をもらえるなら何だってやる。
だが、子供は無理だ……
これまで何度も試したが、どれだけ種を作り出しても芽吹かない。
樹木神である世界樹は吾しか存在できないのだ」
「お前だけではできなくても、俺が手を貸せばできるかもしれない。
まあ、それは俺の経験値を稼いだ後の話だ。
まずは手当たり次第に魔獣をここに追い込め」
「死なないでくださいよ。
もう貴男の肥料なしでは生きていけない」
「分かっているから、さっさとやれ!」
「はい!」
最後に悲鳴のような心話を届けて来た世界樹が気配を断った。
これ以上心話を続けて俺を怒らせたくなかったのだろう。
「ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブッヒ、ブヒィイイイイイ!」
最初に現れた魔獣は猪系だった。
世界樹の根が地中から槍のように現れるので、必死で逃げている。
俺は木の陰に隠れて待ち伏せをする。
前世にいたマタギが言う木化けの技だ。
この世界では隠形のスキルになるのだろう。
「ブヒィイ!」
世界樹が上手く誘導してくれたので、一撃で心臓を貫く事ができた。
柄の長いタイプの戦斧は、先に尖った槍のような部分がある。
そこを上手く使えば、本来なら俺には使えないはずの槍として使える。
対人戦、特に個人戦を考えれば、斧として振り回すよりは、槍として最短距離を鋭く早く突けるようになった方がいい。
「次が直ぐ来ます」
世界樹は俺が余裕を持って対応できるようにしてくれる。
猪系、牛系、クモ系、トカゲ系、ヘビ系などの魔獣を次々と追い込んでくれる。
基本は刺突で心臓を貫いて殺す。
即死させられない時は、斧部分で首を斬り落とす。
スキルではない実戦的な能力が上がっているのが、自分でも分かる。
「もう暗くなってきました。
そろそろお休みになったほうがいいのではありませんか?」
世界樹が俺の事を心配してくれる。
人間としての俺を心配してくれているのではなく、肥料を創れる者として心配しているのは分かっているが、少しはうれしい。
「夜の方が経験を積むのには都合がいい。
このまま魔獣を追ってくれ」
このまま近くにいる全ての魔獣を殺すまでやっても何の問題もない。
創造神に料理と酒を供える日課はもう済ませている。
世界樹城には1の城よりも立派な創造神像がある。
世界樹城の方を重要視しているわけではない。
単に材料となる木が大森林の方が太く固い魔樹だからだ。
「分かりました。
ですが次は灰魔蛇ですが、本当にいいのですね?」
灰魔蛇とは大物がかかったな。
毒は持っていないが、最大個体の体長は20m。
体重に至っては体重1500kgの強力な魔獣だ。
「かまわない。
危ないと思ったら魔力鍬で耕すから心配するな」
「分かりました。
騎士殿を信じます」
世界樹が灰魔蛇をこちらに追い込んできてくれる。
根や蔦を槍のようにして上下左右から灰魔蛇を襲っている。
俺が肥料を与えているから、身体に蓄えているエネルギーに余裕があるのだろう。
世界樹が以前よりも強くなっているのが分かる。
灰魔蛇が魔力斧槍の間合いに近づいてくる。
これまで殺したヘビ系と同じように、一撃で首を刎ねる心算だったが、最大個体の灰魔蛇はここまで追い込まれていても冷静だった。
前世にいたへピと同じように、赤外線感知器官を持っているのだろう。
俺が待ち伏せしている事に気がついて、逃げるだけでなく、俺を殺すつもりだ!
シャアアアアア!
20mの巨体を生かして、頭部を高くして弱点を安全な場所に持っていく。
これで先手を取って一撃で首を刎ねられなくなった。
だが、俺の知っている言葉に『後の先』がある。
敵が技を仕掛けてきたのを逆手にとって、技をかけ返すというモノだ。
相手がヘビ種と分かった時点で、こうなる事も予測していた。
俺は灰魔蛇が頭を持ち上げるタイミングを合わせて飛び上がって。
一足で灰魔蛇の頭部と同じ高さまで飛び上がるのではない。
機動性、特に小刻みに移動できるように、周囲の魔樹を活用した。
最初からこのような場合に有利なように、活用できる魔樹が最良の間隔で生えている所で待ち伏せしていたのだ。
ザッ、パーン。
灰魔蛇の鱗は結構硬いのだが、俺の魔力斧槍を防げる鱗ではない。
俺が魔力で創り出した道具は、この世界で最も硬いとも言われる、エンシェントドラゴンの鱗を易々と切り裂くのだ。
灰魔蛇の鱗では豆腐を鋼鉄の刀で斬るのも同然だ。
しかも魔力で創り出した斧槍だから、大きさも自由自在に変えられる。
俺は1の城と世界樹城を何度も往復して準備を整えた。
隠形のスキルはもちろん、戦闘スキルも上昇させた。
実戦経験も、魔獣が相手とはいえ十分積んだ。
憶病で慎重な俺にとっては万全ではないが、やれることはやった。
「ジュダック、ハワード、俺をアルテリア王国の王城にまで運んでくれ」
「人間に知られないようにだな?」
緑竜ジュダックが確認してくる。
「ああ、そうだ。
最悪暴れなければいけないが、創造神が願い通りにしてくれれば暴れないですむ」
「あれだけ遠慮なく飲み食いしたのです。
創造神ともあろう方が、裏切ったりしないでしょう。
ここで裏切ったら、大森林に住む者たちの信心を失ってしまいます」
100年エイジングの酒が目の前にあるのに飲めなかった、聳孤ハワードが怨念のこもった声色で話す。
前世では食い物の恨みは怖いと言われていたが、この世界では酒の恨みの方が怖いのだろう。
ドワーフたちはもちろん、ジュダックの目も座っている。
「確かに、あれだけ散々飲み食いしておいて、願いを叶えない事はないだろう。
そうは思うが、何事も最悪を想定しておいた方がいい。
だから姿を隠して王城に忍び込む。
ただ、俺単独では見つかってしまうし、移動も大変だ。
空を翔けられて、隠形にも長けている人に助けてもらいたい」
俺はこの場にいる全員に、創造神を完全には信じていないと断言した。
「そうだな、騎士殿も隠形のスキルを得たが、まだ我々よりは低い。
空を翔ける術も持っていない。
ここは我らが協力すべきところだろう」
「私は喜んで協力させていただきますよ。
騎士殿のことですから、協力した者にはそれ相応の対価を与えてくれるでしょう。
私としては、創造神様が願いを無視してくれた方がありがたい。
そうなれば、協力した我々の価値が高くなる。
100年エイジングの清酒をもらえる可能性が高くなりますからね」
緑竜ジュダックは自分の能力を誇るように協力を約束してくれた。
一方聳孤ハワードは、お礼を催促するように協力を約束してくれた。
しかも、創造神を脅迫するような言葉まで口にしてくれた。
自分の立場、危険を顧みない言葉にはそれなりの礼が必要だろう。
「待ってくれ騎士殿。
協力した者に100年エイジングの清酒を与えるというのは本当か?!」
ジェイミーが唾を飛ばさんばかりに聞いてきた。
「そりゃあ、創造神を脅す言葉まで口にして協力を約束してくれたのだ。
神与の儀式で創造神がどういう態度を取ろうと、約束を破ろうと、協力してくれた者に礼をするのは当然だろう。
特にハワードに対するお礼は別格になるだろうな」
「なんだと?!
同じように協力する俺と差をつけると言うのか!」
緑竜ジュダックがジェイミーを押しのけて聞いてきた。
「そりゃあ、自分の力を誇示するように協力してくれるジュダックと、創造神を脅かして協力してくれるハワードでは、お礼に差が出るさ」
「だったら俺も創造神に喧嘩を売るぞ!
やい、創造神、約束を破ったらドラゴブレスを喰らわしてやるからな!
この世界にある全ての創造神像を焼いてやるぞ!」
「そこまで言ってくれてありがとう。
今回協力してくれる2人には、100年エイジングのワインを飲んでもらうよ」
「「ウォオオオオ」」
「私もだ!
私も協力するから100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
「俺もだ、俺も協力する!」
「創造神像を焼くのに協力するから100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
「俺は王都に行く。
王都に行って王家を滅ぼすから、100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
「俺もだ、俺も協力するから100年エイジングのワインを飲ませてくれ!」
酒に狂っているドワーフたちは、収拾がつかなくなるくらい喰いついた。
俺は最初からこうなる事が分かっていて餌を撒いたのだ。
創造神を敵に回すのなら、味方は多い方がいい。
創造神がこの世界にどれだけ介入するのかは分からない。
全く介入しないのならいいが、俺の邪魔をするような介入をしてくるかもしれないのだ。
そんな事になったら、最悪直接創造神と対決する事もあり得る。
創造神の介入のしかたによったら、緑竜ジュダック以外の全ドラゴンを敵に回す可能性もあるからな。
『ロディー騎士領』
領主:ロディー
家臣:エンシェントドワーフ・38人(ジェイミー、ナイル・ショーンなど)
:ハイドワーフ ・75人
:エルダードワーフ ・123人
:ドワーフ ・551人
家臣:人間 ・1人(アルフィン)
小作:人間男 ・24人
:人間女 ・24人
:人間子供 ・35人
:人間寡婦 ・172人
:人間孤児 ・214人
馬 :軍馬 ・11頭
:輓馬 ・71頭
:牛 ・185頭
:山羊 ・706頭
:羊 ・907頭
:豚 ・1042頭
:鶏 ・5268羽
:走鳥 ・954羽
『ロディー』
種族:ホモサピエンス
神与スキル:農民 ・レベル21006
:自作農民・レベル12071
:開拓農民・レベル123026
:地主農民・レベル12123
:武装農民・レベル21006
付属スキル:耕種農業レベル21006
耕作 レベル5783
種蒔き レベル3351
品種改良レベル3351
農薬生産レベル4312
農薬散布レベル4312
選定 レベル6454
収穫 レベル896
剣鉈術 レベル21006
戦斧術 レベル21006
:工芸農業レベル212
木工 レベル212
紡績 レベル212
織物 レベル322
:自作 レベル12071
燻製 レベル68
酒造 レベル12071
発酵 レベル12071
陶芸 レベル225
料理 レベル4402
:開拓 レベル123026
伐採 レベル6353
建築 レベル1293
石工 レベル 21
魔力生産レベル123026
魔力増幅レベル123026
:地主農民レベル12123
領民指導レベル12123
:武装農民レベル21006
剣術 レベル21006
槍術 レベル96
戦斧術 レベル21006
弓術 レベル195
石弓術 レベル9
隠形術 レベル924
拳術 レベル9
脚術 レベル9
柔術 レベル9
戦術 レベル9
馬術 レベル878
調教術 レベル878
一般スキル:生産術レベル2942
木工 レベル1293
絵画 レベル9
習字 レベル9
算術 レベル9
料理 レベル4402
刺繍 レベル9
裁縫 レベル32
大工 レベル1293
石工 レベル21
「基本能力」
HP:3613289
魔力:3601267
命力:2939006
筋力:3029552
体力:3024198
知性:2816944
精神:2721735
速力:2516853
器用:1480760
運 :1480760
魅力:1892320
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