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征夷大将軍

第229話:一八四六年、消耗戦

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 私掠船の活躍は俺の想像以上だった。
 スペイン、フランス、イタリア、バルカン半島諸国、オスマン帝国の地中海沿岸にある造船所では、多くの戦闘船が建造されている。
 今まで普通の交易に使われていた艦船が武装され、イギリス艦船の交易路の出没して襲い掛かっている。
 海洋帝国イギリスの根幹を揺るがす大問題だった。

 今はまだ私掠船として活動していないが、ポルトガル、スペイン、フランスの大西洋沿岸の港でも、多くの戦闘船が建造されている。
 それだけではなく、ノルウェー海、北海、バルト海、ボスニア湾、フィンランド湾、白海、バレンツ海でも艦船の建造が行われている。

 イギリス海軍の戦列艦やフリゲート艦、外輪船などに勝てる艦船は少ないが、小型の交易船が相手なら十分勝ち目がある艦船が建造されている。
 それに建造した艦船は絶対に私掠船として使わなければいけない訳ではない。
 普通に交易に使っても十分利益を上げることができる。
 優秀な艦艇なら徳川家の現地軍が購入する可能性もある。
 ただ今なら、内戦が激しい欧州各国で艦船を使って武器を販売すれば、まず間違いなく利益を上げることができるので、艦船の建造競争が始まっていた。

 こんな状態にイギリスも危機感を募らせたのだろう。
 欧州列強の内乱には介入しない方針を転換したようだ。
 イギリスに好意的な勢力に味方して、大西洋とビスケー湾、イギリス海峡とドーバー海峡に面している沿岸部に拠点を持っている敵対勢力に襲い掛かったのだ。
 敵対勢力が建造した艦船が、地中海に拠点を移して私掠船になるのを警戒したのか、そのままその港を拠点として私掠船になる事を恐れたのか、それは分からない。

 普通は国内の内乱で疲弊する勢力がイギリスを相手に戦いを始める事はない。
 だが徳川家やオスマン帝国の属国になる覚悟を決めたら、一気に国内を統一してしまう可能性があるのだ。
 それくらいスペインとフランスの国内勢力は疲弊して勢力もが均衡化している。
 いや、均衡化するように、徳川家がポーランド・リトアニア貴族やジプシーを使って武器や兵糧を販売して調整していたのだ。

 その危険性に気がついたからこそ、国内産業の立て直しが急務のイギリスが貴重な男性労働者や男性農民を強制徴募して、陸軍兵士として欧州に上陸させたのだろう。
 まあ、強制徴募されたのは叛乱の恐れのある非アングロサクソンだ。
 だからこそ欧州陸路で行軍させれば脱走してしまう可能性が極端大きい。
 実際徳川家の命を受けたポーランド・リトアニア貴族やジプシーが、彼らの脱走に協力している。
 そしてイギリス上陸を目指す叛乱軍として訓練されている。

 何よりイギリスを苦しめているのが艦艇と水兵の損耗だ。
 大砲で守られた港を襲撃すれば大きな被害を受けるのが当然だ。
 当てにしていた陸軍が兵士の脱走で戦えなくなったら、当然海軍の負担になる。
 襲撃に成功して手に入る艦船よりも、撃退されて損耗する艦艇の方が多い。
 徳川家が着々と艦艇の大増産をしているのとは対照的だった。
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