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征夷大将軍
第205話:一八四三年、ロシア帝国滅亡・尾張徳川家指揮官
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「陣代殿、敵が逃げていきます、追い討ちをかけますか」
「だめだ、追い打ちを行った者は例え上様の縁者でも打ち首だ。
そのことはお預かりしたこの宝刀にかけて許さん。
これは上様の大戦略なのだ、絶対に追い討ちをさせるな」
「はっ」
何度言っても戦略が理解できない馬鹿がいる。
目先の手柄、いや、手柄に見える謀叛を行おうとする。
上様の大戦略を邪魔をするなど味方に見せかけた謀叛だ。
いっそ一つくらい大名家を皆殺しにするか。
それくらいの事はやった方がいいな。
「ご苦労だな、陣代殿」
「これはこれは、バルキール様、見苦しい所を御見せいたしました」
上様の叔父上の御一人、松平胤昌、何か御用なのか。
「いや、いや、諸侯を纏める大役は並大抵のことではない。
紀州家や御三卿の家臣の中には腹の中では陣代殿の事を下に見ている者もいる。
各家にも陣代が派遣されているとはいえ、上手く扱うには骨が折れる事だ。
少々の脅しやよいしょは仕方がない事よ。
我も上様には返しきれない御恩がある。
見ているだけでは胸が痛むのだ
裏仕事でも汚れ仕事でも構わん、何か手伝える事はないかと思ってな」
「有難いお言葉でございます」
嘘は、ないようだな。
確かにバルキール様は上様に大きな恩を受けている。
遠藤家に養嗣子に入ったはいいが、いつまでの家が継げず子供も生まれず、あのままでは遠藤家で何も残せなかったかもしれない。
それを上様が力技で交渉して新田藩の当主として迎えられ、今では三十万石の大領を治めるばかりか、多くの小藩を寄騎に加えた最前線指揮官だ。
「では、上様の命に下側に者を殺していただけますか。
時には大名家の当主を家臣ごと皆殺しにしていただくかもしれませんが」
バルキール様がにんまりと笑われた。
最初からその覚悟で来てくださったのか。
もしかしたら上様からの密命が下っているのか。
「望むところよ、陣代殿。
そのような憎まれ役は、陣代殿よりも上様の縁者である余が適任よ」
バルキール様も気を使われておられるな。
叔父という上に見られるような言葉は使わず、縁者と口にされるか。
「陣代殿には上様から密使が来ているであろう。
ロシアの王侯貴族はできるだけ欧州列強に逃がす。
逃がして徳川幕府の恐ろしさを広める。
同時にポーランド・リトアニア王国の貴族も送り込み、欧州列強を内から争うように仕向ける。
ロシアの王侯貴族の中でこちらに味方する者がいるなら、莫大な扶持を約束して欧州列強を内から争わす謀略に協力させる。
追い討ちなど絶対にさせられない事よ」
「はっ、私もそのように密命を受けております」
「恐らく余と神代殿、いや、上様股肱の直臣だけは密命を受けていよう。
神代殿はあくまでも表の指揮に専念されよ。
汚れ仕事は余が引き受ける、安心されよ」
前線の指揮官に負担がかかり過ぎないように、役割を分担するように上様が考えてくださったのだな、有難い話だ。
バルキール様もうれしそうだな。
上様に信頼されているのがうれしいのであろうな。
上様のお人が悪い。
叔父上に甘えるような役目を与えて、自尊心をくすぐるのだからな。
だが、確かに味方を殺すような役目はバルキール様しかやれないな。
私も上様の信頼に応えられるように頑張らねばならん。
何としても「埋伏の毒」を無事に逃がさねばならん。
もう既にあの中には裏切りを確約している王侯貴族がいるはずだ。
「だめだ、追い打ちを行った者は例え上様の縁者でも打ち首だ。
そのことはお預かりしたこの宝刀にかけて許さん。
これは上様の大戦略なのだ、絶対に追い討ちをさせるな」
「はっ」
何度言っても戦略が理解できない馬鹿がいる。
目先の手柄、いや、手柄に見える謀叛を行おうとする。
上様の大戦略を邪魔をするなど味方に見せかけた謀叛だ。
いっそ一つくらい大名家を皆殺しにするか。
それくらいの事はやった方がいいな。
「ご苦労だな、陣代殿」
「これはこれは、バルキール様、見苦しい所を御見せいたしました」
上様の叔父上の御一人、松平胤昌、何か御用なのか。
「いや、いや、諸侯を纏める大役は並大抵のことではない。
紀州家や御三卿の家臣の中には腹の中では陣代殿の事を下に見ている者もいる。
各家にも陣代が派遣されているとはいえ、上手く扱うには骨が折れる事だ。
少々の脅しやよいしょは仕方がない事よ。
我も上様には返しきれない御恩がある。
見ているだけでは胸が痛むのだ
裏仕事でも汚れ仕事でも構わん、何か手伝える事はないかと思ってな」
「有難いお言葉でございます」
嘘は、ないようだな。
確かにバルキール様は上様に大きな恩を受けている。
遠藤家に養嗣子に入ったはいいが、いつまでの家が継げず子供も生まれず、あのままでは遠藤家で何も残せなかったかもしれない。
それを上様が力技で交渉して新田藩の当主として迎えられ、今では三十万石の大領を治めるばかりか、多くの小藩を寄騎に加えた最前線指揮官だ。
「では、上様の命に下側に者を殺していただけますか。
時には大名家の当主を家臣ごと皆殺しにしていただくかもしれませんが」
バルキール様がにんまりと笑われた。
最初からその覚悟で来てくださったのか。
もしかしたら上様からの密命が下っているのか。
「望むところよ、陣代殿。
そのような憎まれ役は、陣代殿よりも上様の縁者である余が適任よ」
バルキール様も気を使われておられるな。
叔父という上に見られるような言葉は使わず、縁者と口にされるか。
「陣代殿には上様から密使が来ているであろう。
ロシアの王侯貴族はできるだけ欧州列強に逃がす。
逃がして徳川幕府の恐ろしさを広める。
同時にポーランド・リトアニア王国の貴族も送り込み、欧州列強を内から争うように仕向ける。
ロシアの王侯貴族の中でこちらに味方する者がいるなら、莫大な扶持を約束して欧州列強を内から争わす謀略に協力させる。
追い討ちなど絶対にさせられない事よ」
「はっ、私もそのように密命を受けております」
「恐らく余と神代殿、いや、上様股肱の直臣だけは密命を受けていよう。
神代殿はあくまでも表の指揮に専念されよ。
汚れ仕事は余が引き受ける、安心されよ」
前線の指揮官に負担がかかり過ぎないように、役割を分担するように上様が考えてくださったのだな、有難い話だ。
バルキール様もうれしそうだな。
上様に信頼されているのがうれしいのであろうな。
上様のお人が悪い。
叔父上に甘えるような役目を与えて、自尊心をくすぐるのだからな。
だが、確かに味方を殺すような役目はバルキール様しかやれないな。
私も上様の信頼に応えられるように頑張らねばならん。
何としても「埋伏の毒」を無事に逃がさねばならん。
もう既にあの中には裏切りを確約している王侯貴族がいるはずだ。
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