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征夷大将軍

第196話:一八四一年・アヘン戦争5

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「イングランド人を許すな」
「家族の仇を討て」
「アングロサクソンを皆殺しにしろ」
「この船を手に入れるんだ」
「船売ったら大金持ちになれるぞ」

 イギリス軍第二次東洋艦隊で叛乱が起こった。
 強制徴募された非アングロサクソンが主力だったがそれだけではない。
 劣悪な環境で低賃金に苦しめられていた古参水兵も進んで加わった。
 身分意識や差別意識の強い性悪士官の存在が叛乱軍を増強していた。
 ほとんどの艦艇で大なり小なりの叛乱が勃発していた。
 それは東インド会社がら徴発された艦艇も同じだった。

 とてもではないが艦隊戦などできる状態ではなかった。
 だがここで徳川艦隊が砲撃戦を行えば、叛乱兵も一緒に殺されてしまう。
 そうなれば叛乱に加わった古参水兵も新兵も叛乱を思いとどまってしまう。
 艦長や士官が恩赦を約束して団結させるかもしれない。
 だから徳川艦隊は砲撃戦を行わなかった。

「直ぐに助けに行くぞ。
 叛乱兵には自由と拿捕賞金を約束する。
 イギリス本土を占領したら、北アイルランドとスコットランドを独立させる。
 お前達は建国の英雄になるのだぞ」

 徳川艦隊は、それぞれの艦から叛乱兵に声援を送った。
 そして自由自在に艦を操れることを生かして、敵艦が砲撃し難い方向から接舷して斬り込み隊を送り込んだ。
 幼い頃から剣術を学んだ武士や、武士に憧れていた平民が主力の斬り込み隊だ。
 しかも斬り込む前にはドライゼ銃かエミエー銃で敵士官を斉射している。
 艦隊に残った仲間からの援護射撃もある。

 敵艦は次々と徳川軍か叛乱軍に掌握されていった。
 前回のように砲撃で穴だらけになった艦艇ではない。
 虎門要塞からの反撃でそれなりに損傷した艦艇はある。
 だが前回の艦隊戦の損傷に比べれば些細な傷だ。
 ほぼ無傷の英国艦艇を徳川海軍は手に入れたのだ。
 徳川家は拿捕された艦艇を高価な値段で購入して艦隊に編入した。

 叛乱兵と徳川艦隊将兵は歓喜していた。
 今回の拿捕では英国軍の拿捕賞金分配基準に準じて賞金が与えられる。
 細かな分配基準は書かないが、艦隊総司令官、艦隊司令官、戦隊指令、艦長、士官、准士官、下士官、水兵によって配分が違ってくる。
 拿捕された艦艇を視認できる位置にいた将兵全員に基準通り分配される。

 叛乱軍だけで艦を拿捕できていたら、水兵達はそれこそ一生遊んで暮らせるだけの金を手に入れられただろうが、今回はそれなりの金額に落ち着く。
 だが生き永らえただけでも十分だろうし、農民になる気なら徳川家の開拓農民になる事も、小作農になる事も可能だ。
 そのまま水兵を続ける気なら、今後も拿捕賞金を得られる機会が続く。
 英本土を侵攻する部隊に志願するのなら、武士や武家奉公人になる事も可能だ。
 そんな話を艦艇の士官が叛乱に加わった者達にしていた。
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