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征東大将軍

第170話:一八三八年、蝦夷新田藩の松平胤昌視点

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 同じ大名家の養嗣子に出られた事はとても運がよかった。
 最悪なら子供を作ることも許されない部屋住みに留められる可能性もあった。
 だが養父が優秀過ぎて中々家督を継げなかった。
 しかも正妻である養父の娘との間にはなかなか子供ができなかった。
 このままだと家督も継げず子供も残せないかもしれないと不安だった

 だが甥が巫覡になった事で運命が激変した。
 万石待遇の陣代として松前藩に迎えたいと言ってもらえた。
 最初は養父も大名として礼に失すると余を松平に戻す事を渋っていた。
 だが甥の、いや、上様から実子が生まれると予言されて翻意した。
 誰だって養子よりも実子に家を継がせたいのだ。

 松前藩に迎えられて七年、信じられないほどの厚遇を受けている。
 蝦夷新田藩として五万石で分家させてもらるなど、近年全く聞かない事だ。
 だがその分働かなければいけない。
 本当ならば叔父の余よりは実子や弟に領地を分け与えたいはずなのだ。
 だが実子や弟は幼過ぎて実戦を任せる事ができない。
 だから成人している余に大領を与え、優秀な家臣寄騎力同心を付けてくれている。
 だから家臣寄騎同心の手前やれることを全力でやらなければいけない。

「火車放て」

 ロシア軍に向かって大量の火車が降っている。
 竹の中の火薬が破裂し、中に詰められた鉛玉が四方に飛び散る。
 上様が清国で大量に作らせた火車がロシア軍を大混乱させている。
 兵だけでなく馬も恐慌状態になっている。
 もう戦える状況ではない

「突撃、余に続け」

 絶対に臆病な所を見せる訳にはいかない。
 敵はもちろん味方の将兵や大名にもだ。
 特に島津家の者達には絶対に臆病な所は見せられない。
 余は東照神君の巫覡である上様の叔父なのだから。

「何としてもヴォルガ川の向うまでロシア軍を追い落とすぞ。
 ヴォルガ川まで確保できれば上様が最上と言われた所まで占領できる。
 我が軍が高須一門最強の軍なのだ」

 負けられない、まだ元服したばかりの甥などには負けられない。
 一門の成人男子として期待されているのは余だ。
 上様の長弟、徳川秀之助殿が尾張徳川家の跡継ぎとして一万兵を率いて北米に向かったと聞く、絶対に負ける訳にはいかないのだ。

 今の石高は五万石だが、家臣寄騎同心、島津家、モンゴルの傭兵などを含めれば五万の兵を上様から預けていただいている。
 もちろん上様が付けてくれた軍師役が実際の指揮を取っている。
 だが上様が言って下さっているように「神輿になりきるには才覚も胆力も必要」なのだ。

 ここで才覚と胆力を証明して実力で褒美を勝ち取る。
 ここに旗頭を置いて、知行地を貰う島津家などの大名家や寄騎同心、上様に臣従を誓うモンゴル傭兵を束ねると上様から聞いている。
 俺がその旗頭になって見せる。
 後から来るだろう上様の弟達には絶対に負けない。

火槍 :竹に火薬を詰めた長い柄の先に取り付けた物
飛火槍:火槍を花火のように飛ばす物
火車 :飛火槍をカチューシャ式ロケット砲の様に多段式にした物
火竜槍:青銅製火縄銃
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