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征東大将軍

第157話:一八三六年、海兵隊と狙撃

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 フランスとイギリスで謀略工作しているからと言って、上陸作戦を実行している両国海軍が手抜きしてくれるわけではない。
 沿岸砲台に守られていたところを艦砲射撃され、海兵隊に上陸作戦を実行される。
 上陸してきた両国海兵隊は、好き放題にエジプトを略奪しようとする。
 だがそんな事をやらせてしまったら、ネイティブの支持を失ってしまう。
 多少の損害は覚悟で撃退しなければいけない、と現地指揮官達は考えた。

 だが実際にはそれほどの損害は受けなかった。
 まず使っている銃の性能が段違いだった。
 フランスとイギリスの海兵隊が先込め式の銃に弾を込めている間に、松前藩の兵士はドライゼ銃で五発も発砲できるのだ。

 しかも最前線のエジプトにまで派遣されている松前藩兵士は、歴戦の戦士だ。
 ライフリングされたドライゼ銃で敵兵を狙撃することができるのだ。
 百発百中とは言えないが、両国の兵士で正確な射撃を行えるのが、燧石式の撃発機構による着火時に大きな衝撃を抑え、狙いを外さない熟練射手だけなのだ。
 両国兵士が狙撃可能な技量を得る時間に比べれば、松前藩士が狙撃可能な技量を得るのに必要な時間は極端に短かった。

 しかも松前藩士が敵の目から隠れる迷彩軍服やエジプト用軍服を着ているのに、両国海兵隊はとても目立つ緋色の軍服を着ていた。
 この時代の海兵隊は陸軍兵士と同じとても目立つ軍服を着ているのだ。
 エジプトの大地に緋色の軍服を着た人間がうろついていたら、ひと目で敵だと分かって狙撃することができる。

 捕虜にすれば身代金をとることができるのだが、その為に配下を危険に晒すような指揮官は松前藩にはいない。
 失敗と損害を恐れないのなら、夜間に小舟で両国艦隊に近づき、斬り込んで拿捕を狙うという無謀な作戦もある。
 配下の死傷を考えない手柄だけが目当ての指揮官なら、そんな作戦を断行するかもしれないが、松前藩のそのような指揮官はいない。

 艦砲射撃の射程外に内陸部で待ち構えれば確実に勝てるのだ。
 その確実な勝ちを放棄して無謀な作戦を行えば、厳罰処分を受けることになる。
 艦艇の拿捕賞金に眼が眩むよりは、エジプトで確実にもらえる領地を優先する。
 武士ならば当然の判断だった。

 俺が彼らに常に知らせてある情報と報償では、彼らはエジプトで万石の領地を得る家老格にする予定なのだ。
 もしこのまま俺が征夷大将軍に就任すれば、陪臣ではなく独立した大名になる。
 それが分かっていて愚かな策を実行する現地指揮官は一人もいない。
 配下の多くも傭兵達も、最低でも千石を超える領地を与える予定だ。
 エジプトを確保しつつ命も大事にしてくれるだろう。
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