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征夷副大将軍

第121話一八三三年、今上陛下の想い

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 俺は降嫁問題が起こってから色々と調べさせた。
 有難いことに、越中富山の薬売り達は公家の家にも深く食い込んでいた。
 命を預かる置き薬を扱っていて、健康相談までされていたのだ。
 高位で収入の多い公家なら医者にかかれるが、貧乏公家だと医者にかかる金などなく、薬売り達に頼っていた。
 彼らが集めてくれた情報を総合すると……

 亡くなられた先帝、光格天皇は先々帝である後桃園天皇の子供ではない。
 後桃園天皇が崩御さられた時に皇子がいなかった事から、急いで世襲親王家の閑院宮家から儲君に治定されてて百十九代の天皇となっている。

 天皇家ではなく閑院宮家の出身であったからだろう、実の叔母である倫子女王(実父の妹)が徳川家治第十代江戸幕府将軍の正室(御台所)となっている。
 徳川家治は義理とはいえ叔父にあたるのだ。
 倫子女王の養子になっていた徳川家基は、血はつながっていないが従兄なのだ。
 今の将軍である家慶は、従兄を殺して将軍位を盗んだ者の子孫にあたる。

 そこを深く考えると、徳川家治と倫子女王の間に生まれた、長女の千代姫と次女の万寿姫を殺したのも徳川治済だと、今上陛下が考え恨んでいいてもおかしくない。
 それの流した噂が、ここまで影響を与えているのかと恐ろしくなった。
 バタフライ効果の大きさと恐ろしさを思い知った。
 妄想の極みだとは思うのだが、千代姫と万寿姫が生きていて、有力な徳川一門に嫁いでいたら、その者が第十一代江戸幕府の将軍となっていた可能性もある。

 もしそうなっていたら、徳川将軍家に皇室の血が色濃く入る事になる。
 江戸幕府に対する皇室の影響力が強くなっていた可能性も考えられる。
 その所為なのだろうか、今上陛下と側近達の間では、俺に内親王を降嫁させて、徳川幕府の将軍に据えようという考えがあるようだ。
 正直以前の俺なら断じてやらせなかっただろう。
 必要なら無理矢理今上陛下に譲位させて、徳川家に従順な皇子を天皇に据えるように画策しただろう。

 だが今の俺には、自分の子供を王にしたいという想いがでてしまった。
 以前に決めた、開国する時に日本の大名家を西洋の爵位と当てはめる構想では、徳川将軍を王としていた。
 今の松前松平家は親藩国主で公爵に相当する。
 それを王にするだけなのだから、それほど無理な話でもないだろう。
 だが、そんな事をしてしまったら、あれほど避けようとしていた内乱を俺が引き起こすことになってしまう。

 史実の徳川家慶は、先天的に障害のある徳川家定ではなく、徳川慶喜を後継者にしようとしていたではないか。
 俺が徳川家慶の妹や娘を正室に迎えたら、内戦を起こすことなく将軍位につけるかもしれない。
 それとも、内親王を正室に迎えた方が内戦を起こさずに将軍位を継げるだろうか。
 俺は、自分の欲望を抑えきれない。
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