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征夷副大将軍

第112話一八三二年、妊娠

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「でかしたぞ、幸、大手柄じゃ」

 側室の井上正紀の長女、幸が懐妊した。
 前世ではずっと独身だったので、人生初めての子供だ。
 まだ生まれてはいないが、その喜びは例えようもないモノだった。
 それだけに、周産期の母子の健康がとても心配だった。
 それこそ、くどいほどに奥医師と奥女中にガミガミ言ってしまっている。
 だがそれを止める気など毛頭ない。

「産婆じゃ、今から産婆の名手を探しおけ。
 余の教えを実践し数多くの出産に立ち合った者を召し抱えよ」

 数え年で十三歳にして子供ができた。
 実際に生まれるのはもう少し先だから、十四歳になるかもしれないが、前世の人生経験も含めれば、七十歳を超えて初めての子供を得たのだ。
 まあ、それは妻も似たようなモノなのだが、幸と雪には怒られるが、二人は完全な政略結婚で大恋愛しての結婚ではない。
 だが、子供は違う、本当に天からの授かりものなのだ。

「清国の難民を集められるだけ集めるのだ。
 徹底した軍事訓練を繰り返し、オロシャを討ち滅ぼす。
 黒鍬鉄砲隊として働けるように、野戦築城と鉄砲術を学ばせろ。
 現在占領している場所を死守するのだ」

 とても愚かな事を言っている自覚はある。
 徹底抗戦や陣地死守を命じるなど愚か以外の何物でもない。
 だが、生まれてくる子供のために、油田地帯を確保したい。
 これから起こるであろうアヘン戦争、明治維新、第一次大戦、第二次大戦に勝ち抜くためには、石炭と石油が必要不可欠なのだ。
 すでに日露戦争は始まっている、日清戦争は回避するにしても、日米戦争は回避不可能だろう。
 子供のためには、ネイティブアメリカンを見捨てでも日米戦争を回避すべきか。

「待て、今の命令は取り消す。
 清国の難民を集めて黒鍬鉄砲隊を増強するのは今まで通りだ。
 だが占領地死守は禁止する。
 臨機応変に戦い、できるだけ死傷者を減らすのだ。
 捲土重来を期して、実戦経験の豊富な将兵を死なさないようにするのだ。
 黒鍬鉄砲隊は二十万兵を目標に集めるのだ」

 子供に天罰が落ちるのは怖いが、今更戦いを回避する事はできない。
 どうせ人殺しをしなければいけないのなら、少しでも正義の要素を残す。
 ネイティブアメリカンを助け、原住民を白人支配から解放する。
 実際には支配者が白人から日本人に代わるだけだけどな。
 それでも虐殺だけは防げるし、餓死するはずだった貧民を救う事はできる。

「南方の食料の豊富な所から穀物を輸入するのだ。
 黒鍬鉄砲隊は戦地で屯田できるようにしろ」

「松平斉恕の側室」
井上正紀の長女幸
井上正紀の次女雪
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