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大老就任
第66話一八二七年、大混乱
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「殿、御台所がお亡くなりになりました」
近習が慌てて知らせにきた。
俺にはもう一カ月も前から、こうなる事が分かっていた。
いや、御台所が殺されるように、俺が江戸城下に噂を流したのだ。
大奥の権力を手に入れたい者、子供が祟りと天罰で殺されないようにしたい者、元凶の茂姫を殺す者が必ず出てくると予測していたのだ。
この状況に、徳川家斉は震えあがった。
暗殺ではなく、祟りか天罰だと疑い恐怖したのだ。
家斉以外の全ての人が暗殺だと確信していても、家斉には祟りや天罰に見える。
それほど罪の意識に苛まれながら生きていたのだ。
家斉は将軍職を世子の徳川家慶に譲ると言いだした。
二之丸に引きこもり、念仏三昧の日々を送ると言いだした。
だが家慶も幕閣も引き留めた。
彼らも責任を押し付けられるのが嫌なのだ。
家斉の勝手な隠居を認めてしまったら、家斉の身勝手な言動に怒って巫覡を止めると言った俺に、家斉に代わって頭を下げなければいけなくなるのだ。
家慶や幕閣からすれば、ちゃんと責任をとってから隠居しろと言いたいだろう。
そして実際にそう口にした。
つい最近までは絶大な権力を持っていた家斉も、今では徳川家の恥さらしで、誰一人正当な将軍だとは思っていない。
だがその立場は、徳川家慶も同じだった。
今の徳川家慶に、将軍の後継者である正当性などないのだ。
大前提である徳川家斉の子という事実が、逆に正当性を失わせている。
徳川家斉自体に、将軍の資格がないと思う者がいるのだ。
尊王に凝り固まった水戸徳川家の徳川斉脩。
無理矢理に徳川家斉の七男の徳川斉順を養嗣子に押し付けられ、隠居させられた紀州徳川家の徳川治宝。
特に徳川家斉の将軍継承を無効にしたいと思っているのは、将軍継承の可能性があると信じたい、田安徳川家から伊予松山藩に養子に出された松平定国の五男松平定通と、彼を擁する伊予松山藩士達。
もう一つの勢力は、田安徳川家から陸奥白河藩に養子に出された松平定信と、長男の松平定永、二人を擁する陸奥白河藩士達だった。
特に晩年を迎えている松平定信は、田安徳川家をだされて将軍継承の芽がなくなったことを、若い頃からずっと執念深く恨み続けていたのだ。
だから当然、一橋治済が徳川家基公を毒殺して徳川家斉が将軍位を盗んだと聞いて、激烈に怒り家斉の将軍継承無効を言い立てていた。
この行動は妄執と表現するのが最適なくらい激しく執念深いもので、こうなるだろうと思っていた俺でさえ辟易とした。
だがこの過激な運動が、徳川家斉、徳川家慶と兄弟姉妹、徳川家斉の側近達を恐怖に陥れた。
松平定信が、逆恨みした田沼意次とその一族に行った陰湿な仕打ちを、誰も忘れていなかったのだ。
万が一松平定永が将軍となり、松平定信が権力を手に入れた時、自分達がどのような眼にあわされるか、恐怖と共に容易に想像がついた。
自分達は、将軍世子を毒殺して将軍位を盗んだ極悪犯の一族や共犯として、処刑されると確信したのだ。
そこで彼らは、東照神君の巫覡である俺を頼り利用することにした。
近習が慌てて知らせにきた。
俺にはもう一カ月も前から、こうなる事が分かっていた。
いや、御台所が殺されるように、俺が江戸城下に噂を流したのだ。
大奥の権力を手に入れたい者、子供が祟りと天罰で殺されないようにしたい者、元凶の茂姫を殺す者が必ず出てくると予測していたのだ。
この状況に、徳川家斉は震えあがった。
暗殺ではなく、祟りか天罰だと疑い恐怖したのだ。
家斉以外の全ての人が暗殺だと確信していても、家斉には祟りや天罰に見える。
それほど罪の意識に苛まれながら生きていたのだ。
家斉は将軍職を世子の徳川家慶に譲ると言いだした。
二之丸に引きこもり、念仏三昧の日々を送ると言いだした。
だが家慶も幕閣も引き留めた。
彼らも責任を押し付けられるのが嫌なのだ。
家斉の勝手な隠居を認めてしまったら、家斉の身勝手な言動に怒って巫覡を止めると言った俺に、家斉に代わって頭を下げなければいけなくなるのだ。
家慶や幕閣からすれば、ちゃんと責任をとってから隠居しろと言いたいだろう。
そして実際にそう口にした。
つい最近までは絶大な権力を持っていた家斉も、今では徳川家の恥さらしで、誰一人正当な将軍だとは思っていない。
だがその立場は、徳川家慶も同じだった。
今の徳川家慶に、将軍の後継者である正当性などないのだ。
大前提である徳川家斉の子という事実が、逆に正当性を失わせている。
徳川家斉自体に、将軍の資格がないと思う者がいるのだ。
尊王に凝り固まった水戸徳川家の徳川斉脩。
無理矢理に徳川家斉の七男の徳川斉順を養嗣子に押し付けられ、隠居させられた紀州徳川家の徳川治宝。
特に徳川家斉の将軍継承を無効にしたいと思っているのは、将軍継承の可能性があると信じたい、田安徳川家から伊予松山藩に養子に出された松平定国の五男松平定通と、彼を擁する伊予松山藩士達。
もう一つの勢力は、田安徳川家から陸奥白河藩に養子に出された松平定信と、長男の松平定永、二人を擁する陸奥白河藩士達だった。
特に晩年を迎えている松平定信は、田安徳川家をだされて将軍継承の芽がなくなったことを、若い頃からずっと執念深く恨み続けていたのだ。
だから当然、一橋治済が徳川家基公を毒殺して徳川家斉が将軍位を盗んだと聞いて、激烈に怒り家斉の将軍継承無効を言い立てていた。
この行動は妄執と表現するのが最適なくらい激しく執念深いもので、こうなるだろうと思っていた俺でさえ辟易とした。
だがこの過激な運動が、徳川家斉、徳川家慶と兄弟姉妹、徳川家斉の側近達を恐怖に陥れた。
松平定信が、逆恨みした田沼意次とその一族に行った陰湿な仕打ちを、誰も忘れていなかったのだ。
万が一松平定永が将軍となり、松平定信が権力を手に入れた時、自分達がどのような眼にあわされるか、恐怖と共に容易に想像がついた。
自分達は、将軍世子を毒殺して将軍位を盗んだ極悪犯の一族や共犯として、処刑されると確信したのだ。
そこで彼らは、東照神君の巫覡である俺を頼り利用することにした。
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