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大老就任

第61話一八二七年、早期予言

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「巫覡殿、東照神君の御告げに従い、最良の手段をとってくれ。
 幕府の大老参与として余の後見人として、全権を預ける」

 俺にはやらなければいけないことが多かった。
 もうこれ以上見て見ぬ振りなどできなかった。
 圧倒的な権力を手に入れた以上、それを有効に使う責任が生じてしまった。
 幕府の大老参与という役目は、俺の不完全な良心を責め苛んだのだ。
 だから、早めの御告げをして、今年中に問題を片付けることにした。

 一つ目の御告げは、文政十一年四月三日昼の九つ時過ぎに、岩代若松の老町から出火して、当麻町、当麻中町、善久町を焼き、原之町から針屋町、紺屋町、大和町、桂林寺町へと延焼し、西名古屋町、北小路町、七日町と焼失させた。
 家屋九五〇軒、寺院一三ヶ所を焼失させて、夕七つ半時ようやく鎮火するという大火事だ。

 二つ目の御告げは、文政十一年十一月十二日に越後三条付近でおこる地震だ。
 朝五ツ時上刻に発生し、現在の新潟県三条市、燕市、見附市などで死者一五五九人、怪我二六六六人、家屋の全潰一二八五九軒、半潰八二七五軒、焼失一二〇四軒といった大被害を出している

 だが、朝食の準備で煮炊きをしていなければ、火事の発生を抑えられ、被害を少なくすることができるかもしれない。
 盗人の被害は続出するかもしれないが、事前に避難していれば、人命の被害をなくすことすら可能かもしれない。
 だから当該被害地域を預かる、越後村上藩五万石七代藩主の内藤信親には、よくよく善処するように伝えたが、俺が言うのもなんだが、内藤信親は弱冠十五歳である。
 江戸家老にも父上から伝えてもらった。

 三つ目の御告げは、文政十一年六月三十から七月十三日にかけて、台風が九州から四国、紀州沖を通過し、東海道付近に上陸して信州を通って日本海側出羽方面に抜けた風水害による災害だった。

 日向延岡では七月朔日の夜に入って風雨が強くなり、二日明け方より大風大雨洪水の被害が出始めた。
 付近の川が通常より四間近く増水し橋が流され、延岡城内、侍屋敷以下町家や農家などが破損し、堤防も大破してしまった。

 豊後の佐伯と臼杵は、七月朔日から二日にかけて大風大雨洪水の被害があった。
 佐伯では田畑六百町が冠水し砂がはいってしまった。

 日出では二日に大雨と洪水に襲われ、家屋の倒潰八五軒、家屋の破損三五七軒、その他村々の田畑に冠水し死亡者まででている。

 筑前秋月は二週間の間に二度も大風と大雨に襲われた。

 三河では六月三十日から七月一日にかけて大水がでた。
 大風大雨によって矢作川が満水となって矢作橋落ち、岡崎城下が浸水し、矢作村では堤防が決壊して十四人が亡くなり家屋二百軒が流されてしまった。

 遠州掛川では六月三十日に大風大雨洪水に襲われ、家屋の流失二九軒、家屋の倒潰四軒、家屋の半潰三七軒、家屋の浸水一三八六軒、田畑の損失は掛川藩の表高五万石の内二万六百九十余石にも及んだ。

 天竜川本流中流部と支流の気田川では、六月三十日の大風と大雨で堤防が切れ未曾有の洪水となり、家屋の全潰四五軒、家屋の流失二五軒、二俣村では全ての家が床上浸水となった。
 翌七月朔日には、下流部で大規模な堤防決壊が発生し、おびただしい数の家屋が全潰したり流失したり床上浸水を引き起こしたりしている。

 七月十三日には七月朔日の大雨でできた自然ダムが崩壊して川が氾濫してしまい、周辺の十二カ村で二千五百人近い死者を出してしまった。

 駿河では、大井川流域の金谷で堤防が切れ多数の死傷者をだしてしまった。
 家屋も多数流失したうえ、田畑が百三十町も荒廃してしまった。

 対岸の島田宿近郊では、一四四間にわたって堤防が決壊してしまい、数えきれないほどの死亡者と家屋流失を引き起こしている。

 安倍川流域では本流と支流の堤防が決壊して府中を襲い、城下の町々すべてが浸水してしまい、付近の村々あわせて八十三人もの死亡者と二千余人の負傷者をだしてしまい、家屋の流失も三〇余軒あった。

 富士川流域でも工事中の外堤七番留出しが決壊してしまい、御普請所も大破し田畑も多数流失してしまっている。

 信州飯山では六月三十日の夜から七月朔日まで大雨に襲われ、千曲川や谷川などが出水してしまい、橋の流失三九カ所、飯山藩家中長屋二二棟、町家と農家が一一三軒も浸水して倒潰してしまった。

 飯田にも大風と大雨の被害があり、城山の所々が崩壊、天竜川上流部や付近の川で洪水も発生、村々の田畑に砂が入り、家屋三〇軒が浸水、家屋一五軒が流出、家屋五軒が倒壊し、山の崩壊が三九カ所で発生してしまった。

 江戸も大雨となり、東海道筋で浸水し、少なくない数の死亡者をだしてしまい、家屋も流失してしまった。

 出羽新屋浜では、七月三日に海が荒れ難破船をだしてしまった。

 出羽庄内地方では台風が梅雨戦線を刺激してしまったのか、、七月九日から七月十二日にかけて大雨が降り続き、多くの川が洪水を起こしてしまい、民家の倒潰一四軒、民家の流失三軒、民家の浸水三九七九軒、土蔵の浸水一八八棟、橋の流失二九五カ所、橋の大破五三六カ所、山の崩壊二四カ所という被害を出している

 四つ目の御告げも風水害だ。
 文政十一年八月九日から八月十一日にかけて、前世で調べた「シーボルト台風」という台風の被害が、北九州から西中国にかけて未曾有の被害を与えている。
 この被害はシーボルト台風と名付けられているくらいで、先に書いた台風以上の被害をもたらしている。

 小説を書くときに集め読んだ資料が、何故か鮮明に記憶されており、その全てを祐筆によって幾冊にも書き写させ、被害を受けるだろう大名家や代官所に送らせた。
 自然災害の場合は、全てを防ぐことなどできない。
 だが、せめて死者を出さないように、失う家財を少なくするように、できる限りの手立てを尽くすことにした。

 五つ目の御告げは、次の年文政十二年三月二十一日の大火事だ。
 それも江戸城下で発生した未曾有の大火事だ。
 神田佐久間町二丁目の材木商、尾張屋徳右衛門の材木小屋より出火し、西北の強風にあおられて、日本橋、京橋、芝一帯二十町もを焼き尽くした。
 分かっているだけで二千八百余名もの死亡者をだし、七三の大名屋敷、一三〇の旗本屋敷、約三万の町家を焼き、多数の船や橋まで焼き尽くしている。
 これだけは絶対に未然に防がなければいけない。
 時刻も場所も分かっているのだ。

 そして、言うか言うまいか、迷いに迷って御告を決断した五つ目の事。
 それは日本住血吸虫の事だ。
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