57 / 116
第3章
第57話:チーズケーキ
しおりを挟む
俺はシャルマン公爵領でもスライム従魔クランの勧誘を行った。
王都から領都までの間も募集はしていたが、急な話しだったから応募者は1人もいなかった。
だが帰路には数人くらいは応募者があると思う。
領都で少し長居する心算だから、もしかしたら領都に来てくれるかもしれない。
そんな期待を抱きながら、公爵家の内政をチェックした。
父が決して無能な人間ではない事がよく分かった。
志向による偏りはあるが、財政バランスは堅実に黒字にしてあった。
軍事面に予算が多く向けられているのは、国境線の防衛を任されている以上当然の事で、王家に対する謀叛の準備だと言い掛かりをつける事はできない。
だがそれをいい事に、過剰な戦力を抱えて王家に圧力をかけて、俺やジャスワンをカチュア王太女殿下の婚約者に押し込んだのは悪質だと思う。
「リドワーン様、そんなに仕事に熱中されては嫌でございます。
仕事を放り出してくださいとは言いませんが、少しは私の相手もしてください」
「申し訳ありません、カチュア殿下、では休憩にしてお茶の時間としましょう」
「まあ、うれしいですわ、直ぐにお茶の用意をしてください」
カチュア王太女殿下が流れるようによどみなく側近に命令される。
俺は前世の記憶の影響で家臣に命令するのが苦手なのだが、生まれ持っての王族は嫌味なく命令が下せるので羨ましい。
別に他人を支配下に置いて喜ぶ趣味はないのだが、先祖代々侍従や侍女として仕えている家臣には、ちゃんと貴人の世話をさせてあげないと役目がなくなるのだ。
俺はともかく、子供の代にはまた役目を果たさなければいけないので、俺の代でも技術や能力が衰えないように彼らを使う義務があるのだ。
「今日はアレックス様の大好きなチーズケーキにしたのですよ」
カチュア王太女殿下がうれしそうに話しかけてくる。
この世界にもチーズケーキの原型のようなモノはあった。
単純に挽いた小麦とチーズと蜂蜜を混ぜ合わせて焼くものだ。
少し手の込んだことをする場合は、チーズを滑らかになるまで丁寧に潰すという、貧しく忙しい農民や職人にはできない手間が加わる。
貴族の中に、珍しく美味しい料理を作って自分の財力と権力を示そうという者が現われ、チーズと小麦粉と卵を混ぜ合わせて温かい炉床でゆっくり焼く、チーズスコーンのようなモノを料理人に考えさせた。
徐々に創作料理の競争が始まり、チーズと蜂蜜を混ぜ込んだ生地を層状にも重ね、焼いてから蜂蜜でコーティングするという、デザートに相応しいモノを考えだす料理人まで現れたそうだ。
本来なら徐々に進化するはずのチーズケーキの進化を、俺が一気に早めた。
チーズを細かく切ってから3時間牛乳に浸して柔らかくして、しかも歯応えが残る硬めのチーズを別に加えて、卵黄、蜂蜜、サフラン、塩を混ぜてチーズ生地を作る。
甘味を強くするには砂糖の方がいいのかもしれないが、大魔境で手に入れやすいのは蜂蜜や蟻蜜だったので、手に入る中で1番甘味と風味のいい蜂蜜を使う。
それをパイ生地で作った深さ5センチの器に入れて、焦げ付かないように注意深くゆっくりと焼き上げるのだ。
最初は俺がカチュア王太女殿下に作って差し上げたのだが、多くの侍女や侍従、護衛や料理人に2度としないでくれと哀願されてしまった。
しかたなく料理人に教えて作らせる事になったのだ。
「これは美味しそうだ、ありがとうございます、カチュア殿下」
「いえ、こちらこそありがとうございます、リドワーン様。
リドワーン様のお陰で毎日美味しい菓子が食べられます」
王都から領都までの間も募集はしていたが、急な話しだったから応募者は1人もいなかった。
だが帰路には数人くらいは応募者があると思う。
領都で少し長居する心算だから、もしかしたら領都に来てくれるかもしれない。
そんな期待を抱きながら、公爵家の内政をチェックした。
父が決して無能な人間ではない事がよく分かった。
志向による偏りはあるが、財政バランスは堅実に黒字にしてあった。
軍事面に予算が多く向けられているのは、国境線の防衛を任されている以上当然の事で、王家に対する謀叛の準備だと言い掛かりをつける事はできない。
だがそれをいい事に、過剰な戦力を抱えて王家に圧力をかけて、俺やジャスワンをカチュア王太女殿下の婚約者に押し込んだのは悪質だと思う。
「リドワーン様、そんなに仕事に熱中されては嫌でございます。
仕事を放り出してくださいとは言いませんが、少しは私の相手もしてください」
「申し訳ありません、カチュア殿下、では休憩にしてお茶の時間としましょう」
「まあ、うれしいですわ、直ぐにお茶の用意をしてください」
カチュア王太女殿下が流れるようによどみなく側近に命令される。
俺は前世の記憶の影響で家臣に命令するのが苦手なのだが、生まれ持っての王族は嫌味なく命令が下せるので羨ましい。
別に他人を支配下に置いて喜ぶ趣味はないのだが、先祖代々侍従や侍女として仕えている家臣には、ちゃんと貴人の世話をさせてあげないと役目がなくなるのだ。
俺はともかく、子供の代にはまた役目を果たさなければいけないので、俺の代でも技術や能力が衰えないように彼らを使う義務があるのだ。
「今日はアレックス様の大好きなチーズケーキにしたのですよ」
カチュア王太女殿下がうれしそうに話しかけてくる。
この世界にもチーズケーキの原型のようなモノはあった。
単純に挽いた小麦とチーズと蜂蜜を混ぜ合わせて焼くものだ。
少し手の込んだことをする場合は、チーズを滑らかになるまで丁寧に潰すという、貧しく忙しい農民や職人にはできない手間が加わる。
貴族の中に、珍しく美味しい料理を作って自分の財力と権力を示そうという者が現われ、チーズと小麦粉と卵を混ぜ合わせて温かい炉床でゆっくり焼く、チーズスコーンのようなモノを料理人に考えさせた。
徐々に創作料理の競争が始まり、チーズと蜂蜜を混ぜ込んだ生地を層状にも重ね、焼いてから蜂蜜でコーティングするという、デザートに相応しいモノを考えだす料理人まで現れたそうだ。
本来なら徐々に進化するはずのチーズケーキの進化を、俺が一気に早めた。
チーズを細かく切ってから3時間牛乳に浸して柔らかくして、しかも歯応えが残る硬めのチーズを別に加えて、卵黄、蜂蜜、サフラン、塩を混ぜてチーズ生地を作る。
甘味を強くするには砂糖の方がいいのかもしれないが、大魔境で手に入れやすいのは蜂蜜や蟻蜜だったので、手に入る中で1番甘味と風味のいい蜂蜜を使う。
それをパイ生地で作った深さ5センチの器に入れて、焦げ付かないように注意深くゆっくりと焼き上げるのだ。
最初は俺がカチュア王太女殿下に作って差し上げたのだが、多くの侍女や侍従、護衛や料理人に2度としないでくれと哀願されてしまった。
しかたなく料理人に教えて作らせる事になったのだ。
「これは美味しそうだ、ありがとうございます、カチュア殿下」
「いえ、こちらこそありがとうございます、リドワーン様。
リドワーン様のお陰で毎日美味しい菓子が食べられます」
0
お気に入りに追加
359
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
未来人が未開惑星に行ったら無敵だった件
藤岡 フジオ
ファンタジー
四十一世紀の地球。殆どの地球人が遺伝子操作で超人的な能力を有する。
日本地区で科学者として生きるヒジリ(19)は転送装置の事故でアンドロイドのウメボシと共にとある未開惑星に飛ばされてしまった。
そこはファンタジー世界そのままの星で、魔法が存在していた。
魔法の存在を感知できず見ることも出来ないヒジリではあったが、パワードスーツやアンドロイドの力のお陰で圧倒的な力を惑星の住人に見せつける!
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる