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第2章

第36話:驚嘆・カチュア王太女視点

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 道案内と露払いをやらせていた敗残の貴族連合軍幹部達が、あまりの現実に声をあげる事もできずに棒立ちになっています。

 普通なら歓声や嘆息がでるところですが、それすらありません。
 でも、その気持ちは私にもよく分かります。

 私自身が声をあげる事もできず、軍用馬車の上で固まってしまっています。
 総大将として指揮台にいるのですが、驚嘆して何の指示もだせません。

(カチュア王太女殿下、リドワーン様の手柄を誉めてください)

 横にいてくれるフェリシティが的確な助言をくれます。
 そうです、今こそリドワーン様の偉業を伝える時です。

「皆よく聞け、愚かなシャルマン公爵が殺そうとした私の婚約者リドワーン様は、史上初めてロードスライムを従魔化した偉大な方です。
 皆が恐ろしさのあまり戦う事のなく逃げ出したゴブリンの大軍を、たった1人で壊滅された天下無双の強さを誇る方です」

 多くの貴族連合軍幹部が、私の視線から逃れようと下を向きます。
 恥を知っている、まだ矯正が可能な者達です。
 しかし中には、明らかな敵意を視線に込めて睨んでくる連中がいます。

 特にジャスワンは、年下のくせに粘着質な視線を送ってきます。
 ジャスワンは手段を選ばずリドワーン様を害そうとする事でしょう。
 リドワーン様の名声に傷がつかないように、殺してしまいましょう。

(私にお任せください、カチュア王太女殿下)

 フェリシティが絶妙のタイミングで話しかけてきます。
 貴族連合軍幹部の態度を見て、殺すか味方にするか判断していたのでしょう。
 言葉1つで生死が分かれるのが貴族社会だというのに、愚かな連中です。

「「「「「うっわぁああああ」」」」」

 貴族連合軍の敗残者ばかりではなく、王国騎士団や傭兵団、モンスターになれているはずの冒険者ですら、恐怖の声をあげています。

 それくらい圧倒的な巨体と威圧感を持った存在が、幾匹も眼の前に現れました。
 そのうちの1匹がリドワーン様のスライムでなければ、私も腰を抜かしていたでしょうが、一瞬固まるだけで済みました。

「素晴らしい事ですが、恐ろしくもあります。
 あのひときわ巨大なゴブリンがファイターキングゴブリンでしょう。
 少し小さなゴブリン6匹が、ロードなのでしょうが、7匹を楽々と相手するとは。
 それどころか、あれは7匹と戦う事で経験値を稼いでいるようです。
 キングゴブリンとロードゴブリンを経験値稼ぎのために養殖しているの?
 絶対に敵に回してはいけない相手です。
 もしリドワーン様が王位に野望を抱かれたら……」

 フェリシティが必要もない心配をしています。
 リドワーン様はとても心優しく責任感が強い方なのです。
 そして少々怠惰な所もある方なのです。

 国王のような大きな責任がのしかかる役目を、自ら進んでやりたがりはしません。
 フェリシティには後でちゃんと説明しておかないと、無用な波風を立ててしまうかもしれません。
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