上 下
59 / 69
3章

58話ハンザ視点

しおりを挟む
 マイヤー王国に送られた我々は、半ば追放です。
 戦力が一人でも欲しいマイヤー王国ですから、表だった差別はされませんが、明らかに警戒され、良民が住んでいる場所には入れてもらいません。
 今のマイヤー王国の状態で、民の支持を失って一揆でも起こされたら、たちまちゲラン王国の侵攻を許すでしょうから、仕方がない事です。

 ですが、港街に入った途端に領主の館に押し込まれ、ゲラン王国との最前線に移動する際も、領主館や砦以外は宿泊が許されず、野営が多くて疲労が蓄積してしまいました。
 まあ、最前線の城が堅固だったのが救いです。
 それに、メイソン殿が想像以上に優秀です。
 大軍によるゲラン王国軍の侵攻を、寡兵を率いて度々撃退しています。
 私も負けておられません。

「メイソン殿。
 明日の作戦を教えていただきたい」

「特に変わった策はありませんよ。
 砦に籠って戦うだけです」

 メイソン殿はそう言いますが、その籠城が一味違います。
 地下道を駆使して背後から奇襲するなんて、今まで聞いた事もありません。
 もっとも、半ば追放の我々に秘策を教えてくれるはずもありません。
 一人でも間者が入り込んでいたら、秘策が敵に漏れてしまいます。
 情けない話ですが、指揮官である私が、裏切り者がいないと断言できないのです。
 メイソン殿に信じてもらえないのも当然です。
 ですが逆に言えば、私を通じて間者に偽情報を流し、罠に嵌める事も可能です。

「必要だと思われるなら、遠慮せずに出陣を命じて頂きたい。
 名誉回復のために命を賭けて戦います」

「そんな気負わなくて大丈夫ですよ。
 開戦当初は砦の整備が不十分で、損害を覚悟して討って出る事もありましたが、いまでは守りに徹する事ができます。
 無理に危険を犯すよりも、確実堅実に護りきりましょう。
 下手に討って出て損害を受けたら、苦労して意気消沈させた敵に勢いを与えてしまいますから」

「余計な事を口にしてしまいました。
 開戦当初に苦労されたメイソン殿の成果を台無しにする心算など無いのです」

「分かっていますよ。
 手柄を立てて再婚の成果としたいのですね。
 ですが死んだ人間には、摂政殿下を助ける事も、生まれてくる子供を助ける事もできませんよ。
 まずは何が何でも生き残る事。
 臆病だと言われようが、卑怯だと謗られようが、生きて戻るのが最優先ですよ」

 本気で言ってくれているのが分かります。
 私は焦っていたのでしょうか?
 それを見透かされていたのでしょうか?
 本当に信じていいのでしょうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜

雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。 だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。 平民ごときでは釣り合わないらしい。 笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。 何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。

婚約者と親友に裏切られたので、大声で叫んでみました

鈴宮(すずみや)
恋愛
 公爵令嬢ポラリスはある日、婚約者である王太子シリウスと、親友スピカの浮気現場を目撃してしまう。信じていた二人からの裏切りにショックを受け、その場から逃げ出すポラリス。思いの丈を叫んでいると、その現場をクラスメイトで留学生のバベルに目撃されてしまった。  その後、開き直ったように、人前でイチャイチャするようになったシリウスとスピカ。当然、婚約は破棄されるものと思っていたポラリスだったが、シリウスが口にしたのはあまりにも身勝手な要求だった――――。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

【 完 】転移魔法を強要させられた上に婚約破棄されました。だけど私の元に宮廷魔術師が現れたんです

菊池 快晴
恋愛
公爵令嬢レムリは、魔法が使えないことを理由に婚約破棄を言い渡される。 自分を虐げてきた義妹、エリアスの思惑によりレムリは、国民からは残虐な令嬢だと誤解され軽蔑されていた。 生きている価値を見失ったレムリは、人生を終わらせようと展望台から身を投げようとする。 しかし、そんなレムリの命を救ったのは他国の宮廷魔術師アズライトだった。 そんな彼から街の案内を頼まれ、病に困っている国民を助けるアズライトの姿を見ていくうちに真実の愛を知る――。 この話は、行き場を失った公爵令嬢が強欲な宮廷魔術師と出会い、ざまあして幸せになるお話です。

妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。 両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。 ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。 代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。 そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。

異世界で婚活を ~頑張った結果、狼獣人の旦那様を手に入れたけど、なかなか安寧には程遠い~

リコピン
恋愛
前世、会社勤務のかたわら婚活に情熱を燃やしていたクロエ。生まれ変わった異世界では幼馴染の婚約者がいたものの、婚約を破棄されてしまい、またもや婚活をすることに。一風変わった集団お見合いで出会ったのは、その場に似合わぬ一匹狼風の男性。(…って本当に狼獣人!?)うっかり惚れた相手が生きる世界の違う男性だったため、番(つがい)やら発情期やらに怯え、翻弄されながらも、クロエは幸せな結婚生活を目指す。 シリアス―★☆☆☆☆ コメディ―★★★★☆ ラブ♡♡―★★★★☆ ざまぁ∀―★★☆☆☆ ※匂わす程度ですが、性的表現があるのでR15にしています。TLやラブエッチ的な表現はありません。 ※このお話に出てくる集団お見合いの風習はフィクションです。 ※四章+後日談+番外編になります。

婚約破棄を要求されましたが、俺に婚約者はいませんよ?

紅葉ももな(くれはももな)
恋愛
長い外国留学から帰ってきたラオウは、突然婚約破棄を要求されました。 はい?俺に婚約者はいませんけど?  そんな彼が幸せになるまでのお話。

処理中です...