上 下
44 / 69
3章

43話メイソン視点

しおりを挟む
 愚かなゲラン王国の現場指揮官が、怒り狂って襲い掛かってきた。
 何の策もなく、騎馬隊の突進力を利用しただけの、一点突撃だ。
 十分な準備をしていた我々には、蛮行にしか見えん。
 痛い所をつかれて、怒りに我を忘れているのか、それとも元々愚者なのか?
 もしかしたら、自分の行った恥知らずな自国民殺しを、我々や配下の将兵だけでなく、自分自身の心も誤魔化そうとしているのかもしれん。

 本当に何も考えず、此方が何重にも罠を張っている誘導路に入ってきた。
 千を超える騎馬隊でも殲滅できるように、細く長く曲がった誘導路に、何の疑問も持たずに突撃してきた。
 まあ、敵には誘導路だとは分からないのだろう。
 見た目は街道を護る馬防柵による関所か砦だからな。
 そこを勇猛果敢に突破したと思っているのだろう。

 最後尾の騎馬が誘導路に入り込んだので、隠していた扉で入口を閉める事で、袋の鼠状態にしてやった。
 逃げ道を完全に防いでから、左右から弓を射掛け、次々と殺していった。
 後は単純作業だ。
 正確に狙って射殺するのだ。

 単に殺すだけならば、縄を張って馬の足を引っかけ、転倒落馬させる方法もあれば、落とし穴に落とす方法もある。
 高所に岩を集めておいて落とすという策もある。
 同じ弓矢を使うにしても、狙いをつけずに遮二無二に射殺す方法もある。
 だがそれでは、貴重な軍馬まで殺してしまう事になる。

 憎しみあっているマイヤー王国とゲラン王国は決して認めないが、ズダレフ王国を加えた三カ国は同じ騎馬民族だ。
 だから馬をとても大切にする。
 産まれた馬を調教して乗馬にまで育てるのも大変だが、火や矢を恐れる事のない、戦場で使える軍馬にまで育てるのは、途轍もない時間と金がかるのだ。

 だから敵の軍馬を生きたまま捕獲する事にした。
 だがこんな事は、練度の低い軍隊ではとても無理だ。
 特に急遽集めた民兵では絶対無理だ。
 民兵は死傷する事を極端に恐れている。
 初陣や数度戦っただけの者は、訳も分からず武器を振り回せればいい方で、多くはその場にしゃがみこんだり隠れたり、中には逃げ出す者さえいる。

 だが私が指揮する部隊は歴戦の傭兵部隊だ。
 契約料はとても高いが、練度は民兵と比較にならない。
 元々戦いで利益を得る事が目的の組織だから、命の危険を冒してでも金目の物を確保しろと命じても、ちゃんとやり遂げてくれる。
 
 まあ、分配金は色を付けなければいけないが、それでも私の取り分は大きい。
 何より敵の主力である騎馬隊を殲滅し、此方の騎馬隊を増強する事ができる。
 問題があるとすれば、実戦を重ねる度に私が傭兵に影響されることだ。
 どうも実戦中は言葉遣いが乱暴になっているようだ。
 戦いが終ったら元に戻さないと、嫁さんを怖がらしてしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

【完結】あなたの理想の妻にはなれません

紫崎 藍華
恋愛
結婚してから夫から監視されるような厳しい視線を向けられるようになった。 どうしてそうなったのか、判明したのは数日後のこと。 夫から現状のままではダメだと言われ、理想の妻になるよう求められたのだ。

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

愚かな弟妹達は偉くなっても俺に叱られる。

サイトウ純蒼
ファンタジー
とある孤児院。 貧しいながらも兄弟のように過ごした長兄レフォードと弟妹達。本当の家族のように過ごした幸せな時間は過ぎ、皆に別れの時が訪れる。 悲しみの中、商家や貴族の家に連れて行かれた兄弟はその後大きく成長し、やがて皆一目を置かれる存在となって行く。 一方、身受け先で奴隷のような生活を強いられていた長兄レフォードに、領主となった末っ子のミタリアが現れる。 ミタリアに救われたレフォードは彼女に感謝しながらも、別の兄弟が近隣で蛮族として暴れていることを知る。 レフォードは各地で好き勝手する弟妹達を訪問しようと決意。世界を巻き込んでおイタをする弟妹達に、今、長兄レフォードの『粛正の嵐』が吹き始める。

泥々の川

フロイライン
恋愛
不遇な生活を送る少年、祢留の数奇な半生。

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

私が消えたその後で(完結)

毛蟹葵葉
恋愛
シビルは、代々聖女を輩出しているヘンウッド家の娘だ。 シビルは生まれながらに不吉な外見をしていたために、幼少期は辺境で生活することになる。 皇太子との婚約のために家族から呼び戻されることになる。 シビルの王都での生活は地獄そのものだった。 なぜなら、ヘンウッド家の血縁そのものの外見をした異母妹のルシンダが、家族としてそこに溶け込んでいたから。 家族はルシンダ可愛さに、シビルを身代わりにしたのだ。

処理中です...