上 下
3 / 69
1章

2話

しおりを挟む
「なに?!
 弟の分際で、王太子の兄に逆らうと言うのか!
 許さん。
 余が王位に就いたら、処刑してくれる!」

「なにをとち狂っているんですか?
 兄上にホワイト侯爵家を処罰できるはずないじゃないですか。
 それどころか、父王陛下だって処罰なんてできませんよ」

 第二王子のメイソン殿下が止めに入って下さいました。
 メイソン殿下の方が理知的で思慮深いです。
 なんとか国の大事を治めようとしておられるのでしょう。
 ですがもう手遅れです。
 一度口にした事は、なかった事にはできません。

「なにを言っている。
 王が家臣を処罰してどこが悪い。
 この女は主家である余に逆らったのだ。
 謀叛すると言ったのだ!」

「それは兄上が勝手に口走ったのでしょう。
 それにそもそも兄上が、アルフィン嬢の名誉を傷つけたんです。
 誇り高いホワイト侯爵家が報復するのは当然です。
 直ぐに父王陛下に事の子細を申し上げて、お詫びした方がいいですよ」

 メイソン殿下の申される通りです。
 今の王家にホワイト侯爵家を処罰する事などできません。
 できるほどの力があるなら、そもそも私と婚約を結ぶ必要などないのです。

「兄上は何を学ばれて来たのです。
 今の王家は、ホワイト侯爵家の支援なしでは成り立たないのです。
 そんな事も理解されていなかったのですか?
 しかも衆人の前で、これほどの恥をかかせたのです。
 手をついて謝っても、ただではすまされないかもしれませんよ」

「支援だと?
 それがどうした!
 家臣が主君に尽くすのは当然だ!
 逆らうと言うのなら、兵を送って占領すればいい。
 そうすれば王家の直轄領となり、支援などと言う、まどろっこしい方法は不要になる」

 馬鹿です。
 本当の馬鹿です。
 王家が欲得づくで貴族の領地を奪う。
 そんな事に力を貸す貴族はいません。
 一旦それを認めれば、次は自分が領地を奪われるかもしれないのです。

 しかも今回は、明らかに王家の方が悪いと、皆がこの場で見聞きしています。
 王太子に媚を売り、分け前をもらおうとする者以外は、一家の貴族家も味方しないでしょう。
 そして王太子に媚を売り味方した貴族は、貴族社会で爪弾きにされ、王家に知られないように、徐々に一族が殺されていくでしょう。

 王家は王権を拡大して、貴族を完全に支配下に置きたいのでしょう。
 ですが貴族達は、王家の横暴を許しません。
 自分達の領地と権利を守るために、一致団結するのです。
 今回の件は、完全に王家の横暴です。
 ほとんどの家がホワイト侯爵家に味方してくれるでしょう。

「そうです、王太子殿下。
 殿下が主君なのです。
 家臣に遠慮する必要はありません。
 殿下こそ正しいのです。
 殿下こそ神から王権を授かった王家の正当な後継者なのですから!」

 この娘は何者ですか?
 ホール子爵家は何を考えているのです?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された私は、世間体が悪くなるからと家を追い出されました。そんな私を救ってくれたのは、隣国の王子様で、しかも初対面ではないようです。

冬吹せいら
恋愛
キャロ・ブリジットは、婚約者のライアン・オーゼフに、突如婚約を破棄された。 本来キャロの味方となって抗議するはずの父、カーセルは、婚約破棄をされた傷物令嬢に価値はないと冷たく言い放ち、キャロを家から追い出してしまう。 ありえないほど酷い仕打ちに、心を痛めていたキャロ。 隣国を訪れたところ、ひょんなことから、王子と顔を合わせることに。 「あの時のお礼を、今するべきだと。そう考えています」 どうやらキャロは、過去に王子を助けたことがあるらしく……?

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~

舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」 わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。 ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。 驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。 ※話自体は三人称で進みます。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

【完結】両親が亡くなったら、婚約破棄されて追放されました。他国に亡命します。

西東友一
恋愛
両親が亡くなった途端、私の家の資産を奪った挙句、婚約破棄をしたエドワード王子。 路頭に迷う中、以前から懇意にしていた隣国のリチャード王子に拾われた私。 実はリチャード王子は私のことが好きだったらしく――― ※※ 皆様に助けられ、応援され、読んでいただき、令和3年7月17日に完結することができました。 本当にありがとうございました。

【完結】結婚してから三年…私は使用人扱いされました。

業 藍衣
恋愛
子爵令嬢のジュリエッタ。 彼女には兄弟がおらず、伯爵家の次男、アルフレッドと結婚して幸せに暮らしていた。 しかし、結婚から二年して、ジュリエッタの父、オリビエが亡くなると、アルフレッドは段々と本性を表して、浮気を繰り返すようになる…… そんなところから始まるお話。 フィクションです。

処理中です...