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第一章
第18話:決断
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王の嫌がらせは徐々に俺の、いや、辺境伯家の体力を削いで行った。
王が直接送り込んだ破壊工作要員とは断言できないが、貧民の中には問題を引き起こす者が数多くいたのだ。
窃盗や暴行、強姦や殺人まで犯す奴がいて、領都の治安が一気に悪くなった。
領都の治安を回復するには、高価な報酬を約束して、大魔境に入っているような、優秀で戦闘力のある冒険者に警察任務をしてもらわなければいけない。
信用ができて戦闘力がある冒険者を警察業務に投入した事で、交易団につける護衛冒険者の質は悪くなり人数も少なくなった。
今まで受けなかった犯罪者ギルドや盗賊団の襲撃を受けるようになってしまった。
今のところは被害はあるものの全て撃退できている。
だが、交易団なら安全に荷物を運べるという信用が低下しているのは確かだった。
「貧民達よ、今日は哀しい知らせを伝えなければいけない。
お前達を受け入れて四カ月過ぎたが、未だに辺境伯領の法を破る者がいる。
十分な支援を与えて、何度も言い聞かせたのも関わらず、悔い改めない。
誰がやったか、我々に伝える者がいないと言う事は、全員が一味だと言う事だ。
中には殺されるのが怖くて仕方なく黙っているというものもいるだろう。
だが、それこそが一味同心なのだ。
私がいるこの場で訴えてくれれば、犯人を処刑して安全にしてやろう。
黒幕がいて、後々の報復が怖いと言うのなら、訴え出た者と家族友人は辺境伯家の使用人として雇い、安全な城内に住ませてやろう。
さあ、知っている罪人を私に教えるのだ」
「言わせていただきます、だから人質にされている子供を助けてください」
「私も言います、だから人質にされている恋人を助けてください」
「私も」
「僕も」
「お前が犯人一味か、恥を知れ」
組織的な犯罪だったのだろう、告訴する者が現れたとたん、報復のために動こうとした者がいたから、風属性魔術で空中に浮かせてやった。
「フリードリッヒ辺境伯として命じる、一味全員を白状しろ。
白状すれば役に殺してやる」
(後は俺がやるよ、直太朗は休んでいてくれ)
凶行をしでかしてからは、俺が寝てからしか身体を使わなかったアレクサンダーが、汚れ仕事を変わってくれると言う。
正直に言えば、自分に人殺しができるか心配だった。
何度も頼んでいたのだが、返事がもらえなかったので、今日まで犯人を放置してしまったのは俺の責任だ。
(ありがとう、助かるよ)
(いや、今日まで決断できなかった俺が悪いのだ。
こんな状態になったのも、俺がやり過ぎたからかもしれないのに、直太朗が汚れ仕事をやらないからだと責任転嫁していた。
人に責任を押し付けるなんて、恥知らずで情けない行いだ。
こんな事では王を断罪できないからな)
(いや、俺が戦えないのをアレクサンダーが助けてくれたのだ。
俺が度胸を出して戦っていたら、アレクサンダーが狂気に陥る事もなかった。
少しずつ戦えるようになるから、許してくれ)
俺とアレクサンダーは互いの弱点を補うようにしようと誓った。
だから今回は、俺が表にでたままで、アレクサンダーが弱気になった俺の精神に影響を及ぼして、暴力的になるようにしてくれる事になった。
俺がこの世界に召喚された当初の、俺らしくない強気で暴力的な状態にするのだ。
「ミック、ロディー、バーツ、ラルフ、ローランド……」
俺が傀儡魔術を使って、一味の連中を白状させた。
一斉に近くに置いていた人質を盾にしようとしたが、そんな事は許さない。
アレクサンダーと一緒に、麻痺魔術を発動して動けなくした。
見せしめに殺す方法もあるが、黒幕を白状させなければいけない。
今表にでた連中が単なる使い走りという可能性もあるからだ。
「妻の仇、取らせてもらうぞ」
今まで黙っていた屈強な貧民が、急に勇気を出して妻の仇を討つという。
そんな陳腐な演技に騙されるほどバカではないぞ。
「口封じしようと思っても無駄だ、愚か者」
その後は芋づる式だった。
決して殺すことなく、傀儡魔術で一味の者を白状させ、次々と罪を犯した者達を確保し、また傀儡魔術で犯罪を犯した仲間を白状させた。
名前は出ていないが疑わしそうな奴も傀儡魔術をかけて自白させたら、王家や他家の密偵だったりした。
「今回罪を犯した連中は全て捕らえられたと思う。
だが、捜査に協力してくれた者はごくわずかだった。
しかも協力してくれた者の中には、王の密偵がいた。
最初から城内に入り込むために、仲間に殺人をさせるなど、王の残虐非道さは天を恐れず、伝説の竜を激怒させるに十分な悪事だ。
王や他家の手先が残っているのなら、直ぐにこの国を出るがいい。
伝説の竜が我が領地以外を焼き滅ぼす前にな」
ザワザワザワザワ。
「静まれ、静まらぬと罰を与えるぞ。
今回犯人を訴えた者は、約束通り使用人として召し抱え、本人と家族は城内に部屋を与えて住むことを許す、前に出ろ」
俺に言葉に従って、命懸けで訴えて人間とその家族、人質に取られていた連中が俺の方に近づいてきた。
十分近づくのを待ってから、最後通牒を突き付けてやった。
「だが、密偵が入り込まないように、全員に魔術をかけて白状させる」
俺がそう言ったとたん、若い女が二人と若い男が一人逃げ出そうとした。
こういう状況になる事を予測して、被害者とつながったのだろうか。
それとも、つながれたから被害者に仕立て上げたのだろうか。
辛抱強く潜入しようとしていたのだろうか。
なんであろうと、一生懸命生きている人を騙して利用するような奴は許せない。
「君達を利用しようとして騙していた卑劣漢は捕らえた。
煮るなり焼くなり好きにするがいい」
「ご領主様、どうかお願いでございます、妻の罪を許してやってもらえないでしょうか、この度の褒美は辞退させていただきますから、どうかお願いでございます」
「私もお願いします、この人を許してあげてください、私はこの人と領地を出させていただきますから、両親と兄弟は雇ってあげてください」
「駄目だ、エミリー、お前は騙されていたんだ。
こんな男についていったら売春宿に叩き売られるだけだぞ」
「いや、この人は私が愛したひとなの、一緒に行かせて」
本当に嫌になる、何故俺がこんな愁嘆場にいなければいけない。
全部王のせいだ、あいつが嫌がらせしたからこんな事になった。
絶対に報復してやるからな、覚えていろよ。
「ふん、お前達のような人の心を持たない糞野郎に騙された可哀想な者達。
諦めがつくようにグチャグチャに叩き潰してやろう」
俺がそう脅かしたら、三人が一斉に逃げ出した。
夫や恋人を残して後ろを振り返る事もなく、脱兎のごとく逃げ出した。
だがこれでよかった、想像通りのクズでよかった。
ここで愛する人のために殺されても残るなんて言われたら、後の始末が大変だし、助けたはずの被害者に恨まれる事になっていた。
だから殺さずに逃がしてやるよ、最低のクズども。
「さて、これで分かってくれたと思うが、お前達の中にどれだけ王や他国や犯罪者ギルドが放った密偵がいるか分からない。
自分は善良だと言われても、全員に魔術をかけて確かめる事もできない。
だから、お前達は領地から出て行ってもらう」
「「「「「そんな」」」」」
「「「「「お慈悲を」」」」」
「「「「「お慈悲をおかけください」」」」」
「「「「「どうかここに残してください」」」」」
「領都からは出て行ってもらうが、領地から追い出すわけではない。
王都からの街道沿いには住ませられないが、反対側の街や村には住んでもらって構わないから、好きな街や村に移住するがいい。
放棄された畑を元通りの耕作地にすれば、小作として四割を与える。
二年間は炊き出しを行ってやるから、それまでに畑を元通りしろ。
できたらお前達は晴れてフリードリッヒ辺境伯領の農民だ」
「「「「「ウッオオオオオ」」」」」
「「「「「やっるぞオオオオオ」」」」」
俺からすれば酷い待遇なのだが、王都の貧民だった彼らにすれば、小作人でも正式な農民に成れるのなら大成功なのだろう。
王都から逃げ出した当初だったら、とても再開拓の重労働に耐えられなかった。
だが四カ月にもわたる支援で、ある程度は身体が回復している。
凶悪な連中に労働した分の報酬は搾取されていたが、屈強な冒険者達が見張っていた炊き出しの食事までは奪えなかったからな。
「では、明日からの移動に備えてくれ」
「「「「「はい」」」」」
決断が遅れてしまったが、これで領都の治安が回復されるだろう。
警察業務に投入していた冒険者達を、元の狩りや交易団の護衛に戻せる。
徐々に赤字になっていた領地の収支を黒字に転換できるかもしれない。
問題は、一カ月で終わった王の嫌がらせだ。
俺が強硬策に出た事を知ったら、再び嫌がらせを始めるかもしれない。
もう王都に貧民はいないと思うが、貴族領から集めてくる可能性もある。
などと色々と考えていたが、王はとんでもない嫌がらせを始めやがった。
事もあろうに、塩を王家の専売にしやがったのだ。
今までは王家の所有する岩塩鉱とフックス侯爵家の所有する岩塩鉱が競い合っていたから、海がないのに内陸部なのに塩が高すぎなかったのだ。
だが、王家王国がフックス侯爵家に侵攻して岩塩鉱を奪ってしまったので、塩を王家王国が独占してしまった。
塩を止められてしまったら、十万を超える人数となった辺境伯領は滅ぶ。
交易が盛んであったお陰で、塩の備蓄は十分にあるが、王が意図的に悪い噂を流してパニックを誘発させたら、アッと言う間に辺境伯領は滅ぶ。
草木を焼いて灰塩を作り出せない訳ではないが、効率が悪すぎる。
植物の生長が早く、いくら刈り取っても翌日には再生されている、大魔境の草を刈り灰塩を作るしかないのかもしれない。
(いっそ王都に乗り込んで王家を滅ぼすか)
(そう、だな、アレクサンダーの言う通りかもしれないな)
(直太朗が未だに人殺しを忌避している気持ちは分かる。
俺だってずっと直太朗と一緒に成長してきたのだから。
だが、ここまで嫌がらせをされたら、領民を護るために立つしかない。
そうは思わないか)
(アレクサンダーの言う通り、ここまでされたら立つしかないだろう。
だが、俺達が王家を滅ぼしたら、国内が麻のように乱れて、戦国乱世のような血で血を洗う内乱位なってしまうのではないか。
王家を滅ぼすのなら、国を背負う覚悟がいるのではないか)
(そうだな、王家を滅ぼすのなら、国を背負って民を護る覚悟がいるな。
そうなると、他国の侵攻にも備えなければならん)
(アレクサンダーには他国の侵攻を撃退し、国内の貴族を抑える自信があるのか)
(残念ながらない、ないが、やらなければいけないとは思っている。
国中の民のためだからと言って、領民を見殺しにするわけにはいかない。
領民を護るためなら、フリードリッヒ辺境伯家の誇りを捨てる事はできても、領民を見殺しにする選択だけはない。
領民を見殺しにするくらいなら、この国が滅んだ方がいい。
それがこの世界の貴族家当主の役目のはずだ)
ローレンツ騎士フェリックスから教わった貴族とはそう言う者だった。
この一年近くで色々と経験したが、貴族の誇りとはそう言うモノだった。
俺のような小心者でも覚悟を決めるくらい、領地から逃げるしかなかった民の苦しみは、とても正視に耐えないモノだった。
家族のため生きていくために売春宿に身を売り、死んでいった娘の話しも聞いた。
もう二度とあんな状態にはさせないと誓ったはずだ。
(そうだな、領民のために戦うのが筋だな)
(覚悟を決めてくれたようだな、直太朗)
(ああ、覚悟は決めた。
だが覚悟を決めたからこそ、絶対に勝てる状態にしてなけならない。
後方に残る領民はもちろん、冒険者や貧民が裏切らないようにしなければ、王都での戦いが長引いた場合、領内で内乱が起きるぞ)
(大々的に最強最大の探知魔術を使って、裏切る可能性のある奴を皆殺しにするか)
(状況が厳しくなったら、王家の手先や性根の悪い人間だけでなく、普段は善良な人間も家族のために叛乱に加わるぞ。
それくらいの事は、ほとんど俺と同じアレクサンダーなら分かっているはずだぞ)
(すまん、焦って正常な判断ができなくなっていた)
(分かっているよ、ほとんど自分の事だからな。
だからこそ、俺が何を考えているか分かるだろ)
(ああ、直太朗の考えている事は分かる、伝説の竜と対峙する覚悟なのだな)
(その通りだ、伝説の竜と絆を結ぶことができれば、王家はもちろん他国も手出しできないだろう。
伝説の竜が力を貸してくれるなら、王家の岩塩鉱を奪う事も簡単だろう。
それどころか、王家を滅ぼしてこの国の支配者になる事も簡単だ。
まあ、この国を背負うなんて面倒は絶対に嫌だけどな)
(ああ、分かる、分かるぞ。
俺だって両親の事がなければ、辺境伯家を背負ったりをしなかった)
王が直接送り込んだ破壊工作要員とは断言できないが、貧民の中には問題を引き起こす者が数多くいたのだ。
窃盗や暴行、強姦や殺人まで犯す奴がいて、領都の治安が一気に悪くなった。
領都の治安を回復するには、高価な報酬を約束して、大魔境に入っているような、優秀で戦闘力のある冒険者に警察任務をしてもらわなければいけない。
信用ができて戦闘力がある冒険者を警察業務に投入した事で、交易団につける護衛冒険者の質は悪くなり人数も少なくなった。
今まで受けなかった犯罪者ギルドや盗賊団の襲撃を受けるようになってしまった。
今のところは被害はあるものの全て撃退できている。
だが、交易団なら安全に荷物を運べるという信用が低下しているのは確かだった。
「貧民達よ、今日は哀しい知らせを伝えなければいけない。
お前達を受け入れて四カ月過ぎたが、未だに辺境伯領の法を破る者がいる。
十分な支援を与えて、何度も言い聞かせたのも関わらず、悔い改めない。
誰がやったか、我々に伝える者がいないと言う事は、全員が一味だと言う事だ。
中には殺されるのが怖くて仕方なく黙っているというものもいるだろう。
だが、それこそが一味同心なのだ。
私がいるこの場で訴えてくれれば、犯人を処刑して安全にしてやろう。
黒幕がいて、後々の報復が怖いと言うのなら、訴え出た者と家族友人は辺境伯家の使用人として雇い、安全な城内に住ませてやろう。
さあ、知っている罪人を私に教えるのだ」
「言わせていただきます、だから人質にされている子供を助けてください」
「私も言います、だから人質にされている恋人を助けてください」
「私も」
「僕も」
「お前が犯人一味か、恥を知れ」
組織的な犯罪だったのだろう、告訴する者が現れたとたん、報復のために動こうとした者がいたから、風属性魔術で空中に浮かせてやった。
「フリードリッヒ辺境伯として命じる、一味全員を白状しろ。
白状すれば役に殺してやる」
(後は俺がやるよ、直太朗は休んでいてくれ)
凶行をしでかしてからは、俺が寝てからしか身体を使わなかったアレクサンダーが、汚れ仕事を変わってくれると言う。
正直に言えば、自分に人殺しができるか心配だった。
何度も頼んでいたのだが、返事がもらえなかったので、今日まで犯人を放置してしまったのは俺の責任だ。
(ありがとう、助かるよ)
(いや、今日まで決断できなかった俺が悪いのだ。
こんな状態になったのも、俺がやり過ぎたからかもしれないのに、直太朗が汚れ仕事をやらないからだと責任転嫁していた。
人に責任を押し付けるなんて、恥知らずで情けない行いだ。
こんな事では王を断罪できないからな)
(いや、俺が戦えないのをアレクサンダーが助けてくれたのだ。
俺が度胸を出して戦っていたら、アレクサンダーが狂気に陥る事もなかった。
少しずつ戦えるようになるから、許してくれ)
俺とアレクサンダーは互いの弱点を補うようにしようと誓った。
だから今回は、俺が表にでたままで、アレクサンダーが弱気になった俺の精神に影響を及ぼして、暴力的になるようにしてくれる事になった。
俺がこの世界に召喚された当初の、俺らしくない強気で暴力的な状態にするのだ。
「ミック、ロディー、バーツ、ラルフ、ローランド……」
俺が傀儡魔術を使って、一味の連中を白状させた。
一斉に近くに置いていた人質を盾にしようとしたが、そんな事は許さない。
アレクサンダーと一緒に、麻痺魔術を発動して動けなくした。
見せしめに殺す方法もあるが、黒幕を白状させなければいけない。
今表にでた連中が単なる使い走りという可能性もあるからだ。
「妻の仇、取らせてもらうぞ」
今まで黙っていた屈強な貧民が、急に勇気を出して妻の仇を討つという。
そんな陳腐な演技に騙されるほどバカではないぞ。
「口封じしようと思っても無駄だ、愚か者」
その後は芋づる式だった。
決して殺すことなく、傀儡魔術で一味の者を白状させ、次々と罪を犯した者達を確保し、また傀儡魔術で犯罪を犯した仲間を白状させた。
名前は出ていないが疑わしそうな奴も傀儡魔術をかけて自白させたら、王家や他家の密偵だったりした。
「今回罪を犯した連中は全て捕らえられたと思う。
だが、捜査に協力してくれた者はごくわずかだった。
しかも協力してくれた者の中には、王の密偵がいた。
最初から城内に入り込むために、仲間に殺人をさせるなど、王の残虐非道さは天を恐れず、伝説の竜を激怒させるに十分な悪事だ。
王や他家の手先が残っているのなら、直ぐにこの国を出るがいい。
伝説の竜が我が領地以外を焼き滅ぼす前にな」
ザワザワザワザワ。
「静まれ、静まらぬと罰を与えるぞ。
今回犯人を訴えた者は、約束通り使用人として召し抱え、本人と家族は城内に部屋を与えて住むことを許す、前に出ろ」
俺に言葉に従って、命懸けで訴えて人間とその家族、人質に取られていた連中が俺の方に近づいてきた。
十分近づくのを待ってから、最後通牒を突き付けてやった。
「だが、密偵が入り込まないように、全員に魔術をかけて白状させる」
俺がそう言ったとたん、若い女が二人と若い男が一人逃げ出そうとした。
こういう状況になる事を予測して、被害者とつながったのだろうか。
それとも、つながれたから被害者に仕立て上げたのだろうか。
辛抱強く潜入しようとしていたのだろうか。
なんであろうと、一生懸命生きている人を騙して利用するような奴は許せない。
「君達を利用しようとして騙していた卑劣漢は捕らえた。
煮るなり焼くなり好きにするがいい」
「ご領主様、どうかお願いでございます、妻の罪を許してやってもらえないでしょうか、この度の褒美は辞退させていただきますから、どうかお願いでございます」
「私もお願いします、この人を許してあげてください、私はこの人と領地を出させていただきますから、両親と兄弟は雇ってあげてください」
「駄目だ、エミリー、お前は騙されていたんだ。
こんな男についていったら売春宿に叩き売られるだけだぞ」
「いや、この人は私が愛したひとなの、一緒に行かせて」
本当に嫌になる、何故俺がこんな愁嘆場にいなければいけない。
全部王のせいだ、あいつが嫌がらせしたからこんな事になった。
絶対に報復してやるからな、覚えていろよ。
「ふん、お前達のような人の心を持たない糞野郎に騙された可哀想な者達。
諦めがつくようにグチャグチャに叩き潰してやろう」
俺がそう脅かしたら、三人が一斉に逃げ出した。
夫や恋人を残して後ろを振り返る事もなく、脱兎のごとく逃げ出した。
だがこれでよかった、想像通りのクズでよかった。
ここで愛する人のために殺されても残るなんて言われたら、後の始末が大変だし、助けたはずの被害者に恨まれる事になっていた。
だから殺さずに逃がしてやるよ、最低のクズども。
「さて、これで分かってくれたと思うが、お前達の中にどれだけ王や他国や犯罪者ギルドが放った密偵がいるか分からない。
自分は善良だと言われても、全員に魔術をかけて確かめる事もできない。
だから、お前達は領地から出て行ってもらう」
「「「「「そんな」」」」」
「「「「「お慈悲を」」」」」
「「「「「お慈悲をおかけください」」」」」
「「「「「どうかここに残してください」」」」」
「領都からは出て行ってもらうが、領地から追い出すわけではない。
王都からの街道沿いには住ませられないが、反対側の街や村には住んでもらって構わないから、好きな街や村に移住するがいい。
放棄された畑を元通りの耕作地にすれば、小作として四割を与える。
二年間は炊き出しを行ってやるから、それまでに畑を元通りしろ。
できたらお前達は晴れてフリードリッヒ辺境伯領の農民だ」
「「「「「ウッオオオオオ」」」」」
「「「「「やっるぞオオオオオ」」」」」
俺からすれば酷い待遇なのだが、王都の貧民だった彼らにすれば、小作人でも正式な農民に成れるのなら大成功なのだろう。
王都から逃げ出した当初だったら、とても再開拓の重労働に耐えられなかった。
だが四カ月にもわたる支援で、ある程度は身体が回復している。
凶悪な連中に労働した分の報酬は搾取されていたが、屈強な冒険者達が見張っていた炊き出しの食事までは奪えなかったからな。
「では、明日からの移動に備えてくれ」
「「「「「はい」」」」」
決断が遅れてしまったが、これで領都の治安が回復されるだろう。
警察業務に投入していた冒険者達を、元の狩りや交易団の護衛に戻せる。
徐々に赤字になっていた領地の収支を黒字に転換できるかもしれない。
問題は、一カ月で終わった王の嫌がらせだ。
俺が強硬策に出た事を知ったら、再び嫌がらせを始めるかもしれない。
もう王都に貧民はいないと思うが、貴族領から集めてくる可能性もある。
などと色々と考えていたが、王はとんでもない嫌がらせを始めやがった。
事もあろうに、塩を王家の専売にしやがったのだ。
今までは王家の所有する岩塩鉱とフックス侯爵家の所有する岩塩鉱が競い合っていたから、海がないのに内陸部なのに塩が高すぎなかったのだ。
だが、王家王国がフックス侯爵家に侵攻して岩塩鉱を奪ってしまったので、塩を王家王国が独占してしまった。
塩を止められてしまったら、十万を超える人数となった辺境伯領は滅ぶ。
交易が盛んであったお陰で、塩の備蓄は十分にあるが、王が意図的に悪い噂を流してパニックを誘発させたら、アッと言う間に辺境伯領は滅ぶ。
草木を焼いて灰塩を作り出せない訳ではないが、効率が悪すぎる。
植物の生長が早く、いくら刈り取っても翌日には再生されている、大魔境の草を刈り灰塩を作るしかないのかもしれない。
(いっそ王都に乗り込んで王家を滅ぼすか)
(そう、だな、アレクサンダーの言う通りかもしれないな)
(直太朗が未だに人殺しを忌避している気持ちは分かる。
俺だってずっと直太朗と一緒に成長してきたのだから。
だが、ここまで嫌がらせをされたら、領民を護るために立つしかない。
そうは思わないか)
(アレクサンダーの言う通り、ここまでされたら立つしかないだろう。
だが、俺達が王家を滅ぼしたら、国内が麻のように乱れて、戦国乱世のような血で血を洗う内乱位なってしまうのではないか。
王家を滅ぼすのなら、国を背負う覚悟がいるのではないか)
(そうだな、王家を滅ぼすのなら、国を背負って民を護る覚悟がいるな。
そうなると、他国の侵攻にも備えなければならん)
(アレクサンダーには他国の侵攻を撃退し、国内の貴族を抑える自信があるのか)
(残念ながらない、ないが、やらなければいけないとは思っている。
国中の民のためだからと言って、領民を見殺しにするわけにはいかない。
領民を護るためなら、フリードリッヒ辺境伯家の誇りを捨てる事はできても、領民を見殺しにする選択だけはない。
領民を見殺しにするくらいなら、この国が滅んだ方がいい。
それがこの世界の貴族家当主の役目のはずだ)
ローレンツ騎士フェリックスから教わった貴族とはそう言う者だった。
この一年近くで色々と経験したが、貴族の誇りとはそう言うモノだった。
俺のような小心者でも覚悟を決めるくらい、領地から逃げるしかなかった民の苦しみは、とても正視に耐えないモノだった。
家族のため生きていくために売春宿に身を売り、死んでいった娘の話しも聞いた。
もう二度とあんな状態にはさせないと誓ったはずだ。
(そうだな、領民のために戦うのが筋だな)
(覚悟を決めてくれたようだな、直太朗)
(ああ、覚悟は決めた。
だが覚悟を決めたからこそ、絶対に勝てる状態にしてなけならない。
後方に残る領民はもちろん、冒険者や貧民が裏切らないようにしなければ、王都での戦いが長引いた場合、領内で内乱が起きるぞ)
(大々的に最強最大の探知魔術を使って、裏切る可能性のある奴を皆殺しにするか)
(状況が厳しくなったら、王家の手先や性根の悪い人間だけでなく、普段は善良な人間も家族のために叛乱に加わるぞ。
それくらいの事は、ほとんど俺と同じアレクサンダーなら分かっているはずだぞ)
(すまん、焦って正常な判断ができなくなっていた)
(分かっているよ、ほとんど自分の事だからな。
だからこそ、俺が何を考えているか分かるだろ)
(ああ、直太朗の考えている事は分かる、伝説の竜と対峙する覚悟なのだな)
(その通りだ、伝説の竜と絆を結ぶことができれば、王家はもちろん他国も手出しできないだろう。
伝説の竜が力を貸してくれるなら、王家の岩塩鉱を奪う事も簡単だろう。
それどころか、王家を滅ぼしてこの国の支配者になる事も簡単だ。
まあ、この国を背負うなんて面倒は絶対に嫌だけどな)
(ああ、分かる、分かるぞ。
俺だって両親の事がなければ、辺境伯家を背負ったりをしなかった)
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本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
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田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
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――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
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Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
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十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。
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