上 下
21 / 37

第20話15日目の出来事

しおりを挟む
(龍ちゃん。
 みんな困っていないかな?
 飢えていないかな?)

(大丈夫だよ。
 どこに行ってもみんな普通に暮らしているだろ。
 僕に任せてくれたら、何の心配もいらないよ)

 シャロンは龍神に頼んで国中を巡るようにしていた。
 まだ数日しか経っていないが、龍神はシャロンの願いを聞いて、多くの民を助けてくれていた。
 龍神にとっては簡単な事だったが、本意ではなかった。
 だが、それでも、シャロンを喜ばすためなら、なんという事もなかった。

 龍神は緑の大地に変化させた荒野に、楽園を築く気でいた。
 人間など好きに殺し合いをさせておけばいいと考えていた。
 現に遠見の魔法で見るこの国は、戦国乱世の様相を呈していた。
 徐々に広がる結界のほころびも、魔が通過しやすくなっている。
 直ぐに魔による人間狩りが始まる。
 
 まあ、どうせシャロンに泣きつかれて、魔を滅ぼすことになるのだが、それまでは人間が本能のままに奪い合い殺し合えばいい。
 シャロンを苦しめ追放した人間には当然の報いだと考えていた。
 それよりも大切なのは、シャロンとの楽園をどのように築くかだった。
 他の人間を寄せ付けず、二人で楽しく暮らせる場所がいいと思っていた。

 だが人間が全くいないと、シャロンが寂しく思うかもしれない。
 そうシャロンが口にしてしまったら、人を集めてしなう自分がいる事も十分理解していたので、そう言われないように、楽しい場所にしなければいけない。
 当然、見た目も美しく、声も奇麗な動物を、できるだけ集めなければならない。
 虫も同じで、鮮やかな色彩で、美しい音色を奏でる翅をもつ虫がいい。

 神龍は世界各地からたくさんの動物や虫を集めた。
 そのために多くの神と心話で話し合った。
 時に神使を送って直接やり取りもした。
 その時に近隣の守護神から、魔がこの国から漏れないように依頼されてしまった。
 人間などどうでもいい神龍だったが、他の神々には多少気を使う。

 それに、白と黒の熊や、赤と碧の鳥、金銀に輝く鳥、真っ赤な犬や真っ青な猫など、多くの動物や虫を集めるためには、他の神の同意が必要だった。
 昔のように神々の戦いを引き起こしても、他の神に負ける気はしないが、神々の戦いに巻き込まれてしまったら、人間のシャロンなどひとたまりもない。
 そう思えば、少なくともシャロンが天寿を全うするまでは、神々の戦争を引きおこすわけにはいかなかった。

(ねえシャロン。
 遠くの国の神が、珍しい白と黒の熊を届けてくれたんだ。
 実りの大地に変えた荒地に行ってみてみない?)
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

運命の恋は一度だけ

豆狸
恋愛
王宮から招かれているのです。 マルクス殿下の十歳の誕生パーティへ行かないわけにはいきません。 けれど行きたいとは思えませんでした。行ったら、なにか恐ろしいことが起こりそうな気がするのです。今すぐにではなく、もっと未来、時間を経た後に……

【完結】好きな人ができたら婚約破棄しよう。それは王子様と公爵令嬢が結んだ約束でした。一人ぼっちの公爵令嬢は今日も王子様を待っています

五月ふう
恋愛
「好きな人ができたら婚約破棄。  この約束で僕と婚約しないか?」 第二王子ステフ・ミラントは令嬢ココ・ウィーセルにそう尋ねた。ココ、ステフともにまだ10歳。彼らは幼馴染だった。 「こん・・やく?お互いに好きな人ができるまで?」 ココは戸惑いの表情を浮かべ、ステフを見つめる。ベットの上に横たわるココの全身は包帯で覆われている。昨日、起こった火事でステフをかばい、彼女は大やけどを負ったのだ。 「ああ。」 ココの両親はすでに伝染病にかかって亡くなっており、ココは独りぼっちだった。火傷の痕は一生消えないだろうとお医者さんに言われている。居場所は無く、美しさを失い、ココはステフと約束するしかなかった。 「わかったわ。  ”好きな人ができたら婚約破棄”の約束で婚約しましょう。」 ココとステフの婚約はステフの両親である国王夫妻には認められなかった。ステフの同情のみが支える二人の婚約は、10年後のある日突如終わりを迎える。 「他に好きな人ができたから、婚約破棄してくれないか。」 ステフのその言葉と共に―――。

「最初から期待してないからいいんです」家族から見放された少女、後に家族から助けを求められるも戦勝国の王弟殿下へ嫁入りしているので拒否る。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に仕立て上げられた少女が幸せなるお話。 主人公は聖女に嵌められた。結果、家族からも見捨てられた。独りぼっちになった彼女は、敵国の王弟に拾われて妻となった。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】離縁されたので実家には戻らずに自由にさせて貰います!

山葵
恋愛
「キリア、俺と離縁してくれ。ライラの御腹には俺の子が居る。産まれてくる子を庶子としたくない。お前に子供が授からなかったのも悪いのだ。慰謝料は払うから、離婚届にサインをして出て行ってくれ!」 夫のカイロは、自分の横にライラさんを座らせ、向かいに座る私に離婚届を差し出した。

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

かわりに王妃になってくれる優しい妹を育てた戦略家の姉

菜っぱ
恋愛
貴族学校卒業の日に第一王子から婚約破棄を言い渡されたエンブレンは、何も言わずに会場を去った。 気品高い貴族の娘であるエンブレンが、なんの文句も言わずに去っていく姿はあまりにも清々しく、その姿に違和感を覚える第一王子だが、早く愛する人と婚姻を結ぼうと急いで王が婚姻時に使う契約の間へ向かう。 姉から婚約者の座を奪った妹のアンジュッテは、嫌な予感を覚えるが……。 全てが計画通り。賢い姉による、生贄仕立て上げ逃亡劇。

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

処理中です...