上 下
11 / 40

10話

しおりを挟む
「ご報告させていただきます。
 王家はクラリス様のファンケン公爵就任を認めてくれました。
 認証式は、前ファンケン公爵夫婦の葬儀が終わった後に、王宮内の青の間で行うとのことでございます」

 眼が覚めると、多くの報告が溜まっていました。
 本来なら私を起こしてでも報告しなければいけない重大事項も、エヴァの判断で後回しにされています。

 普通ならありえない事ですが、エヴァは別格なのです。
 表向きには認められていませんが、エヴァは私の叔母なのです。
 先代ファンケン公爵が、晩年に不可触民の女性との間に作った子供です。
 普通なら内々に殺されている所です。

 ですが先代が遺言してしまったのです。
 エヴァを絶対に殺してはいけないと。
 エヴァを家臣として鍛え、不可触民をファンケン公爵家の密偵に利用するための旗頭としろと、大変な遺言を残したのです。

 一族一門で意見が分かれました。
 家臣の間でも意見が分かれました。
 一族一門では、先代が年齢による衰えで常軌を逸した言動をしただけという意見が大勢を占め、エヴァを殺すという流れでした。
 家臣間では、長年名君としてファンケン公爵家を治めてきた先代の遺命として、尊重すべきという流れでした。
 結局長じるまで様子を見ることになったのです。

 エヴァは差別に満ちた厳しい一族一門の視線に打ち勝ちました。
 無茶な条件を次々と達成して、生を勝ち取ったのです。
 不可触民を利用する術も卓越していました。
 わずかな代償で、不可触民に最大の働きをさせるのです。
 不可触民から得られるファンケン公爵家の利益は莫大で、父上も無視できないようになったのです。

 王家との交渉や有力貴族との交渉で不利になった時も、エヴァの集めた情報で逆転したことが数多くありました。
 ついに家臣たちの推薦奏上を無視できなくなった父上は、エヴァに男爵の従属爵位を貸与して、社交界に同席させるようになりました。

 ファンケン公爵家が、謀略で先手をとれるようになったのはそれからです。
 今までは、不利になってからエヴァの力で何とか対等に持っていったり、損を減らしていたモノを、有利な条件から更に強気の交渉ができるようになったのです。
 そんなエヴァが、私の休息の方が重大事項よりも大切と指示してくれたからこそ、私はゆっくりと休めたのです。
 ですが目覚めてからの行動が大切です。
 エヴァを失望させるわけにはいきません!

「分かりました。
 まずは葬儀の準備を優先してください。
 ただ王家の動きが心配です。
 何か謀略を仕掛ける可能性があります。
 集められるだけの情報を集めてください。
 エヴァ、優先順位は貴女の判断に任せます。
 報告を続けてください」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされるのですね、そのお相手は誰ですの?

恋愛
フリュー王国で公爵の地位を授かるノースン家の次女であるハルメノア・ノースン公爵令嬢が開いていた茶会に乗り込み突如婚約破棄を申し出たフリュー王国第二王子エザーノ・フリューに戸惑うハルメノア公爵令嬢 この婚約破棄はどうなる? ザッ思いつき作品 恋愛要素は薄めです、ごめんなさい。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のローズ・ブライトはレイ・ブラウン王子と婚約していた。 婚約していた当初は仲が良かった。 しかし年月を重ねるに連れ、会う時間が少なくなり、パーティー会場でしか顔を合わさないようになった。 そして学園に上がると、レイはとある男爵令嬢に恋心を抱くようになった。 これまでレイのために厳しい王妃教育に耐えていたのに裏切られたローズはレイへの恋心も冷めた。 そして留学を決意する。 しかし帰ってきた瞬間、レイはローズに婚約破棄を叩きつけた。 「ローズ・ブライト! ナタリーを虐めた罪でお前との婚約を破棄する!」 えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?

どうやら私は不必要な令嬢だったようです

かのん
恋愛
 私はいらない存在だと、ふと気づいた。  さようなら。大好きなお姉様。

【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。

五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」 私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。 「残念だがもう決まったことさ。」 アトラスはもう私を見てはいなかった。 「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」 私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの? まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。

処理中です...