上 下
5 / 40

4話

しおりを挟む
「もはやこれまでですね。
 これでは名誉を傷つけられた貴族の方々が納得されません。
 そこを他国が調略をしかければ、簡単に寝返ることでしょう。
 私もこれまでに十分忠誠を尽くしてきました。
 その忠誠に対する国王陛下と王妃殿下の褒美が、この腐れ外道の妻になって一生働けという拷問ですか?
 いえ、きっとこの腐れ外道は私を殺そうとするでしょう。
 国王になれば、その権力で必ず私を殺すでしょう。
 王家に忠誠を尽くすのなら、私は黙って死ななければなりません。
 国王陛下と王妃殿下はそれを強制するのですか?
 今一度繰り返させていただきます。
 もはやこれまでです。
 私はこの国を捨てます。
 父上と母上はどう言われるかは分かりませんが、賛同してくださるのなら、ファンケン公爵家はカラッテ王国から分離独立します!
 私の忠誠は失われました。
 近衛騎士の方々、名誉を重んじられるのなら、私を無事に返してください」

「はい、ファンケン公爵家令嬢クラリス様。
 私も栄誉ある近衛騎士です。
 国王陛下と王妃殿下の名誉を地に落とすような騙し討ちは、身命を賭しておとめします。
 安心して下城されてください。
 いえ、私が屋敷まで警護させていただきます」

「私も警護させていただきます」
「私もです」
「自分も警護させていただきます」

 やれ、やれ。
 室内にいた全近衛騎士が私の警護を約束してくれました。
 恐らく国王がもっとも信用信頼していた近衛騎士だったのでしょう。
 ですがさっきの醜態で、忠誠心を失ってしまったのですね。

 忠誠心は相互契約なのです。
 一方だけが負担し、損をするような関係ではないのです。
 そんな関係を強要した時点で、主従関係は崩壊するのです。
 どれほど思想教育しようと、いつかどこかで破綻するのです。

「ありがとう、とてもうれしいわ。
 だけど、私は貴方たちが不忠者と後ろ指をさされる事を望まないわ。
 護衛をしてくれるのはうれしいけれど、全員の言葉を受け入れる事はできないわ。
 よく相談してくれないかしら。
 この場に残って国王陛下と王妃殿下の護衛を続ける者と、国王陛下と王妃殿下の命を受けて私を護衛する者に。
 そうすることで、誰も傷つかないと思うのよ。
 どうかしら?」

「国王陛下と王妃殿下の名誉だけでなく、我らの名誉にまで気遣っていただき、心からお礼申し上げます。
 王家に仕えて以来、これほどの気遣いをしていただいたのは初めてでございます。
 言葉にできないくらい、ありがたいことでございます。
 国王陛下、王妃殿下、護衛の命令をいただけますか?」

 おおっと!
 ここに来て近衛騎士隊長が国王と王妃を試しています。
 これで国王と王妃が許可を出さなかったらどうするのでしょうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

救国の大聖女は生まれ変わって【薬剤師】になりました ~聖女の力には限界があるけど、万能薬ならもっとたくさんの人を救えますよね?~

日之影ソラ
恋愛
千年前、大聖女として多くの人々を救った一人の女性がいた。国を蝕む病と一人で戦った彼女は、僅かニ十歳でその生涯を終えてしまう。その原因は、聖女の力を使い過ぎたこと。聖女の力には、使うことで自身の命を削るというリスクがあった。それを知ってからも、彼女は聖女としての使命を果たすべく、人々のために祈り続けた。そして、命が終わる瞬間、彼女は後悔した。もっと多くの人を救えたはずなのに……と。 そんな彼女は、ユリアとして千年後の世界で新たな生を受ける。今度こそ、より多くの人を救いたい。その一心で、彼女は薬剤師になった。万能薬を作ることで、かつて救えなかった人たちの笑顔を守ろうとした。 優しい王子に、元気で真面目な後輩。宮廷での環境にも恵まれ、一歩ずつ万能薬という目標に進んでいく。 しかし、新たな聖女が誕生してしまったことで、彼女の人生は大きく変化する。

国王陛下に不敬を働いた責任を取って公爵家から追放されることになりましたけど、全部計画通りです。

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下が男爵令嬢に浮気した。 公爵令嬢の私としては見過ごすことができず、男爵令嬢にある取引を持ち掛けた。 これはみんなにとって幸せになる方法。 身分差のある恋を叶えるためには、この方法しかないのだから。

たしかに私は『聞き上手令嬢』ですが、何でも言うことを聞くだなんて誤解ですわよ?

来住野つかさ
恋愛
シンシアは静かに怒っていた。目の前の男が、『自分と婚約した暁には浮気を了承し、婚姻後、伯爵家の仕事は全て君に任せたい』などとふざけたことを言ってきたからだ。たしかに私は『聞き上手令嬢』と呼ばれ、人の話をよく聞きますが、何でも言うことを聞くとは言ってませんけど? 反論しようにも、先に話すのは僕だ、と言って悦に入った顔で滔々と戯言を述べている男は止まらない。次のターンでは絶対反撃してやる! あの方が来る前に······。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

運命の選択が見えるのですが、どちらを選べば幸せになれますか? ~私の人生はバッドエンド率99.99%らしいです~

日之影ソラ
恋愛
第六王女として生を受けたアイリスには運命の選択肢が見える。選んだ選択肢で未来が大きく変わり、最悪の場合は死へ繋がってしまうのだが……彼女は何度も選択を間違え、死んではやり直してを繰り返していた。 女神様曰く、彼女の先祖が大罪を犯したせいで末代まで呪われてしまっているらしい。その呪いによって彼女の未来は、99.99%がバッドエンドに設定されていた。 婚約破棄、暗殺、病気、仲たがい。 あらゆる不幸が彼女を襲う。 果たしてアイリスは幸福な未来にたどり着けるのか? 選択肢を見る力を駆使して運命を切り開け!

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

処理中です...