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第一章

第45話:妊娠

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神暦3103年王国暦255年8月7日20時:ジャクスティン視点

 今次大戦で戦った国の村や街からの降伏併合願いを受けて、慌ただしく多くの村や街を併合した。

 全ての対戦国では、王家が壊滅的被害を受けており、俺様と条約を締結できる国王はもちろん、王位継承権者も存在しない。
 少なくとも、戦前に確認されていた百位以内の王位継承権者は全員死んでいる。

 どこかに隠れている百位以上の王位継承権者はいるかもしれない。
 後々隠し子が名乗り出る者、殺した王位継承権者は影武者だったと言いだす者が現われ、詐欺を働くかもしれないが、今は俺様が怖くて影を潜めている。

 最初は文句を言っていた遠方の国も、侵攻を企てた複数の王家で、国王を始めとした王位継承権者の半数が惨殺されたのを知り、何も言わなくなった。

 恥知らずで卑怯な外国人らしく、臆病風に吹かれて黙り込んだのだ。
 王家は尊き血筋だと言うのなら、口先だけでなく態度で示せ!
 俺様が間違っていると思うのなら、命懸けで文句を言ってこい!

 だが外国にそんな誇り高い王家など存在しない。
 俺様を恐れて振り上げたこぶしを下げ、目を逸らして下を向く憶病者しかいない。
 そんな連中に配慮する必要などない。

 俺様は再建できそうな村や街に家畜と塩を送って支援した。
 商品の注文さえあれば再建できそうなギルドには、国土の復興に必要な物資や商品を大量に注文した。

 仕事さえあれば、食糧さえあれば、罪を犯すことなく生活できる者達には、街や村の再建に必要な肉体労働を依頼した。

 農業の知識と技術があるのに、戦争で畑が駄目になった農民には、亜空間の牧草地で開墾と牧畜の仕事を与えた。

 世界では一日しか過ぎていない間に、亜空間の中で一年間衣食住に困ることなく暮らせるだけでなく、農地を再建するための蓄えまでできるのだ。

 亜空間で一年間過ごしたのに、元の村に戻ったら一日しか経っていない事を知り、戸惑う彼らに事情を話し、また亜空間に行きたいか確認する。
 行きたい者には好きなだけ亜空間で働いてもらう。

 自分の土地を持っている農民は、亜空間で得た穀物と家畜を使って、荒廃した自分の農地を再建しようとする。
 穀物と家畜が足らない場合はもう一年二年亜空間での小作を志願する。

 最初から何も持たない小作農は、ずっと亜空間で働きたいと言ってきた。
 同じ高額な税と小作料を払わなければいけないが、王侯貴族の横暴がなく、一年中天候が安定している亜空間の方が安全で暮らしやすいからだ。

 俺様にとっては、亜空間で作られた農作物の八割が税となって入ってくる。
 家畜も同じように子供が八割の税となって入ってくる。
 それらを使えば、戦争で被害を受けた国を素早く再建できる。

 一度亜空間に入った農民が、もう一度志願するまでには数日ある。
 その間、亜空間を無駄にするのはもったいない。
 一日ごとに支配下に入る村や街が増えるので、その中で希望者を募る。

 志願してくるのは新しく支配下に加わった村や街の農民だけではない。
 一度軍役や労役で亜空間に入った農民や町民の中には、一年間を亜空間で過ごしてでも二割の富が得たいと考える者がいる。

 経験があれば、余剰の大麦が百二十キロ程度の少量という事はない。
 亜空間では労役や兵役、雑役などの余分な税がない分農業に専念できる。
 体力とやる気にある者なら、千二百キロ近い余剰大麦が手に入る。

 だが大抵の農民は大麦を手に入れるよりは家畜を手に入れたがる。
 王侯貴族の食べ物である肉を確保できる自分の家畜を欲しがる。
 中には農業ではなく牧畜専業で亜空間に行きたいと言う者もいる。

 俺様にとっては農業でも牧畜でも構わない。
 亜空間の自然に任せて放っている家畜の数は、千億頭を超えている。

 捕らえるのは少々面倒だが、その気になれば有り余る家畜だけで全国民を養える。
 昔からのベータが、食事だけでもアルファ気分を味わいたいと言うのを咎めるほど、無粋でも狭量でもない。

 アルファの誇りとして、併合した国の民を助ける施策を優先していた。
 だが、ジェネシスとミアの事を忘れていたわけではない。

 アルファなら、七日七晩くらいならやりっぱなしでも死んだりしない。
 生鮮食料品だけでなく、保存の利く食糧も大量に放り込んである。
 一カ月や二カ月愛欲に浸っても何の問題もない。

 それでも、十七日目に二人が新婚部屋から出てきた時にはホッとした。
 正直な話し、十日目辺りから覗きに行こうか迷っていたのだ。

「お爺様、ミアと和解する事ができました。
 全てお爺様のお陰です、ありがとうございます」

 やり過ぎでげっそりとした姿で出てくるかと思ったが、肌艶がいい。
 十七日目やりっぱなしという事はなかったのだ。
 早い段階で妊娠できただけでなく、冷静に話し合えたのだ。

 媚薬さえやめれば冷静な判断力が戻ってくる。
 ジェネシスとミアには、美味しい料理と多種多様な酒を詰め込んだ魔法袋を渡していたから、新婚部屋で楽しく過ごしていたのだろう。

「父上、私もジェネシスに成人式の事を謝り、心の想いを正直に伝えられました。
 全て父上のお陰です、ありがとうございます」

 ミアも晴れ晴れとした表情と弾んだ声で礼を言ってくる。
 肌艶もいいから、ミアだけが譲歩したのではないのだろう。

 何よりうれしいのは、二人の首に番の印がある事だ。
 どちらか一方が支配されるのではなく、互いに支配し合うのだ。
 愛し愛され束縛しあう、絶対の番が生まれた。

「念のために聞いておくが、二人とも同時に妊娠しているのだな?」

「「はい」」

「男の喜びと女の喜びの両方を体験できました。
 女の方が男とは比較にならない喜びだと知ることができました。
 これからもミアと愛し愛されたいと思いました」

 ジェネシスが嬉しそうにとんでもない事を言いだした。
 知識では知っていたが、やはり女の方が強い喜びがあるのだな。
 俺様は男に抱かれる事を毛嫌いしてきたが……

「私も長年願っていたジェネシスの子供を宿せて感無量です。
 性の喜びは女の方が上ですが、男のようにジェネシスを妊娠させられたのは、女性の快感に匹敵する喜びがあります。
 これはアルファだからでしょうか?」

「さあな、それは俺様にも分からない。
 これから何百何千もの実験を繰り返さなければ答えの出ない事だろう。
 それよりも気になるのが二人の子供だ。
 今までと同じように、成人前はベータとして生まれるのか?
 それとも、生まれた時からアルファやオメガとして生まれるのか?」

「そんな可能性があるのですか?!」

 ジェネシスは何も考えていなかったようだ。

「これまでのアルファとオメガのカップルとは違ってくるのですか?!」

 ミアは今までのカップルと同じだと思っていたようだ。

「ジェネシスはオメガだったが、俺様の実験でアルファの性質も持っている。
 これまでのアルファとアルファのカップルや、アルファとオメガのカップルとは違った子供が生まれてくる可能性がある。
 互いの首に印をつけたカップルなど初めて聞いただろう?」

「はい、生まれて初めて聞きました」

「私も生まれて初めて聞きました。
 私達の子供が、最初からアルファやオメガとして生まれて来るとしたら、画期的な事ではありませんか?!」

「ミア、そう興奮するな。
 絶対にそうなると決まったわけではない。
 そうなる可能性が皆無ではないと言っているだけだ」

「はい、父上」

「それに、生まれた直後に変化がなくても、成人式の時に変化があるかもしれない。
 今までよりも目に見えて高確率でアルファやオメガが誕生するかもしれない」

「そうですね、それでも画期的な事ですね。
 ですがお爺様、その検証は十七年後にしかできないのではありませんか?」

「そうだ、誕生直後の検証なら一年二年でできるが、成人式となると時間がかかる」

「それだけではなく、お爺様の秘術でアルファの性質を兼ね備えたオメガを造り出すのに相当の時間がかかるのではありませんか?」

「確かに普通なら相当の時間がかかるだろうが、俺様には他の誰にも真似できない秘術があるから、全ての実験を一気にやる事が可能だ」

「……私達を亜空間に放り込むお心算ですか、お爺様」

「鍛錬のために百年以上亜空間にいたのだ、今更何を躊躇っている」

「僕は良いですが、ミアは若返りの秘術を知りません」

「ミアは俺様の娘だし、実験に付き合ってくれるのだから、永遠の若さを保てる秘術くらい幾らでも教えてやるぞ」

「本当ですか、父上?!
 今直ぐ教えてください!」
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