六度目の転生は異世界で

克全

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第一章

第16話:論功行賞

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教会歴五六九年七月(十歳)

 俺達はニースからマルセイユまで略奪を続けた。
 途中の街や村も情け容赦なく襲いながら移動した。
 金品を奪い女を犯し抵抗する者を殺し役に立ちそうな者を攫いながら移動した。
 オーク王国の王宮に民の悲鳴と怨嗟の声が届くように、情け容赦なく襲った。
 街の警備兵や自警団員が抵抗したが、全く相手にならなかった。
 兵士に適した剛力のオークは遠征軍に徴兵されているので、街や村に残っている者は人間や非力な種族だけだったからだ。

 俺達の略奪情報がランゴバルド王国に侵攻しているオーク王国軍に届いたころ、ランゴバルド人は首都周辺を放棄して草原地帯に逃げようとしていた。
 既にフリウーリ公国にまで逃げていて、草原地帯に向かおう山脈の手前にいた。
 ランゴバルド人が本気で逃げると決めたら、歩兵主体のオーク王国軍が追いつけるわけもなく、それどころか複合弓を使った奇襲部隊に逆撃されていた。
 オークの遠投距離を知ったランゴバルド人が距離を取って時間稼ぎをしていた。
 そんな状態で俺達の侵攻が知らされたから、急いで国に戻る事を決めたようだ。

 オーク王国軍が簡単に戻ることを決めた理由の一つは、王位継承争いだと思う。
 オーク王国のクロタール王には七人の男子がいて、五人が生き残っていた。
 その全員が、次の統一王になるべく暗闘を繰り返している。
 今回のランゴバルド王国遠征で勝利の栄誉を手に入れた王子もいれば、国に残って遠征中の王子を引きずり降ろす画策をしている者もいるだろう。
 その時の俺には、正確にどの王子が遠征軍に参加して、どの王子が国内に残っているのか分からなかったが、これまで集めた情報から推測できる事だった。

 もう一つの理由は、ランゴバルド王国にほとんど略奪する物がなかった事だろう。
 我がストレーザ公国を襲っていれば違っていたが、他の公国は後先考えずに略奪してしまった後だから、比較的豊かなオーク王国の兵士には奪う物のない国だったのだ。
 人を攫って奴隷にする事はできるが、奴隷を攫っても食わせて働かせて利益を生める者でなければ、何の意味もないのだ。
 それに、金になりそうな奴隷はランゴバルド人が一緒に連れて逃げている。
 街や村に残っている人間は、奴隷として価値のない者達だけだった。

 もし時間があったら、我がストレーザ公国に目が向いていたかもしれない。
 海沿いで比較的豊かなジェノバ公国に目が向いていたかもしれない。
 だが俺達はオーク王国軍に時間を与えなかった。
 父上が勇猛果敢な騎馬軍団を率いて奇襲を繰り返してくれていた。
 繰り返し奇襲を受けて怒り狂うオーク王国軍を上手く誘導してくれて、ストレーザ公国やジェノバ公国に向かわないようにしてくれたのだ。

 俺達はオーク王国内を縦横無尽に移動して、散発的に街や村を襲った。
 機動力を重視して編制した騎馬軍団は、オーク王国軍に追いつかれる事などない。
 オーク兵の遠投が強烈な威力なのは、バカ達の負け戦で事前に知ることができた。
 遠投距離を推測して、十分に安全な距離を取って、逃げる。
 オーク王国軍が追撃を諦められないくらいの距離を維持しつつ、上手く逃げる。
 待ち伏せをするであろうオーク王国軍別動隊の進路を予測し、避けながら逃げる。
 時に距離を離して食糧補充のための略奪も行いながら、余裕を持って逃げる。

「ストレーザ公、ジェノバ公、レオナルド、この度の働き大儀である。
 特にストレーザ公の果断な攻撃はとても勇敢で、オーク王国軍撃退に貢献した。
 それに比べて、アオスタ公とトレノ公は情けなさすぎる。
 大言壮語したくせに、ろくに戦いもせずに逃げ出した。
 しかもオーク王国内に侵攻してかき回すと言っていたくせに、王都に逃げ込んで、余だけでなく多くの氏族を危険にさらした事は許し難い。
 アオスタは領地を奪い公の身分を剥奪する。
 奪った領地は目覚ましい働きをしたストレーザ公に与える。
 トレノ公は公の身分は剥奪しないが、領地の半分を奪う。
 奪った領地は目覚ましい働きをしたジェノバ公に与える。
 異論のある者はいるか、いるのなら今直ぐ答えよ。
 後に異論を口にしても聞く耳持たぬぞ、いいか、いいのだな」

 俺とジェノバ公の目覚ましい働きで、オーク王国軍を撃退する事ができた。
 王家に対抗して、あわよくば王位を簒奪しようとしていたトレノ公とその一派は、著しく信望を失った。
 トレノ公自身は氏族が保有する直接戦力を失ったわけではないが、トレノ公一派の所為で領内を荒らされた多くの氏族から激しい恨みを買っている。

 この後何かあれば、王家と他の有力氏族から袋叩きにされるのは間違いない。
 今までトレノ公にすり寄っていた弱小公の中には、トレノ公から離れて王家に寝返り、生き残りを図った者が多い。
 そうしなければアオスタと同じように全てを失っていただろう。
 そうでなかったら、今回処分される公はもっと多かった。
 もっとも、まだロアマ帝国とオーク王国という強敵がいる状況では、トレノ公達を追い込み過ぎる事もできない。

「国王陛下、ちゃんと跡始末をしなければ、体制を整えたオーク王国が復仇の軍を派遣してくるかもしれません。
 その時のオーク王国は万全の体制を整えている事でしょう。
 ニースやマルセイユに強力な守備軍を残し、ロアマ帝国イタリア駐屯軍と同盟して、場合によったら内応者を準備するかもしれません」

 父上は俺が教えた通り、ちらりとトレノ公に視線を向けた。
 これでオーク王国に寝返るかもしれない危険人物がトレノ公だというイメージを、王に強く持たせる事ができた。

「急いでオーク王国と和平の約定を結び、ロアマ帝国との関係も改善しなければ、次に侵攻を受けたら、今度こそ草原地帯に逃げ戻る事になります」

 父上は俺が献策した事を間違いなく王に再献策してくれた。
 時間をかけて何度も策が必要な理由と得られる結果を父上に教えたから、間違うことなく正確に伝えてくれた。
 あの場には俺もいたから、俺が献策する事もできたが、危険だから避けた。
 王や氏族長達に目をつけられ、刺客を放たれるのが嫌だったから、ほとんどの手柄を父上が立てた事にしてもらった。
 策を考えたのは父上で、俺はそれに従って戦っただけにしてもらった。

 父上は勇猛果敢で百戦錬磨の戦士だというだけでなく。ランゴバルド王国一の軍師だと評価されるようになった。
 俺はまだ幼いと言ってもいい年齢なのに、父上と同じように勇猛果敢で、騎馬軍団を指揮できる一人前の戦士だと評価されるようになった。
 以前に後方で指揮を執った経験はあったが、遊牧民、騎馬民族で一人前と認められるのは、実際に他部族と戦う略奪に参加したかどうかだった。
 俺は王と全ての氏族長に認められたストレーザ公国の後継者となった。

 そのお陰で、今まで以上に分家や戦士達に対しての指導力が強くなった。
 俺が奴隷を従属民にしても、従属民を戦士階級にしても、表立って反対する分家や戦士がいなくなった。
 内心はともかく、氏族を繁栄させるために必要な戦力だと言えば受け入れられた。
 そこで今回の戦いで手柄を立てた者と、俺が必要だと思った者を、戦士階級や従属民に取立てて側近にする事にした。
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