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第一章

第4話:決裂・光聖女視点

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「なんという非礼無礼だ、王太子殿下を嫌って家出しただと?!
 そんな事をしでかして、ただですむと思っているのか!
 今直ぐ探し出して連れもどせ、そして頭を地につけて詫びろ!」

 禿げ頭をカツラで隠した王家の重臣が、大聖女様を罵っています。
 以前から王家の威光を笠に着て、散々無理難題を言ってきた奴です。
 マーガレット姉様がブチ切れて半殺しにしてからは、自分では来ずに、他の重臣や手下を使って難癖をつけるようになっていました。
 それがマーガレット姉様が家出したと聞いて、もう大丈夫とノコノコと自分でやって来たようですが、さっきから母上が憤怒しておられるのに気がついていません。

「ほう、ダナーン公爵アビシム卿は大聖女の私に、土下座をしろというのだな。
 よくわかった、そのケンカ買ってやろう。
 今直ぐ王家に帰って伝えてこい、聖女神殿に喧嘩を売って来たとな。
 バナル、この腐れ外道の両目を潰して叩きだせ!」

「え、あ、な、ぎゃああああああ」

 母上を本気で怒らすなんて、本当に馬鹿な奴です。
 母上が大人しくされていたのは、民の事を想って我慢されていただけです。
 決して弱くて戦えないからではないのです。
 聖女に選ばれて神殿に来る者は、大人しい女ばかりではありません。
 中には力があるからこそ傲慢になっている女もいるのです。
 神に選ばれた善女ではなく、魔力の才能で聖女と勘違いされた女も多いのです。
 そんな者達を力で叩きのめして矯正してきたのが母上なのです。

「あの、母上、本当に王国と戦うのですか……」

 本当に気の弱い子、アンゲラ、それではこれからの戦いには役に立たない。
 だから四席から五席に格下げになるのよ。
 本気で戦えば、リビネラやミリアを圧倒できるだけの魔力があるのに。
 今のままでは気合負けして殺されるでしょう。
 三席になったリビネラと四席になったミリアが、大人しく母上に従うかどうか。

「向こうがケンカを吹っかけてきたんだ、戦うのは当然の事だ。
 別に民を巻き込んで殺し合いをしようという訳じゃない。
 今までレイノルド王国を護るために使っていた力を、神殿を護るために使うだけだから、あんたが心配するような事じゃないよ。
 それよりアンタは戦えそうにないから、処女受胎して子供を生みな。
 これから聖女が沢山必要になるからね」

 母上にしては随分と大人しいやり方をされますね。
 大聖女に就任するまでは、鮮血の聖女と呼ばれていたほど武闘派なのに。
 まあ、そうでなければ、真聖女のマーガレット姉様と殴り合いのケンカはできませんよね、母上。
 問題は、母上が消極的になるくらい、去就が不安な聖女がいる事ですね。
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