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 私はひとめ見た貴公子に恋してしまいました。
 身の程知らずの恋だったと思います。
 相手はこの国一番の名門公爵家の若き当主、キャスバル様です。
 すらりとした長身と見事な金髪、深い海のような蒼さをたたえた瞳。
 処女雪のような純白の肌に、乙女を虜にして離さない美声。

 我が国の王女をはじめ、各国の王女が求婚しました。
 もちろん淑女が自分から求婚などできませんから、舞踏会などでアピールするとともに、父親に頼んで結婚の話を進めてもらうのです。
 私も父に懇願しました。
 貴族の中では侯爵家は上級貴族に数えられます。
 ですがライバルは各国の王女たちです。
 とても勝ち目はないと思っていました。

 舞踏会でもろくに話してもらえませんでした。
 侯爵令嬢では、目上の公爵家当主のキャスバル様には、自分から話しかける事ができないのです。
 思いのたけを込めて、視線を送りましたが、視線を合わせてはもらえません。
 各国の王女殿下がダンスを誘われた後で、ようやく私も誘っていただけましたが、それは難しい曲で、令嬢の間では人気のない曲でした。

 父上は私の願いをかなえようと、八方手を尽くしてくれました。
 縁故を駆使して、私をキャスバル様の妻にしようとしてくれました。
 侯爵家が傾くほどの持参金と台所領を用意してくれました。
 それでも、王家が用意する持参金や台所領には及びません。
 私の恋はかなわないモノだとあきらめました。

 ところが私を無視していたキャスバル様が、私を妻に選んでくれたのです。
 他の王女たちの手前無視されていただけで、私は愛されていたのだと思いました。
 天にも昇る気持ちでした。
 神に祝福されてるのだと信じることができました。
 涙を流して喜びました。
 ですが、すべて偽りでした。

 結婚してからも全く言葉をかけてもらえませんでした。
 いえ、視線すら向けてもらえませんでした。
 身体を重ねたのは数えるほどだけです。
 コーンウォリス公爵家の見届役とカーゾン侯爵家の見届役が私の体調を確認して、妊娠の可能性のある日に、二人の見届役の見守る前で身体を重ねただけです、

 なんの愛情も感じられない、後継者を得るためだけの交合。
 政略結婚の義務を果たすだけの交合。
 身体を重ねるたびに、心が凍りついていきます。
 三カ月で三度目の交合で、ようやく妊娠しているのが分かって、心が潰されてしまうかと思える義務から解放されました。

 なぜ私を選んだのか?
 政略結婚に徹するのなら、もっといい相手がいたはずです。
 軍事経済の同盟を考えれば最適な王女、持参金が我が家の十数倍の王女、コーンウォリス公爵家の領地に匹敵する台所領を用意した王女までいました。
 ですがある噂が理由を明らかにしてくれました。
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