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第1章
第42話:屈辱
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「すまん、無理を言った、魔力を温存してくれ」
ライアンが素直に謝った。
「仕方がないわ、プロウジェニタ・ヴァンパイアを逃がす訳にはいかなかったもの」
「そうだぜ、俺たちにも他の方法が浮かばなかった」
「俺たちは全力を尽くした、それでも滅ぼせない強敵だっただけだ」
四人は襲って来たヴァンパイアを皆殺しにした。
少なくとも姿の見えるヴァンパイアは全て滅ぼした。
だが、最大の敵であるプロウジェニタ・ヴァンパイアは逃がしたようだった。
カインとアベルの完全同調エクスプロージョンの三連撃を受けて消えた。
骨まで消えたのは確かだったが、カインとアベルのレベルが上がらなかった。
事前のレベル上げでとんでもない強さになっていたとはいえ、プロウジェニタ・ヴァンパイアを滅ぼしてレベルが上がらないなんて有り得ない。
どんな方法を使ったか分からないが、逃げたのだと思っていた。
一瞬の攻防だったが、ほんの少しの油断が生死を分ける戦いだった。
四人は事前のレベル上げで著しく強くなっていたが、油断はできなかった。
レベル差による防御力が通じるのはハイア・ヴァンパイアまでだった。
濃密な戦いだったが、ヴァンパイアを全滅させるまでに使った時間は、たったの十分に過ぎなかった。
攻防の激しさは早さと同じで、常人が瞬きする間に殺し殺される一瞬の戦い。
それが四人とヴァンパイアたちの死闘だった。
目に見えるヴァンパイアを全滅させてからも、エマとカインとアベルは周囲に浄化魔術を放ち続けた。
隠れ潜んで奇襲しようとしているはずのプロウジェニタ・ヴァンパイアを炙りだすために、ピュアリフィケイションを十分間放ち続けたが、見つけられなかった。
ライアンはカインとアベルの魔力残量を考えて手当たり次第の攻撃を諦めた。
攻撃魔術に比べれば必要魔力量の少ない浄化魔術だが、エマと違って神々の加護がないカインとアベルの魔力総量は少ない。
桁外れに上がったレベルのお陰で、エマとライアンを除けば国一番の魔力総量になっているが、それでも無限の魔力がある訳ではない。
プロウジェニタ・ヴァンパイアを発見できても、戦って勝てるだけの魔力が残っていなければ何の意味もない。
そこに予言精霊ディースが安心できる事を言ってくれた。
「プロウジェニタ・ヴァンパイアは逃げたと思う。
絶対ではないけれど、十中八九逃げたと思う。
人間相手の負けを認め、屈辱を飲み込んで、ロキの眷属としての誇り高い死よりも、次の勝ちを選んだようよ」
「そうか、いけ好かない眷属がだ、誇りよりも勝ちを選んだのか」
「そういう相手の方が怖いわね」
「今度こそ村を人質にするかもしれない」
「ディース、悪いけどひんぱんに見てくれないか?」
「分かったわ、貴方たちのお陰でとんでもなくレベルが上がったから、予言の精度も数も、これまでの百倍以上多くなったの。
常時という訳にはいかないけれど、奇襲されない間隔で見るわ」
「今の俺たちならプロウジェニタ・ヴァンパイアが相手でも正面から戦えば勝てる。
村の移住話だが、明日決行してしまわないか?」
「そうね、スペシャル・グレイド・ヴァンパイアを滅ぼしてもレベルが上がらないくらい強くなっているから、堂々とした方が良いかもしれないわ。
ただ、呪いに苦しむ母上様を移動させても大丈夫かどうか……」
「エマの心配は分かるけど、大丈夫じゃないか?」
「軽く言う訳にはいかないが、今のエマなら大丈夫なんじゃないか?」
「そうだな、治癒神エイルの言う事が嘘だとは思わないが、ここまでレベルが上がったエマなら、完全な解呪は無理でも一時的に全快できるんじゃないか」
「一時的にでも全快にできるなら、移住が苦痛にならないと思うけど……」
「悩む前にやってみよう、やってダメなら他の手を考えよう」
「そうだよ、まずはやってみようぜ」
「それに、苦痛を無くせるなら、それだけでもいいんじゃないか?」
「そうね、三人の言う通りね、特にアベルの言う通りね。
母上様の苦痛を取りのぞけるのなら、父上様に何を言われても、村に居るべきね」
「何を言われてもって、何も言われないよ」
「そうだよ、プロウジェニタ・ヴァンパイアを追い返して配下を全滅させたんだぜ」
「誰も何も言わないよ、言う奴がいたら俺たちが村から追い出してやるよ」
「いや、追い出す必要なんてない。
俺たちが移住する亜竜ダンジョンに連れて行かなければ良い。
村に残りたい奴らと一緒に置いて行けばいい」
「それはいい、確かに移住に反対する奴らもいるだろう」
「村長がどう言うか分からないけれど、反対するようなら、お母さんだけ連れて移住してもいいんじゃないか?」
「村が分裂したら、手分けして守るの?」
「そんな必要はない、生き残るために誰かを見殺しにするのが大魔境の掟だ」
「そう、そう、その掟に従って俺たちは村をでたんだ」
「今更俺たちの移住案を反対する連中を守る必要はないよ」
「エマ、村長の娘としての責任感は分かるが、村長の娘だからこそ、村の脚を引っ張る奴らの事は切り捨てた方が良い」
「母上様は村の人たちを見捨てない立派な人だわ。
以前の私は、同じような大人になりたいと思っていたけれど、今は違うわ。
父上様の方が正しいと思っているわ」
「エマがそう言うなら何の問題もない、夜通し駆けて村に戻ろう」
ライアンが素直に謝った。
「仕方がないわ、プロウジェニタ・ヴァンパイアを逃がす訳にはいかなかったもの」
「そうだぜ、俺たちにも他の方法が浮かばなかった」
「俺たちは全力を尽くした、それでも滅ぼせない強敵だっただけだ」
四人は襲って来たヴァンパイアを皆殺しにした。
少なくとも姿の見えるヴァンパイアは全て滅ぼした。
だが、最大の敵であるプロウジェニタ・ヴァンパイアは逃がしたようだった。
カインとアベルの完全同調エクスプロージョンの三連撃を受けて消えた。
骨まで消えたのは確かだったが、カインとアベルのレベルが上がらなかった。
事前のレベル上げでとんでもない強さになっていたとはいえ、プロウジェニタ・ヴァンパイアを滅ぼしてレベルが上がらないなんて有り得ない。
どんな方法を使ったか分からないが、逃げたのだと思っていた。
一瞬の攻防だったが、ほんの少しの油断が生死を分ける戦いだった。
四人は事前のレベル上げで著しく強くなっていたが、油断はできなかった。
レベル差による防御力が通じるのはハイア・ヴァンパイアまでだった。
濃密な戦いだったが、ヴァンパイアを全滅させるまでに使った時間は、たったの十分に過ぎなかった。
攻防の激しさは早さと同じで、常人が瞬きする間に殺し殺される一瞬の戦い。
それが四人とヴァンパイアたちの死闘だった。
目に見えるヴァンパイアを全滅させてからも、エマとカインとアベルは周囲に浄化魔術を放ち続けた。
隠れ潜んで奇襲しようとしているはずのプロウジェニタ・ヴァンパイアを炙りだすために、ピュアリフィケイションを十分間放ち続けたが、見つけられなかった。
ライアンはカインとアベルの魔力残量を考えて手当たり次第の攻撃を諦めた。
攻撃魔術に比べれば必要魔力量の少ない浄化魔術だが、エマと違って神々の加護がないカインとアベルの魔力総量は少ない。
桁外れに上がったレベルのお陰で、エマとライアンを除けば国一番の魔力総量になっているが、それでも無限の魔力がある訳ではない。
プロウジェニタ・ヴァンパイアを発見できても、戦って勝てるだけの魔力が残っていなければ何の意味もない。
そこに予言精霊ディースが安心できる事を言ってくれた。
「プロウジェニタ・ヴァンパイアは逃げたと思う。
絶対ではないけれど、十中八九逃げたと思う。
人間相手の負けを認め、屈辱を飲み込んで、ロキの眷属としての誇り高い死よりも、次の勝ちを選んだようよ」
「そうか、いけ好かない眷属がだ、誇りよりも勝ちを選んだのか」
「そういう相手の方が怖いわね」
「今度こそ村を人質にするかもしれない」
「ディース、悪いけどひんぱんに見てくれないか?」
「分かったわ、貴方たちのお陰でとんでもなくレベルが上がったから、予言の精度も数も、これまでの百倍以上多くなったの。
常時という訳にはいかないけれど、奇襲されない間隔で見るわ」
「今の俺たちならプロウジェニタ・ヴァンパイアが相手でも正面から戦えば勝てる。
村の移住話だが、明日決行してしまわないか?」
「そうね、スペシャル・グレイド・ヴァンパイアを滅ぼしてもレベルが上がらないくらい強くなっているから、堂々とした方が良いかもしれないわ。
ただ、呪いに苦しむ母上様を移動させても大丈夫かどうか……」
「エマの心配は分かるけど、大丈夫じゃないか?」
「軽く言う訳にはいかないが、今のエマなら大丈夫なんじゃないか?」
「そうだな、治癒神エイルの言う事が嘘だとは思わないが、ここまでレベルが上がったエマなら、完全な解呪は無理でも一時的に全快できるんじゃないか」
「一時的にでも全快にできるなら、移住が苦痛にならないと思うけど……」
「悩む前にやってみよう、やってダメなら他の手を考えよう」
「そうだよ、まずはやってみようぜ」
「それに、苦痛を無くせるなら、それだけでもいいんじゃないか?」
「そうね、三人の言う通りね、特にアベルの言う通りね。
母上様の苦痛を取りのぞけるのなら、父上様に何を言われても、村に居るべきね」
「何を言われてもって、何も言われないよ」
「そうだよ、プロウジェニタ・ヴァンパイアを追い返して配下を全滅させたんだぜ」
「誰も何も言わないよ、言う奴がいたら俺たちが村から追い出してやるよ」
「いや、追い出す必要なんてない。
俺たちが移住する亜竜ダンジョンに連れて行かなければ良い。
村に残りたい奴らと一緒に置いて行けばいい」
「それはいい、確かに移住に反対する奴らもいるだろう」
「村長がどう言うか分からないけれど、反対するようなら、お母さんだけ連れて移住してもいいんじゃないか?」
「村が分裂したら、手分けして守るの?」
「そんな必要はない、生き残るために誰かを見殺しにするのが大魔境の掟だ」
「そう、そう、その掟に従って俺たちは村をでたんだ」
「今更俺たちの移住案を反対する連中を守る必要はないよ」
「エマ、村長の娘としての責任感は分かるが、村長の娘だからこそ、村の脚を引っ張る奴らの事は切り捨てた方が良い」
「母上様は村の人たちを見捨てない立派な人だわ。
以前の私は、同じような大人になりたいと思っていたけれど、今は違うわ。
父上様の方が正しいと思っているわ」
「エマがそう言うなら何の問題もない、夜通し駆けて村に戻ろう」
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