上 下
64 / 87
第二章

第64話:宣戦布告

しおりを挟む
 父上は、俺と母上に対して無礼な交渉の使者を送ってきた連中に、怒りを表明する正使を送られました。

「人を人とも思わぬ、公王殿下と女侯王殿下に対する無礼な言動は絶対に許せない。
 公王と公国の名誉にかけて宣戦を布告する」

「まて、待ってくれ。
 余にそのような気はなかったのだ。
 使者が無礼な言動をとったというのなら、処罰する」

「もはや問答無用でございます。
 大切な嫡男と妻を悪し様に言われたインマヌエル侯王殿下は、大公王家を皆殺しにすると宣言され、亜竜軍団を率いて出陣されました。
 私は早馬を駆けに駆けさせて、一日先にやって来ただけです」

「そんな、詫びる、余直々に詫びるから、何とかとりなしてくれ」

「愚かでございますね。
 あのような無礼極まりない使者を送った時点で、大公王家の命運は尽きたのです。
 殿下にできるのは、城に残って亜竜の餌になるか、先祖伝来の財宝を持って逃げるか、どちらを選ぶ事しかありません」

「そんな!」

 ブランデン大公王国は父上が占領されました。
 大公王だけでなく、エヴァ大公王家が父上を軽く見ていたのでしょう。
 愚かとしか言いようがありません。

 普段はとても温厚で心優しい父上ですが、戦いになると豹変されます。
 戦場での甘さが味方を全滅させる愚かな行為だと、骨身に染みておられるのです。
 
 戦いの場に望まれた父上は、俺よりも冷酷非情です。
 泣いて謝る大公王を生きたまま亜竜の餌にされました。
 残っていたエヴァ大公王家の者達を、全員餌にされました。

「無礼な言動で喧嘩を売って来たエヴァ大公王家は皆殺しにした。
 文句のある奴はでてこい。
 勇気のある者は好きだから、正々堂々の一騎打ちをしてやる。
 誰も出てこないのなら、私を次の大公王と認めた事になる。
 それでもいいのか?!」

「文句があるぞ!
 卑怯にも亜竜の力で国を奪いやがって!
 人対人、一対一ならお前のような卑怯者に負けるものか!」

 馬鹿な大男が父上の挑発に乗ってノコノコと現れたそうです。
 身長二メートル、体重は百二十キロはあったそうです。
 そんな巨躯が、大剣を片手に戦いを挑んだのです。

 本人が本当に一対一で戦う気だったのか、今では分かりません。
 性根の腐った策士に踊らされただけなのかもしれません。
 巨躯も卑怯下劣だったのか、愚かですが愛すべき好漢だったのか……

 父上と巨躯が一対一で戦おうとしたその瞬間、どこかに隠れていた兵が十数人現われ、猛毒を塗った矢を放ってきたそうです。

 そのような姑息な手に不覚を取る父上ではありません。
 その程度の実力では、五十年戦争末期から動乱期を生き抜けていません。
 毒矢を全て躱された時には、味方の毒矢を受けた巨躯が死んでいたそうです。

「楽に死ねると思うなよ。
 黒幕を含めた関係者すべてを炙り出して、生まれてきた事を後悔するほどの地獄を味あわせてやるからな!」

 父上は宣言通りにされました。
 矢を放って来た連中を生きたまま捕らえ、傭兵団伝統の拷問を使われました。

 余りに凄惨な方法なので、具体的な方法は省きますが、弓兵達は殺してくれと泣き喚き、全てを白状したそうです。

「実行犯が白状した、逃げなかったのが度胸があるからなのか、愚かなのかは、拷問を受ければ分かる事だ」

「ちがいます、冤罪です、私は何の関係もありません!」

 父上は愚かな連中を次々と摘発されました。
 実力差を全く理解できていない馬鹿が多過ぎたそうです。
 神輿に担ぎ上げられていたのは、エヴァ大公王家の末裔だったそうです。

 一族を名乗れないくらい昔に本家から分かれた連中が、本家のエヴァ大公王家が滅んだので、父上さえ殺せば大公王を名乗れると思ったのだそうです。

 黒幕は、自分は策士だと思い込んでいた愚者だったそうです。
 エヴァ大公王家の末裔を神輿に担げば、成功した時は裏から大公王国を牛耳れ、失敗した時は追及から逃れられると考えていたそうです。
 
 エヴァ大公王家を滅ぼし、ブランデン大公王国占領された父上は、貧民を中心とした平民に食糧を配って味方につけられました。

 母上が占領された四十侯国の収穫が間に合ったばかりか、近年まれにみる豊作だったので、食糧が想定していた以上に余裕です。

 母上は、父上がブランデン大公王国占領したという俺の報告を受けられてから、某侯王家出身の騎士をテンベルク大公王国に送られました。

「貴国の使者は、畏れ多くもフェルディナンド公王殿下に喧嘩を売りました。
 パトリツィア女侯王殿下の正統な戦いを、下劣な侵略戦争を罵りました。
 大公王、貴方にその意思があったかどうかなど、もう関係ありません。
 フェルディナンド公王殿下とパトリツィア女侯王殿下は、受けた恥を注ぐために宣戦布告をされました。
 明日の昼には城壁前に布陣されるでしょう」

「まて、待たれよ、何の話か分からない」

「問答無用、宣戦布告は済ませましたから、もう用はありません」

「まて、待たぬか、余に対して無礼にも程があるぞ!
 捕らえよ、この者を捕らえて捕虜にせよ」

「愚かな、好きになされるがよい。
 宣戦布告の使者に選ばれた以上、愚者に殺される覚悟はしている。
 だが、私を殺せば楽には死ねませんぞ。
 エヴァ大公王家が亜竜の餌になって族滅したのを知らないのか?!」

「な、なんだと、エヴァ大公王家が族滅しただと?!」

「もう逃げるのに残された時間は半日もないぞ。
 エヴァ大公王家は、最後の警告を無視して滅んだ。
 一族を滅ぼしたくないのなら、今直ぐ逃げるのだな」

「何故余が逃げねばならぬ?!
 下賤な者が遣り過ぎたのを、親切に注意してやったのだ!
 感謝されこそすれ、戦争を仕掛けられる謂れなどないわ!」

「これ以上馬鹿の相手はできない。
 私を殺したければさっさと殺せ。
 その代わり、ブランデン大公王国ほど寛大な処置は望めないぞ。
 ブランデン大公王国は使者を返して籠城したから、エヴァ大公王家の族滅だけですんだが、私を殺したら、家臣国民皆殺しにされるだろう」

「ふん、我が国には忠勇兼備の忠臣が数多くいる。
 そのような脅しに屈する事はない。
 もはや余の堪忍袋も切れた。
 勝ち戦の前の生贄にちょうど良い、その者の首を刎ねよ」

「お待ちください、殿下はブロデン大公王国が滅んだのをお忘れか?!」

 テンベルク大公王国の宰相が慌てて間に割って入ったそうです。

「ふん、あれはブロデン大公王国が腐っていたからだ。
 マクネイア公国など大した国ではない。
 その証拠に、ブロデン大公王国領やマクネイア公国領と決められた地の者達が、未だにツォレルン大公王を名乗っているではないか」

「それは食糧が確保できないからです。
 占領地の民を餓死させないように、自重しているからだけです」

「愚かな、平民のために勝てる戦を中止するような者などいない。
 耄碌したな、もうお前は用なしだ、そいつも一緒に生贄にしろ」

「私を殺すのはかまいませんが、使者を殺すのはお止めください。
 正式な使者を殺すなど、まともな王のする事ではありませんぞ!」

「ふん、先にまともではない使者を送ってきた方が悪いのだ。
 何をグズグズしている、さっさと二人を殺すのだ」

「宰相閣下、御覚悟!」

「ギャアアアアア」

 大公王の側近が命令通りに宰相を殺そうとした直後。偉そうに玉座に座っていた大公王が絶叫を放ったそうです。
 数多い大公王子の一人が、父である大公王に剣を突き刺したのだそうです。

「なにをする?!」
「謀叛だ、謀叛だぞ」
「騒ぐな、まずは陛下をお助けするのだ!」

 大公王を刺したのは、宰相の娘が生んだ七番目の王子だったそうです。
 騒ぎ立てたのは、一人目の大公王妃が生んだ最初の王子だったそうです。

 殺された大公王は、気に入った女を身分にかかわらず王妃にしていたそうなのですが、飽きたら殺して次の女を王妃にする、人非人だったそうです。

 そのような残虐な方法を使って、旧教の教えを守っていると言い張る、身勝手極まりない最低の大公王だったそうです。

「心ある者達は聞いてくれ、もうこの国は終わりだ。
 ミラー大公王家に残された道は、逃げるか滅ぶかしかない。
 そんな家に従って自分達まで滅ぶ必要はない。
 私は家族を連れて逃げるから、お前達は好きにするがいい」

 父の大公王を殺した第七王子は、祖父である宰相を助けて逃げようとしたそうですが、大公王の地位を狙う第一王子はジャマしようとしました。
 ですが、普段からの鍛錬に歴然の差があったようで、一刀両断されたそうです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

スキルが覚醒してパーティーに貢献していたつもりだったが、追放されてしまいました ~今度から新たに出来た仲間と頑張ります~

黒色の猫
ファンタジー
 孤児院出身の僕は10歳になり、教会でスキル授与の儀式を受けた。  僕が授かったスキルは『眠る』という、意味不明なスキルただ1つだけだった。  そんな僕でも、仲間にいれてくれた、幼馴染みたちとパーティーを組み僕たちは、冒険者になった。  それから、5年近くがたった。  5年の間に、覚醒したスキルを使ってパーティーに、貢献したつもりだったのだが、そんな僕に、仲間たちから言い渡されたのは、パーティーからの追放宣言だった。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

水無月 静琉
ファンタジー
神様のミスによって命を落とし、転生した茅野巧。様々なスキルを授かり異世界に送られると、そこは魔物が蠢く危険な森の中だった。タクミはその森で双子と思しき幼い男女の子供を発見し、アレン、エレナと名づけて保護する。格闘術で魔物を楽々倒す二人に驚きながらも、街に辿り着いたタクミは生計を立てるために冒険者ギルドに登録。アレンとエレナの成長を見守りながらの、のんびり冒険者生活がスタート! ***この度アルファポリス様から書籍化しました! 詳しくは近況ボードにて!

処理中です...