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第二章

第54話:弑逆

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「フェルディナンド侯王殿下。
 ヴィルヘルム大公王とジーノ大臣は責任を取って自決いたしました。
 これをもって我が国の卑怯下劣な行いの償いとさせていただきます」

 アン姉上と俺が、亜竜軍団と共にツォレルン大公王家の城の前まで戻ると、血まみれの姿で生首二つを持つ男が立っていました。

「貴男は何者ですか?」

「申し遅れました。
 私はツォレルン大公王家の端に連なる者でございます」

「ヴィルヘルム大公王との関係と名前は?」

「再従弟に当たります。
 名はベネディクトゥスと申します」

「ではベネディクトゥス、その首が本当にヴィルヘルム大公王の物だと証明するモノはありますか?」

「私が、ツォレルン大公王家の名誉にかけて証明させていただきます」

「舞踏会で踊っている女性に刺客を送るような、恥知らずなツォレルン大公王家に名誉などありませんから、証明にはなりませんね」

「でしたら騎士として誓います。
 この首はヴィルヘルム大公王で間違いありません!」

「平気で身分を偽って舞踏会に参加し、俺の命を狙ったブロデン大公王国騎士の誓いですか?
 とても信用できませんね」

「では、私個人の名誉にかけて誓わせていただきます!」

「騎士としたら忠誠を誓うべき主君。
 ツォレルン大公王家の者としたら従うべき当主で再従兄。
 そのヴィルヘルム大公王を平気で弑逆するような貴男の誓いを、俺に信用しろと言われて、信じられるはずがないでしょう」

「なっ、何を言っている!」

「私に嘘は通用しませんよ。
 私や多くの者を偽り、和平の立役者となって力をつけ、大公王になろうとしたのでしょうが、そうはいきません。
 主君や当主を弑逆するような者とは、取引はもちろん約束もできません。
 ヴィルヘルム大公王やベネディクトゥスが力を持つような一族は、やはり滅ぼさなければいけませんね。
 先ずは貴男から踏み潰して差し上げましょう」

「おのれ、お前のようなガキに好き勝手させるか!」

 怒り狂ったベネディクトゥスが、生首を放り投げ、剣を抜いてかかってきましたが、中型亜竜に敵う訳がありません。

 一瞬で、ぐしゃりと踏み潰されてしまいました。
 とても嫌な感触が、乗っている走竜から伝わってきました。
 そのまま城、城壁ではなく館部分も破壊しようとしたのですが……

「フェルディナンド侯王殿下。
 どうかここまででお許しください!
 ベネディクトゥスが殿下と大臣を弑逆したのは本当でございます。
 この状態では、フェルディナンド侯王殿下にお詫びする事もできません。
 どうか、ブロデン大公王国とツォレルン大公王家がお詫びできるように、しばしのお時間をいただけないでしょうか!?」

「貴男は誰ですか?」

「ブロデン大公王国で下級政務官をさせていただいている、マッテオと申します。
 逃げずに残っている役人を集めて、城に残っておられるツォレルン大公王家の方に、大公王位を継いでいただきます。
 殿下の望まれる和平案を受け入れさせていただきます。
 ですので、どうか、これ以上の破壊と殺戮はお止めください、この通りです!」

「待つと約束する前に聞かせていただきましょう。
 マッテオはどの程度の和平案が相応しいと考えているのですか?」

「最低でも、領地の半分を割譲させていただかなければいけないと思っています」

「そのような条件を、国はもちろん、ツォレルン大公王家が認めると思っているのですか?」

「思っていません。
 割譲地に当たっている領主はもちろん、ブロデン大公王国に残る事になっている領主も、新たな大公王殿下を認めないでしょう。
 新たな大公王殿下に選ばれなかったツォレルン大公王家の方々も、自分こそが大公王だと名乗られるでしょう。
 それでも、ここでフェルディナンド侯王殿下と和平を結ぶ方がマシです。
 このままでは、この都市は人の住めない場所になってしまいます。
 三万もの民が流浪するよりはずっとマシです」

「マッテオの覚悟に敬意を表して待ちましょう。
 貴男の考えに同調してくれる者を連れてきなさい。
 ここに残っているツォレルン大公王家の方から、大公王にふさわしい方を選ぶのは時間がかかるでしょうから、その都度報告する者を決めなさい」

「ありがとうございます、直ぐに集めて参ります!」

 俺はアン姉上と一緒に待つことにしました。
 やっと、本当にやっと、まとものブロデン大公王国人に会えました。
 このまま上手く和平条約を結ぶことができればいいのですが……

「殿下はどのような和平案を考えておられるのですか?」

「アン姉上、母上がおられない場所では普通に話してください」

「それは無理ですわ。
 私はそれほど器用ではありません。
 ここで以前のように話してしまうと、何かの折に出てしまいます。
 母上のお説教を貰うくらいなら、ずっと臣下として話していた方がいいです」

「仕方がありませんね、俺も母上のお説教は苦手ですから、姉上に他人行儀にされるのは嫌ですが、諦めます」

「ありがとうございます、フェルディナンド殿下」

「嫌がらせは止めてください」

「うふふふふ、ごめんなさいね。
 それで、どのような和平条にされるのですか?」

「向こうが言ってきた、折半で応じる心算ですよ」

「殿下は、他人の命も生活も、背負うのが嫌だと言っておられませんでした?」

「言っていましたよ」

「それなのに、半分もの領地割譲を受けられるのですか?」

「割譲は受けても、実際に統治するわけではりません。
 マッテオと名乗った者が言っていた通り、多くの領主や代官が侯王を名乗って独立するか、大公王を名乗る事でしょう。
 俺が実際に責任を持たなければいけないのは、わずかな領地です。
 その程度なら、本領地の収穫で責任を持って養えます」

「それなら、最初からわずかな領地の割譲で和平条約を結べばいいでしょう?
 それなのに、厳しい非難を覚悟して半分の割譲を条件にするのは何故?」

「そうしておかないと、酷い統治をする領主を討伐できなくなります。
 余りにも目に余る酷い統治をするような領主は見過ごせません。
 何人か見せしめにしたら、大抵の領主はそれなりの統治をしてくれるはずです」

「力を持つというのも大変ね。
 そこまで考えなければいけないの?」

「俺は父上と母上の教えで現実を見られるようになっています。
 ある程度の非道も行えます。
 ですが、助けられる者は見捨てずに助けろと言われて育ちました。
 今回も、助けられ者は助ける心算です。
 そうしないと、どうも落ち着かないのです。
 嫌な気分になってしまうのです」

「殿下は可哀想ね。
 力が有っただけに、父上と母上の期待を一身に受けてしまったのね」

「俺は魔法を授かれてよかったと思っていますよ。
 父上と母上が力及ばずに無念の涙を飲んだ事を、今度は家族で達成できるのです」

「家族で、ですか、私も頑張らないといけないわね」

「そうですね、父上と母上は、まだ独身のアン姉上とファニ姉上には、ジュリ姉上とヴィイ姉上とは違う期待をされているかもしれませんね」

「政略結婚は覚悟していますが、血筋だけの無能は嫌ですわ。
 それは殿下からも口添えしていただけないかしら?」

「俺も無能を義兄上と言いたくないです。
 できるだけ多くの人々を招いて、人柄と能力を見極めましょう。
 どうしても見つからないようなら、政略結婚は止めてもらいます」

「ありがとうございます」

「ああ、意外と早く決まったようですね。
 小さい子がいますが、あの子が仲間とは思えません。
 成人が誰もいなくて、あの子にするしかなかったのか?
 それとも、幼君を担いで好き勝手する気なのか?」

「それでも、あの子を大公王と認めて和平条約を締結されるの?」

「はい、どれほど幼くても、どれほど愚かでも、大公王として扱います。
 俺と連中が一度でも大公王と認めたら、それだけの価値が生まれます。
 その上で、利用できるのなら利用します。
 助けてあげたくなったら助けます」
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